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その5

 もし華麗に空を飛ぶ事事態は成功したとして、着地の際に花を踏みつけてしまうかもしれない。羽が生えてきて一週間ほど経過しているが、飛ぶのは初体験であり、着地にも慣れていない初心者だ。

 花を傷つけては可哀想だし、丁寧に世話をしてくれている庭師にも失礼極まりない。荒らさないためにも、広々とした場所を選ぶ事にした。芝生と木がいくつか疎らに立つ空間を見つけると、そこへ移動した。


 広大な庭園にポツンと立つと、オリヴィアは意識して少し羽を動かし、そしてビサリと羽を大きく広げる。


「いかがですかー?」


 少し離れた所から、ローズが張り上げながら通る声で呼びかけてくる。

 オリヴィアは緊張で、一瞬不安な表情を見せたが「大丈夫」と返答した。


 もし高く飛べたとしても、途中で力尽きてしまったらどうしようとか、直前になって不安が過ってきてしまった。


(なるようにしかからないわっ)


 実は飛ぼうとしているのは単なる思いつきでもなく、オリヴィアはずっと飛びたくて飛びたくてうずうずしていたのだ。この羽自体はいらないし邪魔だしいっその事、もげてくれると有難いとさえ思っているのも事実。しかしこの呪いのような羽の、唯一の利点である『飛ぶ』という行為のみ楽しげな思考になれる。


(だって羽って、考えれば考えるほど、飛ぶことくらいしか長所ないんだもの!)


 羽があるだけで飛べないなんて、呪われ損である。

 もうオリヴィアの心は自分で自分を抑えられずにいた。


 本来ならば大きなクッションなんてあれば着地するのにも安心だけど、そんなものすぐに用意できる訳がない。もう待っていられなかった。



 ◇



 ユヴェール王国第二王子エフラムはオリヴィアの新居に向かっていた。湖の屋敷は何度か訪れた事があり、自分も気に入りの場所であった。

 今回の訪問はオリヴィアに不自由がないか、この目で確認しないと気がすまないといった理由だ。自分の兄のせいで理不尽な目に合ってしまった、オリヴィアがこれ以上傷付かないように、確かめたかったのだ。


 到着すると使用人から、オリヴィアは庭園に出ていると言われた。花でも眺めているのかと思い、広い庭園を探していると頭上から声が聞こえてくる事に気が付いた。


「たすけてーたすけてー」


 間違いなくオリヴィアの声だった。

 だが何故頭上から?と、訝しみながら上を見上げると……何故か枝に腰掛けて、木にしがみつき、すすり泣くオリヴィアの姿をがあった。


「助けて下さい……ぐすん……」

「お、オリヴィア!?」


 エフラムは驚愕した。不自由していないかと確かめに来たにも関わらず、まさかとんでもない場所で身動きすら取れずにいようとは。これは不自由どころの話ではない。


「オリヴィア!?何でそんな所に!?」

「ぐすん。飛ぶ練習をしていたら、高さにビビってしまって、でもどうやって羽を動かしながら下に降りるか分からなくて………そして羽をはばたかせるのを止めて落下するのを想像したら怖くなってしまい、咄嗟に木に捕まったんですけど、今度は木から降りれなくなりました……」

「えぇ……」


 屋敷に到着し、オリヴィアに会えて早々謎の状況に陥っているのを目にして動揺はしたが、狼狽えている場合ではない。



「オリヴィアおいで!僕が受け止めるから!」

「怖いです……!」

「大丈夫だからっ」

「…………本当に?」

「本当に!」

「避けたりしませんか……?」

「そんな訳ないよ!」

「でも、エフラム殿下を潰してしまったら………」

「大丈夫だよ!僕を信じてっ」


 オリヴィアは思った。エフラムを信じる、とか騙されるとか、そういう事は置いておいて、ここで死んだらそういう運命だったのだと思って諦めよう。


 そう決意し、目を瞑って枝から飛び降りると、落下の感覚の直後に、抱きとめれる衝撃と、全身が包まれている感触が伝わってくる。


 恐る恐る眼を開けてみると、エフラムに横抱きにされていた。


「軽いな……その羽には重さはないのかな……」


 エフラムがポツリと零した瞬間、女の叫び声が辺りに響き渡った。


「オリヴィアお嬢様ー!!!大丈夫でございますかー!!」


 侍女のローズが必死の形相で梯子を担いで爆走してきたのだった。


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