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その50

 昼下がりのサロンには、来客に合わせて着替えや支度を終えたオリヴィアの姿があった。


 叩扉の後、扉の外から使用人がエフラムの来訪を知らせに来たので、オリヴィアが返事をしてから立ち上がる。しばらくすると扉が開いて、エフラムが通された。


「お待ちしておりました、エフラム様」

「オリヴィア」


 オリヴィアの顔を見た途端、エフラムは安堵したように相好を崩した。


「最近はつつがなく過ごせてる?」

「はい、とっても元気に過ごさせて頂いております」

「良かった、安心したよ」


 入室したエフラムは、オリヴィアの隣に腰掛けた。オリヴィアも再び長椅子に腰を下ろす。


「エフラム様が励まして下さったり、周りの皆んなのお陰です。本当に皆様には感謝しても仕切れません」

「そっか、じゃあ最近は楽しく過ごせているみたいだね」

「はい、昨日なんかナタリーが……あ、ナタリーは、美人で巨乳の侍女なんですけど、誰だかお分かりになられますか?」

「えっと……他に特徴はないの?」

「え?巨乳はとても分かりやすい特徴だと思うのですが……後は巨乳なのに腰も華奢で……」

「う、うん……」


 どう反応すればいいのか、エフラムには分からなかった。


「後は、金茶の髪色で、ほんのり垂れた目元の鳴き黒子がセクシーだったり」

「髪色と目元の特徴で誰か検討がついたよ、そのナタリーがどうかしたの?」

「はい、良い香りのする蝋燭を寝室へ持ってきてくれたのです。とても良い香りに室内が満たされて、心身共に癒されました。そして神殿を思い出して懐かしくもあり……」

「そうか、睡眠に効果のある物を用意してくれたんだね。そういえば神殿でもハーブを燻して使用しているね」

「はい、神殿では浄化などの目的として用いられます。ハーブや薬草の効能について、巫女のエマがとても詳しくて、色々と教えて下さいました。あ、エマはご存知ですか?」


 エフラムは再び思案し、該当しそうな人物を思い巡らせた。


「えっと、どういう人だろう?」

「エマも巨乳なんですけど」

「どうしてそれを特徴としてあげたがるの!?そんなところ見てないから分からないよっ」


 エフラムは顔を真っ赤にして抗議した。女性の身体についての話題など、普段口にしない彼からすると、羞恥心で耐えられなかったようだ。

 それも好きな相手に、別の女性の身体についての話題をだされては、尚更反応に困る。


「見ないのですか?私は巨乳だとつい、目がいってしまいがちになるのですが……。なんと言いますか、抱きしめられるととても気持ちが良くて、羨望の中にも僅かな羨ましさもあり、複雑な思いも込み上げてくるのです。巨乳には夢と希望が詰まっています!」


 オリヴィアの力説は並々ならぬ思いが感じられる程であった。


「あっ、そうそうエマについてでしたね。後の特徴といえば、お下げ髪に眼鏡です」

「そっちの方が分かりやすいよっ、むしろ眼鏡の情報で誰か分かったよ!」


 話が一区切りついたところで、二人分のお茶が運ばれて来た。


 紅茶と共に用意されたスイーツに、二人は思わず釘付けとなった。

 小さめのチーズケーキを土台として添えられているのは、苺やブルーベリーの果物とエディブルフラワーとミント。そしてそれらをドーム型の黄金色の飴細工が網目状に覆っている。


「わぁ……これはとても美しいね……。フローゼス家のパティシエは、本当に腕もセンスも宮廷と引けを取らない程だよ」


 目の前のスイーツを眺めながら、エフラムは思わず感嘆した。


「どの角度から眺めても綺麗ですね」

「崩すのは勿体ない程だよ」


 フォークで飴細工を崩す直前まで眺めてから、二人は紅茶と共にスイーツを堪能した。


 二杯目のお茶が注がれ、きりの良いところでエフラムは話を切り出した。


「そういえば町の中心辺りに、新しく氷菓子のお店が出来たそうなんだ」


 言った直後、どのように言葉を続けるか僅かに思案した。

 先日この湖の館から、自分が連れ出した後に起こった出来事から、まだ時間があまり経過していない。町の近況報告も兼ねてはいたが、出来ればオリヴィアと一緒に行ってみたい。現在元気そうに見えるとはいえ、外出に対してどのような心情を抱くのかと、真意を測りかねていた。


 代わりにオリヴィアが呟く。


「氷菓子食べたい……行ってみたいです」

「本当?誘ってもいいのかな」

「誘って下さるのですか?」

「勿論だよ!」


 エフラムは破顔し、その声は歓喜に満ちていた。

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