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その6

「うーん、思った以上に賑やかにしているね」

「……申し訳ございません、こうなる事はある程度予測出来てはいたのですが、どうしても飛んでみたくなりまして……」


 迷惑を掛けてしまったのだから、早急に謝罪をしなければならない。混乱した頭では下ろして欲しいと要求するのも忘れ、横抱きにされたままのやり取りとなってしまった。

 オリヴィアの顔は羞恥で赤く染まり、謝罪の言葉もボソボソと小さくなってしまった。

 空を飛んで、木から降りられなくなって、今は王子殿下に抱きとめられている。もはやこの心臓の落ち着きのなさは、何に対してなのか、自分でもよく分からなかった。


 しかしエフラムは、迷惑などと露ほども思っていないような穏やかな微笑みで返した。


「気持ちはよく分かるよ」


 羽が生えたら誰だって、飛んでみたいと思うのはおかしな事ではない。


「さっさとオリヴィアお嬢様を降ろして頂けませんか?」


 見つめ合う二人に、棘のある声が割って入る。オリヴィアを横抱きにしたままのエフラムを梯子を担いでいるローズが睨みつけていた。

 美人だがほんのりと吊り目で、思いやりがあって心優しいがとても気が強い。そんなローズの睨みは中々迫力があった。


「ああ、ごめん。つい」

「つい?」


 オリヴィアを下ろしながら地面に立たせてあげるエフラムへ、ローズは更に眼光鋭く睨みつける。


「……のこのこと、何しにいらしたんですか?」

「ろ、ローズ……」


 二人の様子をハラハラと見守っていたオリヴィアは、流石にローズの不敬っぷりに冷や汗が出た。


「今日はオリヴィアの様子を見に来たのと、もう一度……ちゃんと婚約を申し込もうと思って」

「もう一度……?」

「僕はオリヴィアに、先日振られているからね……」


 エフラムは寂しげに視線を下げた。

 第二王子であるエフラムがオリヴィアに求婚し、そして振られているなどと言った話は初耳だった。ローズは、目を丸くしてオリヴィアを見た。



「確か、ヨシュア殿下に婚約破棄された時に陛下がおっしゃっていらしたかも……?」


 国王陛下から、『もしオリヴィア様がよければ』と言われたが、それはオリヴィアの意思を無視する物では無かったはずだ。



「!……聖女であるオリヴィアお嬢様が、第一王子と婚約を白紙にしたから、今度はエフラム殿下との婚約を陛下は勧められたのですか!?どれだけ王家は、オリヴィアお嬢様を振り回せば気がすむんですかっ……!」

「ローズ!申し訳御座いませんエフラム殿下!侍女の不敬は私の責任です、罰するならどうか、わたしの方を」

「お嬢様!?」


 オリヴィアが深々と頭を下げるのを見て、ローズは血相を変えた。

 ローズとて、王族に不敬を働くとどうなるか分かっている。分かっていても黙っていられなかった。自分の処罰は覚悟の上だったのだ。

 だからオリヴィアに罪を被せる訳にはいかない。ローズは


「申し訳御座いませんでした」

「いや、構わない……あの事があってまだ僅かな時間しか経っていないのに、今度は弟である僕が求婚に来るなんて、印象が悪くて当たり前だよ。

 二人の事は絶対に罰しないと誓うし、むしろ謝らなくてはいけないのはこちらの方だ。謝って済む問題ではないけど……」



 真摯なエフラムを見て尚、苦々しい思いは消えないが、ローズは我慢して言葉を飲み込んだ。お陰で沈黙が続き、気まずい空気が流れたところで、オリヴィアは恐る恐る声を発した。


「お、お茶にしませんか……?出来ればお庭で……」

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