第115話:今後
俺は剣を構え、ナディアたちに呼びかける。
「みんな、いけるか!?」
「大丈夫、まだまだ戦えるよ!」
「私も問題ありません! 倒しましょう!」
「ここで戦わなければ、騎士としての名折れだ!」
戦闘態勢を取る俺たちに、マリオネット王女の笑い声が降ってくる。
『パパに勝てる人間なんか存在しないわ。あなたたちは無様に殺されるだけなの。……ねぇ、パパ、この鎖を解いて? 一緒にあいつらを殺しましょう』
最強と謳われる"魔王"の出現に勝利を確信しているらしい。
鎖の破壊を防ぐため、さらに魔力を込めようとしたとき。
黒い影は淡々と告げた。
「お前はもう用済みだ」
『……え? 何を言っているの、パ……がっ!』
突然、マリオネット王女の胴体は黒い影に貫かれた。
彼女は血を流しながら、絶望の表情で呟く。
『パ……パ……なん、で……こん、なこと……?』
「使い道がなくなったからだ」
直後、マリオネット王女は影からあふれた黒い炎に包まれた。
『いやあああ、熱い! 助けて! 助けて、四聖さ……!』
断末魔の叫び声を上げ、瞬く間に焼失してしまった。
マリオネット王女の死体は、灰となって無残に散りゆく。
「な、仲間を殺しちゃうなんて……」
傍らのナディアは息を呑む。
巨大な黒い影は夜空に漂いながら、落ち着いた声音で俺たちに話した。
「初めまして、アスカ・サザーランドとその仲間たちよ。その様子からは、俺が"魔王"だとわかってくれているらしいな」
「ああ、俺たちはずっとお前を探していた。モンスターを支配し、魔族四皇を操り、人々を苦しめられるのも今日で終わりだ」
「まぁ、少し話そうじゃないか。戦いに来たわけではない。……今、俺は王国中に新種のモンスターを襲撃させる計画を進めているところだ。もうじき、準備は完了する」
俺たちをかつてない緊迫感が包む。
一方、"魔王"は淡々とさらなる言葉を続けた。
「元来、モンスターの方が人間より強い。一方、お前たち人間は戦いを経て情報を集める。名前や能力、弱点などの情報があるから、冒険者や騎士どもは対等に戦えるのだ。そんな力関係で、全ての情報が一切不明なモンスターが大量に暴れたらどうなるだろうな。王国は大混乱に陥ると思わないか?」
"魔王"の話すことは間違ってはいない。
モンスターがこの世に生まれてから、過去の人々が懸命に戦い、呼称をつけ、その能力や有効的な戦い方などの情報を積んでくれた。
今を生きる冒険者や修道会の騎士たちは、それらの情報を活用することで強いモンスターとも戦うことができるのだ。
今まで蓄積された情報が通用しない新種のモンスターは、たしかに大きな脅威だ。
だが……。
「俺たちがそんなことをさせると思うか? その前にお前を倒す!」
剣を硬く握り締め、告げる。
善良な人々を傷つけさせるような真似はさせない。
俺に続き、ナディアたちもまた声を張り上げた。
「そうだよ! みんなは私たちが守る! 誰も殺させないよ!」
「あなたの計画は達成されません! 私たちが防ぎます!」
「この国の人間は、騎士じゃなくとも冒険者じゃなくとも強い! モンスターの群れ如きで滅びるものか!」
俺たち四人の声が響き渡ると、黒い影は楽しそうに揺れながら笑った。
「くはははっ、威勢の良い連中は好きだぞ! 好きついでに、もう一つ教えてやろう。新種のモンスターは、俺を倒せば全て消える。王国の北にあるカッシア山麓地帯に来い。そこの最北端に俺の城が聳える。特に、アスカ・サザーランドよ、お前とは"話したいこと"もある。ぜひ来てくれると嬉しいところだ」
言い終わると同時、黒い影は霧散するように消えてしまった。
