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その24

夢と現実の狭間を揺蕩いながら、オリヴィアは微睡んでいた。

カーテンの隙間から漏れる朝の日の光が、オリヴィアのプラチナブロンドの髪をキラキラと照らす。



現在オリヴィアは枕に頬をベタリと擦り付け、枕に両腕を抱き込む方で眠っている。

元々仰向け派だったオリヴィアだが、背中の羽が邪魔でうつ伏せの体制をとらなくてはいけないので、最近はこのポジショニングで落ちついている。


「う~ん……」


オリヴィアのプラチナブロンドの長い睫毛に縁取られた瞼がピクリと動き、ゆっくりと開く。アメジストの瞳が開かれると「ふあぁ」と欠伸を噛み殺して上半身を起こした。


すると、布団の上に何か置いてある。丁度自身の腰辺りにあったのが、コロンと足の方へと転がって行った。

起きた瞬間、何だか少し重いと思っていたら…。


そして、布団の上をよく確認すると…。


太ったヒヨコのような何だか分からない灰色の鳥がぐったりと横たわっていた。

ヒヨコのようだと言っても、それの3倍程の大きさがあるように思えるが。



「ふあああああああああああ!」


「オリヴィアお嬢様ー!?」


オリヴィアの悲鳴を聞いて、ローズと女騎士ルイザが駆けつけた。

オリヴィアは寝起きであり、まだ寝間着姿なのでこういう時に女騎士の存在はとても有り難い。


早朝であるもかかわらず、ルイザは既に純白の騎士服に身を包んでいた。


「と、鳥!鳥さんが!」


「え?」


「デブ……太った鳥さんです!!」


オリヴィアに言われて鳥を見たルイザは感心したように言う。


「本当に、とても太ってますねっ」


「鳥さん、デブ…太った鳥さんしっかりしてっ!」


何度も鳥に向かって、デブと言っては言い直すオリヴィアは丸い鳥のお腹をユサユサと揺り動かした。


「食べ物…」

「喋ったぁぁぁぁぁぁ!」



突然、太ったヒヨコが「食べ物」と人語を発した事により、ローズは狼狽した。そしてオリヴィアは首を傾げた。


「食べ物…鳥の餌でしょうか?鳥は何を食べるのでしょう?虫?ミミズ?」


「げっ、私そういうの苦手ですわっ」


顔を歪めて仰け反らせるローズに対し、オリヴィアは「私は平気よ」と言う。



「では、ニワトリ小屋の餌などはいかがでしょうか?」


ルイザは太ったヒヨコに問いかけると、ヒヨコは弱々しく口を開いた。そして。


「無理」


と、短く返した。


そんな返事を聞いたオリヴィアは、このままでは本当に太ったヒヨコは餓死してしまうかもしれない、そう思い力いっぱい問いかけた。



「じゃあ、何だったらいいんですかっ!?一体何を食べて、そんなに太ったんですかーー!!」


「に……にん……」


「え?」


オリヴィアとローズとルイザの女子三人はヒヨコの弱々しい声を拾おうと耳を寄せた。


「にんげん」


シーンと部屋は静まりかえった。


「きゃーー!!魔物ですわ!人間が食べたいと言っています!人間食べてそんなに太ったのねこのデブヒヨコ!喋るし魔物で間違いありません!お嬢様、危ないのでお部屋から出ていて下さい、速攻で排除しますっ」


「待って下さいローズ嬢。まだ何か言っています」


ルイザが冷静にローズを止めると、確かに太ったヒヨコは何かくちばしをパクパクと開閉させている。



「……の、呪いですか…?」


「ちがう……人間の……食べる食べ物……」



何と太ったヒヨコは、虫でもミミズでも鶏の餌でもなく、人間の食べ物を要求してきた。


そんな太ったヒヨコにオリヴィアは優しく問いかける。


「人間の食べ物ですか?もうそろそろ朝食の時間ですから、パンとかパンケーキとか果物ならスグに用意できますが、鳥さんはどれが食べたいですか?」


「全部」


「デブーーーーー!!」


ローズは力いっぱい叫んだ。






グレン、クリストファー、ミシェルといった護衛騎士の面々がダイニングへと顔を出すと、既にオリヴィアとローズとルイザが中にいた。


オリヴィアは白のフリルワンピースに、所々青のリボンが施された、上品で可愛らしいドレスを着こなしていた。


白のドレスは、背中の純白の羽によく似合う。

そんな天使のようなオリヴィアに、三人の護衛騎士達は挨拶をしようと口を開く。



「おはようござい……何ですかそれ?」


長い赤髪を一つに束ねた騎士、クリストファーはテーブルの上の物体に目を向けると訝しむような視線をソレに送った。


太ったひよこのデカイバージョンみたいなのが、テーブルの上でガツガツとパンケーキやらパン、果物に囲まれて食料を貪っていたのだ。


「うわっ、魔獣ですか?」


驚いた表情の少年騎士、ミシェルがオリヴィアに問う。


「何だか分からないんです。」


「えぇっ、危なくないですか!?」


よく分からないと答えたオリヴィアの言葉に、慌てる三人の護衛騎士達に反応したかのように、太ったヒヨコは水を飲んでから一息ついた。


そして語り始めた。


「僕は聖女の使いであるフェニックスだよ。フェニックスのフェリクスだよ」


声は意外に可愛らしく、幼い男の子といったイメージだ。言葉を話し始めたのを見て、クリストファーは指を指した。


「喋るんですかこれ?」


「そうなのです。喋るのです。フェニックスですか、フェリクスですかどっち何ですか?」


「フェニックスが種類で、フェリクスが名前だよ」


「ややこしいな…」


クリストファーは胡散臭そうな目を鳥に向けるが、隣でルイザが顎に手を当てて冷静に発言する。


「ふむ、確かに宗教画には聖女とセットで大きな鳥が描かれている事もありますね。フェニックス、不死鳥か。名前の方のフェリーは運ぶの意味もありますね」



「初代の聖女は大きな美しい白い鳥の背に乗りこの地へとやって来て、この国を浄化されたと聞きます。確かに白くて美しい鳥は聖女の使いとされ、伝説では聖女は天に召し上げられる時に羽を授けられ、天へと上って行ったとか」


淡々と語るグレンの話を聞いて、ローズは太った灰色のヒヨコを見た。


「絶対違うと思います!」

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