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その13

「流石ローズだわ!とっても物知りねっ」


「兎に角ですね、何方も大変危険な存在の可能性大という事に変わりありませんっ」


そう言い切るローズに焦ってグレンは懐から書簡を取り出した。



「ま、待って下さい。さっきもいいましたが、自分達は王命でこちらに来ていて、陛下直々にオリヴィア様の護衛を言い渡されました。ちゃんと陛下の印もここに」


「まぁ、本当」


オリヴィアが確認するとそこには確かに陛下のサインと印があった。



「そうですねぇ…」


腕を組み、う~んと考えるような姿勢を取ったオリヴィアは次の瞬間、閃いたとばかりに表情ををパァっと明るくさせた。


「私の作った焼きたてクッキーを食べる事が出来たら、私の護衛だと認めましょうっ」


「え、クッキー…ですか?」


オリヴィアの提案に、三人の騎士は呆気に取られ、ローズは「兎に角誰かに食べて貰いたいんだな」とオリヴィアの心情を理解した。



「オリヴィア様は料理をなさるのですか?」

「そうです、つい数日前から」

「数日前……」


「でも安心して下さい!我が侯爵系自慢のパティシェ監修の下、ローズと作りましたので味は多分大丈夫です!多分っ。まだ味見はしていませんが」



何度も多分を繰り返すと余計怪しく思われるものだが、オリヴィアには他意はない。

そんなオリヴィアの前で、クリストファーが手を挙げ身を乗り出した。


「私は頂きますっ。オリヴィア嬢とローズ嬢が手ずからお造りになったクッキー。頂かないわけにはまいりません!」


「他の皆様はどうなさいますか?これは言わば入団試験です」


「……い、頂きます…」


グレンが呟くと、ミシェルも焦ってコクコクと頷いた。半ば脅しのような形で、クッキーの試食会が始まった。


白いテーブルの上には全員の、クッキーが乗せられた小皿が置かれ、ティーカップには淹れたての紅茶が注がれた。


「やはりクッキーにはミルクティーですかねぇ」


そう言ってオリヴィアは自身の紅茶にミルクを継ぎ足し、他の者達はストレートで頂くことにした。



「わぁ、このクマのクッキー凄く可愛いですねっ、クマがアーモンドを抱えてるっ」


ミシェルはクマのクッキーを手に取り、楽しそうにマジマジと眺めた。


「貴族令嬢が料理などと驚きましたが、中々いいご趣味ですね。とても美味しそうです」


「オリヴィア嬢とローズ嬢が作って下さったと思うと、それだけで最上級の物の様に思えます。食べるのが勿体ないくらい…」



「そういうのはいいので、早く食べて下さい」


オリヴィアはクリストファーの言葉を遮った。騎士達の美辞麗句より、取り敢えずオリヴィアは早く味の感想が欲しかった。



全員が同時にクッキーを口に運び、次々と皿の上のクッキーが無くなっていく。



「本当に美味しいです、このクッキー!紅茶にとっても合います!」


ぱくぱくとクッキーを口に運び、全て食べ終えてから、お茶を一口飲んだミシェルが弾んだ声で感想を述べた。



「本当ですか!?お世辞でも嬉しいですっ、パティシエが側で教えて下さったお陰ですわっ」


「お世辞ではなく本当に美味しいです。食感も味もとても好みです」


グレンもほぼ食べ終えている。



「そうですとも、とても美味しいクッキーですが、オリヴィア嬢とローズ嬢が作って下さったと思えば更に……」



「失礼致しますお嬢様、またお客様が……」


またしてもクリストファーの話は遮られた。

今度は侯爵家の侍従によって。



そして侍従が開けた扉から現れたのは、パリっとした純白の騎士服を着こなした、マゼンダ色の髪の騎士だった。



「すみません、遅くなりました。私だけこちらへの移動が昨日急遽決まりましたもので、手続きやら片付けやらで、朝から王宮の方で時間を取られてしまいました」


「!!!!」


その騎士を見た途端、オリヴィアは目を見張った。



「でも、早く姫にお会いしたくて、急いで馬をかっ飛ばして来てしまいました」



サラサラのマゼンダの髪をなびかせ、颯爽と歩いてオリヴィに跪いたのは美しい男装の麗人あり、この国では珍しい女騎士。彼女の名はルイザ・ファニエール。



女騎士はキリリと美しい琥珀の瞳でオリヴィアを見つめるとオリヴィアの手を取り、口付けを落とす。



「ま、まぁ……っ」


オリヴィアの頬が一瞬で薔薇色に染まった。


見目麗しい騎士が多いと言われている、第一王子の近衛騎士の中でも、ルイザは女性の身でありながら、特に貴族令嬢の中で人気があると言われている。


「る、ルイザ様まで?あ、そうだわ。今皆さんにお茶とクッキーをお出ししていて、お茶会をしていた所なのです。よければルイザ様も如何でしょうか?私とそこのローズで一から作りましたの」


「すぐに新しいお茶をお持ち致します」


ローズは淑やかに頭を下げると、直ぐにお茶の用意をするべく、サロンを後にした。


それを見て、三人の男騎士はあれ、お茶会だっけ?入団試験ではなかったの?と思ったが言えるはずはなかった。



「ルイザ様のお口に合うかどうか…」


「姫が作って下さったと思うだけで、どんな高級なお菓子よりも私には価値があります」


そう言って、しなやかな長く美しい指でクッキーを一枚摘むと、優雅に形のいい唇へと運んだ。サクリと音が立てられる。


「まぁ、ルイザ様ったらっ」


「ああ、とっても美味しい。こんな美しい方々の手作りお菓子を食べれるなんて、私は何て幸せ者なのだろう」



オリヴィアとローズに囲まれるルイザを見て、女子達の楽しげな様子にグレンは苦々しく呟いた。


「俺たちの時と全然反応が違うような…」


「未婚のご令嬢が男を警戒するのは仕方がない。しかも少し前まで殿下の御婚約者であらせられた挙句聖女様だ。実際、第一王子直属の近衛騎士だった我々すら中々話しかける機会が無かった。男に免疫がなくて当然だ」


それはそうだし正論なのだが、何だかクリストファーに言われるとイラッとした。



「でもルイザ、クリストファーと言ってる事とやってる事ほぼ同じだもん……」


「確かに、クリストファーがチャラいのなら、アレだって十分チャラい部類だろう。性別が違うだけで」


「くっ!流石……私のライバルだ……!」


クリストファーはルイザに昔から、対抗意識を燃やしている。



三人の男騎士達は初日から、不平等の洗礼を味わわされてしまった。

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