第1章三節 天災は宿を借りたい
しばらくこっちを出そうと思います。
宿を貸せる。
少女はそう言った。
「それは本当か?お嬢さん?」
「は、はい・・・もしかしたらですけど・・・」
レガートの言葉に少女は小さく答える。
「い・・・いよっしゃあ!ありがとう!」
「きゃあ!」
野宿は勘弁だったロウグは少女の手を握り、激しく振る。
「やめい」
「べぶ!?」
少女が困っていると、レガートの手刀が入り、ロウグは頭を押さえる。
「と、とりあえず・・私に着いてきてください・・・えっと・・・」
「ああ、そういえば名前がまだだったな」
おいと言ってロウグを立たせ、レガートは背筋をのばす。
「私はレガート・ぺザント、剣聖だ。レガートと呼んでくれ」
「俺はロウグスト・ジニウス!賢者だ!趣味は遊びと酒と女の子!君のような可憐な子がタイプだなー!」
胸に手を当て、騎士のように固い挨拶をするレガートとは反対に緩く挨拶をするロウグに少女は少し戸惑う。
「えっと・・・大崎結笑です・・・。あの・・・賢者と剣聖って?」
「ああ、その話は道中で話そう。よろしく、えっと・・・大崎が家名か?」
「あ、はい」
「では結笑と呼ばせて貰うがいいか?」
「あ!はい・・・下の名前は初めて呼ばれますけど・・・大丈夫です!」
レガートは昔から親愛の証として、親しい人を家名では無く名前で呼ぶ。
これは親愛の証だ。
「じゃあ俺は結笑ちゃんと呼ばせて貰うよ!よろしくー!」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「なんか、警戒されてるな(*´・ω・`)」
「そりゃあんなガツガツいけば誰だって警戒するだろ。結笑の性格もある。あまりいきすぎるなよ」
「へーい、じゃあまり攻めないよ。攻めるのはベットの上ダケバ!?」
ロウグの不謹慎な発言に、次はレガートの鉄拳が飛んできた。
「じゃあ・・・着いてきてください・・・」
少し顔を赤らめた結笑は話題を変えるように言った。
・・・
しばらく歩きながら、レガート達は自分達の世界・・・トロンメールの事を簡単に話す。
その世界で何が起きていたか、そして自分達は何者で何をしたかを話した。
そしてなぜこの日本に来たのかも。
「戦争に魔法?そんな世界があるなんて・・・」
「ああ、にわかに信じ難いと思うが、俺も驚いている」
「お2人はロウグストさんの魔術の失敗でこの日本に来たんですよね?」
「ああ、そうだ」
「あの・・・ロウグストさん」
「ちっちっち!違うよ結笑ちゃん!俺の事はロウグと呼んでよ!ロウグストだと、なんか敬遠されてるみたいだからね!」
(実際されているがな)
ロウグの言葉にレガートは心の中でツッコんだ。
「・・・ロウグさんはその・・・魔法が使えるですか?」
「そりゃ賢者だからねー、伊達に戦争から世界救ってないよー」
ロウグは明るく笑顔で答えた。
「そうなんですね、兄弟はいるですか?ロウグさんって?」
「ん?ああ!妹が1人いるよ!名前は・・・」
「ん?ロウグ?」
「どうしたんですか?」
いきなり止まり、汗を流すロウグに2人は呼びかけた。
「やべ、あいつの事忘れてた」
「あ」
レガートも忘れていたようで、ロウグと一緒に固まる。
「ど、どうしようレガート」
「お、お前の魔法で迎えに行けばいいんじゃないか?」
「そ、そうだな」
「あの・・・大丈夫ですか?」
結笑も2人の顔を見て、心配そうに聞く。
「だ、大丈夫だよ!結笑ちゃん!」
「何が大丈夫だって?兄さん?」
「「!」」
ロウグとレガートは止まる、その怒りと殺気の満ちた声に。
「フォ、フォルナ!待て!話を聞いてくれ妹よ!」
「そうだ!ロウグの言う通りだ!」
「もう!兄さんもレガートさんも私を置いていって!本当に怖かったんだから!」
見ず知らずの土地に、1人でいたフォルナは涙目になりながら叫ぶ。
「本当に怖かったんだからね!?重い荷物と武器持って!途中変な男に絡まれるし!」
「分かったから落ち着け妹よ!大丈夫だったのか?」
「うん、とりあえず大丈夫だよ」
言いたい事が言えたフォルナは肩で息をしながら話す。
「そうか、絡まれた男は?」
「あまりにしつこいから肘と肩外した」
「それはまた運が悪ぃな、その男も」
「フォルナちゃんに言いよったのが運の尽きか・・・」
「ちょっとレガートさん、それどう言う意味?」
「いや、なんでもない」
フォルナの言葉にレガートは黙る。
「あの・・・ロウグさん?この人が妹さんですか?」
「?兄さん、この人誰?まさかまた・・・」
「いやいやいや!違う違う!この娘は俺達の希望だぞ!?」
静かに弓に手をかけたフォルナの言葉に、ロウグは必死に弁明する。
明らかな鬼の形相だ。
「?希望?」
