第100話:フローレの町
王都を出発した後は順調に旅を進め、西に向かっていた。
今は丘陵地帯の街道を歩いており、休憩がてらナディアたちと一緒に地図を確認する。
「……エリュシオン島の玄関口は、マリンドラと呼ばれる港町だ。俺たちの足だと五日ほども歩けばつくだろう。基本的に毎日、島との定期船が出ているようだ」
「へぇ、船が出ているんだ。それなら助かるね」
「悪天候じゃないことを祈ろう。自慢じゃないが、私はあまり天気の運がない」
「大丈夫ですよ、ノエルさん。いざとなったら私の水魔法で渡りましょう。多少の嵐なら渡れると思います」
ノエルはやや雨女の傾向があるようで、騎士団の訓練でも雨になることが多いと零していた。
王都を出る前イセレに祈祷をしてもらったらしく、効果が出るのが楽しみだとも話す。
休憩を終え丘を一つ超えると、すぐにフローレの町に到着した。
王都とは違って道は舗装されておらず、土の匂いが鼻をくすぐる。
村が少し発展したくらいの規模で、牧歌的かつ長閑な雰囲気が漂っていた。
町の規模にしては出歩く住民が少ない気はするが、落ち着いた空気が流れる田舎町という印象だ。
空は少しずつ夕焼けに染まり、夜の訪れを知らせる。
ちょうどいい頃合いだと、俺はナディアたちに呼びかけた。
「もうじき日が暮れる。今日はここで泊まることにしよう。冒険者ギルドはないらしいが、宿屋はあるはずだ」
「そうだね。ふかふかのベッドがあるといいな~。そろそろちゃんとしたベッドで寝たいよ」
ナディアは背伸びしながら話す。
この町に来るまでは集落や村もなく野宿が多かったので、温かいベッドが恋しいようだ。
ティルーとノエルも同様らしく、俺たちは町の中心部に歩を進める。
良い宿があればいいのだが……。
そう思いつつ広場に足を踏み入れると、噴水近くの人だかりが目に入った。
多数の住民が集まっている。
人垣の間から様子が見えたが、中央には項垂れた青髪の男性が腰掛けていた。
隣には娘と思しき、同じ青色の髪をした少女が慰める光景も確認できる。
何かしらの異変を感じた俺に、ノエルもまた険しい顔で話す。
「どうやら訳ありのようだな。町の通行人が少なかったのも、ここに集まっていたからか」
「ああ、何があったのか聞いてみよう。俺たちが力になれるかもしれない」
人だかりの方に歩くと、群衆より先に少女が気付いた。
「……冒険者だ!」
剣や鞄などの装備が目に入ったのか、少女は叫ぶ。
そのまま、転びそうな勢いでこちらに駆けてきた。
「ねえ、あなたたちは冒険者だよね!? やった! 間に合うよ、お父さん!」
捲し立てる少女が噴水に向かって叫ぶと、男性が足を引きずりながら俺たちの下に来る。
「ソフィア、ちょっと落ち着きなさい。みんなびっくりしているじゃないか。……うちの娘がいきなり申し訳ありません。どうか気にしないでください」
男性は平謝りするが、ソフィアと呼ばれた少女は振り切るようにしてなおも叫んだ。
「お願い、力を貸して! 街外れの……お墓を解放して!」