"魔王"の魔力が消え、周囲は完全な静寂に包まれる。
すぐさま、ナディアたち三人と話し合いを始めた。
「アスカ、これからどうしよう。"魔王"が攻めてくること、みんなに知らせなきゃ」
「かなり大規模な戦いになりそうです」
「新種のモンスターか……。討伐には組織的な対応が必要だ。私たち修道会と冒険者の溝が少しでも埋まっているといいのだが……」
彼女たちと話しながら、俺の頭には王都を発つときイセレに言われた言葉が蘇った。
「イセレの神託に出た、国中を襲う危機……それは"魔王"による襲撃だったんだ。まずは王都に知らせよう。みんなを守るためにも、これから訪れる危機に備えなければならない」
俺は魔力でできた鳥を生み出し王都に飛ばす。
今回の顛末についての記憶を埋め込んだので、イセレが受け取ったらすぐ情報を共有できるはずだ。
魔力鳥を見送ったところで、シャノンを抱いたカルロスが俺たちの前に来た。
「アスカ君……私はようやく、何をしでかしたか理解したよ……。なんて……なんて詫びればいいんだ。魔族四皇の思惑に協力し、あろうことか君たちを攻撃してしまった……」
カルロスは涙を流して謝罪する。
今回の件で、一番の被害者は彼だ。
俺はそっとその両肩に手を置く。
「あなたが謝る必要はない。全て、マリオネット王女が悪かったんだ。その代わり、シャノンは丁重に埋葬してあげてほしい。彼女が一番、あなたを思っているはずだから」
「……申し訳ない……っ。本当に申し訳ない……! 私が愚かだった……!」
カルロスはシャノンを抱き締め嗚咽する。
彼のすすり泣きに神妙な思いでいる、街の方角から歓声が聞こえた。
屋敷から逃げた群衆だ。
彼らはまだ"魔王"の出現について知らないためか、高揚した表情で周囲を取り囲んだ。
「魔族四皇を倒してくれたのですね! さすが、四聖の方です!」
「どうなることかと思いましたが救われました! あなたがいなかったら、今頃私はこの世にいなかったでしょう!」
「もしかして、全ての魔族四皇をお一人で倒してしまったのでしょうか!? いやはや、恐れ入りました!」
我先にと、マリオネット王女の討伐を感謝する。
彼らの中にいた私兵たちはカルロスに逃げてしまったことを謝罪するが、カルロスは責めるようなことはしなかった。
感謝の言葉が飛び交う中、俺は群衆に静かに呼びかける。
「みんな、ありがとう。大きな怪我がないようで何よりだ。だが、あいにくと勝利の余韻を感じている暇はない。どうか落ち着いて聞いてくれ。たった今……"魔王"が出現した」
群衆を驚きが包む。
事の経緯を端的に伝えると、徐々に喧噪は収まった。
みな、国の危機にひどく緊張しているようだった。
「"魔王"の出現と、新種のモンスターの襲撃は国の一大事だ。でも、安心してほしい。俺たちが必ず"魔王"を討ち取ってこの国に平穏をもたらす。だから、まずは落ち着いて行動するんだ。パニックになってしまうのが一番まずい」
周囲に呼びかけると、群衆は冷静さを取り戻した。
続けて、俺はカルロスに話す。
「カルロス、この島はあなたの領地だ。指示を出してくれるか?」
「ああ、もちろんだ。全て私に任せてくれ。……みんな、今聞いた通りだ。まず、島中に緊急事態宣言を敷く。住民を街の広場に集めるんだ」
完全に立ち直ったカルロスは指示を出し、住民や客、私兵たちは各々の行動を始めた。
そして、俺たちは……。
「このまま、カッシア山麓地帯に向かおう。最北端にある城とやらに行き……"魔王"を倒す」
俺の言葉に、ナディア、ティルー、ノエルは力強く頷く。
"魔王"討伐を目指す俺たちの旅は、最終局面を迎えようとしていた。




