高校生編
「うへへ……おい山吹、これ見ろよ」
「ん?」
オレは鉛筆を置き、親友の方を向いた。そこに何があったと思う?
——パンツだ。
しかも、女物の。
オレの親友、田中カズヤは高らかにパンツをオレに見せてきた。はてさて、これは一体誰のだろうか?
オレは密かに恋している同じクラスのあやねちゃんを脳裏によぎらせたが、コイツが持っているとなると、もう自殺を決行するレベルなので、あり得ませんように、と祈る。
俺は真実を知るために、親友に訊いた。
「おいお前、それは一体だれのかね? さてはお主、下着泥棒を——」
「してねえわ!!」
迅速かつ正確なツッコミをくらった。そんなことを思っていると、強烈かつ、流行のギャグをこの身にくらった。
「してねえ、してねえ、してねえわ!! お前が思うより純粋じゃい! 煩悩全開お前には、死んでもわかんねえだろよお!」
親友は歌うのをやめ、こう続ける。
「……これは、俺の友達に貰ったやつだ。お前にも、見せてやろうと思ってな」
親友はそう言って、パンツをこちらに向けた。
俺は呆れたように言ったものだ。
「誰のか分からないもので興奮はできん」
「そうかい、そうかい。じゃ、遠慮なく」
親友はパンツを被った。オレはこの世のものではないものを見ている気分だった。
その時、奴は来た。
「おい、カズヤ! さっきのパンツなんだけど、間違えてオレのおじいちゃんが自慰行為する用やつだったあ……ってお前、何やってんの?」
カズヤは気絶した。泡を吹いていた。
オレは救急車を呼ぼうと思い、スマホに手を伸ばした。その時、奴は言った。カズヤの友達ではなく、カズヤの友達の友達。隣のクラスのムードメーカー、秦野義和は言った。
「何してるの——君たち」
それ以来、オレはコイツに弱みを握られている。写真は撮られていないが、コイツが言えば皆が信じるだろう。
とどのつまり何が言いたいのかというと、オレは覚悟を絞って極悪ヤンキーと戦わなければいけないというわけだ。
「義和、行くぞ」
「……ねえ、本当に嫌なら、断ってもいいんだよ。僕が、勝手にお願いしたことだし……」
オレは鼻で笑った。
なにをいまさら。オレはもう、戻れないんだよ。
「行くって言ってるだろ。義和」
義和は言う。
「ありがとう。本当に優しいんだね。山吹君は」
オレは義和を一瞥し、思う。
(オレは別に、優しくない。ただ、ビビりなだけだ)
オレたちは、隣町の高校の校門を潜った。