第104話:別れと近道
翌日、フローレの町を発つときが来た。
今は草原との境界におり、住民総出で見送りに来てくれた。
群衆の中からルースとソフィアが歩み出て、俺の手を力強く握る。
「アスカ様、お仲間の皆様、本当にお世話になりました。皆様のおかげで、サリーと再会することができました」
「ありがとう、四聖さん。お母さんもみんなに会えて嬉しかったって。また遊びに来てね」
「こちらこそ、昨日は俺たちを泊めてくれてありがとう。おかげですっかり休めたよ」
昨晩はルースの自宅に宿泊することになり、温かい歓迎を受けたのだ。
ナディアたち三人も感謝の言葉を口にする。
「ふかふかのベッドで気持ちよく眠れたよ! お日様の匂いがしてぐっすり眠れちゃった!」
「おいしいお料理をありがとうございました。ルースさんはお料理がお上手なのですね」
「ソフィア、お前は剣の筋がいい。大人になったらぜひ修道会に来てくれ。私たちはいつでも歓迎する」
一日程度しか過ごしていないのに、すっかりソフィアとも仲良くなれたようだ。
そこまで話したところで、ルースが思い出したように俺に尋ねる。
「そういえば、アスカ様たちはどこを目指していらっしゃるのですか?」
「最終目的地は、西にあるエリュシオン島だ。ちょっと気になることがあってな。まずは定期船が出ている港町、リリンドラに行こうと思っている」
「……なるほど、西ですか。でしたら、近道がありますよ。……ソフィア、家から地図を持ってきてくれるかい?」
「はーい!」
ソフィアが持ってきてくれた地図を広げ、ルースが道を説明してくれる。
「先日町に訪れた行商人から聞いたのですが、メイン街道は十日ほど前の大雨で地面が崩落した……という話です。現場の周辺に村や町はないので復旧作業は進んでおらず、きっとまだ通行できません。迂回ルートはありますが、最低でも三倍の時間はかかるでしょう」
「二倍か……。それはちょっと時間がかかりすぎるな」
「ですので、近道をおすすめします。地図にも載っていない小さな道ですが、僕たちフローレの住民はよく使う道です。ちょうどこの辺りです。川沿いに進んでください」
そう言って、ルースは地図に道を記してくれる。
草原の横に広がる森の中を進む道であり、メイン街道より二日は早く進めるという話だった。
王都では手に入らなかった情報で、非常にありがたかった。
「ありがとう、情報助かるよ、ルース。俺たちの旅は少々急いでいてな。時間はなるべく節約しておきたいんだ」
「それならよかったです。これくらいしかお礼ができず申し訳ありません。旅の資金などもご提供できたらよかったのですが、お恥ずかしいことにあまり余裕がなく……」
「いや、むしろ金銭以上の価値ある情報だ。それにお金は俺たちに使わず、ソフィアに少しでもおいしい物を食べさせてやってくれ。じゃあ、俺たちはそろそろ行くよ。……サリーにもよろしくな」
俺が伝えると、ルースとソフィアは穏やかな笑みを浮かべた。
名残惜しいが、いつまでも滞在するわけにはいかない。
歩き出すと同時、町からは歓声が沸いた。
「皆様、お元気でー! 必ずや、またお会いしましょう!」
「ゴーストを倒してくださったときは、討伐シーンなのにすごく綺麗で印象的でした! 絵の題材にさせていただきます!」
「次いらっしゃるときは魔法と剣術を教えてください! 皆様に教わったら、モンスターも怖くありません!」
今まで訪れた町と同じように、フローレの人々も俺たちの背中を押してくれる。
彼らの笑顔が見られるのは、平和あってこそだ。
このような光景がずっと続くように、俺たちは頑張らなければいけないのだ。
改めて気が引き締まる思いで歩を進め、草原横の森に入る。
緑豊かな一方で明るい日差しが差し込み、全体的に爽やかな雰囲気だった。
小川はすぐに見つかり、小鳥が囀る長閑な川沿いを歩く。
しばらく歩いていると、不意にノエルがぽつりと呟いた。
「十日前なんて近さに大雨が降ったとは……やはり、私は雨女なのだろうか……」
たちまち、俺とナディア、ティルーの間にはある種の緊張が走る。
「ま、まぁ、ただの偶然だと思うぞ! 天気なんて、晴れもあれば雨もある! 諸々落ち着いたら、またイセレに祈祷してもらおう!」
「そ、そうだよ! 偶然だって! 十日って結構前だから!」
「晴れてます! 今は晴れてます! 雲一つなく晴れてます!」
みんなでノエルを慰めると、彼女は元気を取り戻したようだ。
「……そうだな! 天気なんてただの偶然だ!」
笑い合う俺たちを小川のせせらぎが包み込む。
何はともあれ、元気になってくれてよかった。
港町リリンドラを目指し、俺たちは西に向かう。