「そう、この娘は大崎 結笑ちゃん。俺たちに宿を貸そうとしてるんだよ」
「どうも・・・大崎 結笑です。初めまして」
「大崎ちゃん、妹の」
「はじめまして、妹のフォルウナ・ジニウスです!フォルナって呼んで!種族は見ての通りエルフだよ!」
「あ・・・はい」
「ねね!結笑さんって何歳?」
「え?16です」
「私と同じだ!私も16歳なんだよ!」
「え?本当?そう見えない」
同年代に会えて嬉しいのか、敬語がなくなり、表情もだいぶ柔らかくなっている。
「あはは、よく言われるよ」
「私、20歳かと思った」
「確かにフォルナは、歳の割に大人びてるからなー」
「ああ、その通りだ」
ロウグの言葉にレガートは頷く。
エルフは基本的に年齢より大人っぽく見えるため、そう思うのも無理はない。
フォルナの身長は170あり、ロウグは180前後、レガートに至っては190ある。
その中からすれば、結笑は小さく見える。
「あの・・・フォルナさん」
「なに?結笑さん?」
「その・・・エルフって」
「ああ、そういえばこの世界じゃ人間しかいないんだったねー、私達の世界の事は聞いた?」
「う、うん」
「それなら話は早いけど、エルフは見ての通り耳が長くて、魔法が得意なんだ。私もいくつか使えるよ」
「そうなんだ」
「今度見せてあげるよ!」
「ほんと?ありがとう」
結笑は笑顔で返した。
「いいな、百合は」
「今回は全面的に賛成だ」
それを傍から見ている男2人だった。
「あ!もうこんな時間!」
「どうしたの?結笑さん?」
「そろそろ帰らなきゃ!」
「どういう道なんだ?」
ロウグはここからの道順を聞く
「えっと・・・電車に乗って、2つ先の駅で降りてそこから歩きです」
「電車?」
電車と聞いたロウグは聞きなれない言葉に、聞き返した。
「人を大量に運べる乗り物です」
異世界人である三人に結笑は分かりやすいように説明してくれた。
「ああ、俺の空間転移か」
「兄さんの魔法とは違うと思うけど」
「で結笑、その電車はどうやって乗るんだ?」
「それはですね・・・あ!しまった!」
急に結笑が頭を抱え始めた。
「結笑さんどうしたの?」
「いえ、電車に乗るにはお金がなきゃダメなんですけど、私皆さんを乗せられるほどのお金持ってなくて」
「何ー!?」
ロウグが目を丸くする。
「すみません!」
「いや、結笑のせいじゃない」
「でも!」
「大丈夫、俺達にはあいつがいる」
「え?」
「おい賢者!出番だぞ!」
「やっとこさ俺の魔法の出番だなー!」
そう言いロウグは腕を大きく回す。
「どうするですか?ロウグさん」
「まず結笑ちゃん、ここから家の方向分かる?」
「え?確かあっちです」
突然の質問に戸惑いながらも大崎ちゃんは自分の家の方向を指さした。
「そこねー。レガート!フォルナ!やるぞ!」
「了解だ」
「分かったよ兄さん」
「え?え?」
「いくぞ」
結笑を後目に、ロウグは魔法を発動する。
足下に翡翠色に輝く魔法陣が現れた。
「え?きゃあ!?」
現れた直後、結笑達の足下に風が吹き、体が浮いた。
「空の旅へ、さぁ行こう!」
そう言ったあと、凄まじい風が吹き、ロウグ達は一瞬で空に飛んだ。
「きゃああああ!?」
結笑が恐怖で目を瞑る。
凄まじい風が耳元でヒューッとなる。
「・・・?」
やがて風が穏やかになった頃、結笑はゆっくり目を開く。
「!すごい・・・!」
そこは紛れもなく空だった。
7時を下回り外は暗く、家の明かりやビルの明かりがうるさくも美しく光る
その光景に結笑は思わず目を見張る。
「すごいだろ?結笑ちゃん?」
「はい・・・!ロウグさんは本当に魔法が使えるんですね?」
「今まで信じられてなかったんだ・・・」
少しショックを受けるロウグに気にせず、結笑は周りをキョロキョロと見渡す。
「これってなんの魔法なんですか?」
「これは【飛行魔法】だよ。風の力で飛んでる」
「凄いですね、こんな魔法使えるなんて」
「【飛行魔法】が使えるのは、俺達の世界では5人もいないからな」
「え?」
「そうだよ結笑さん。腐っても賢者だからね、兄さんは」
「腐ってもは余計だ腐ってもは!」
「ふふふ」
最初は空に浮くという初めての体験に最初は怯えていた結笑も、ロウグ達の会話を聞いてとてもリラックスをしている。
「さて、このまま結笑ちゃんの家に向かえばいいんだよね?」
「はい・・・自分の住んでるアパートの管理人が私の叔母なんです。叔母にその一室を借りれないか交渉してみます」
「そうかー、じゃあこのまま行こうか!」
「はい・・・」
「大丈夫だよ、そんな不安にならないで」
「ああ、とりあえず着いたら言ってくれ」
「わ、分かりました」
「よし!じゃあ行くぜー(Σ゜Д゜)!」
ロウグは気合いの入った声と共に、一気に加速した。
「ところでアパートっ何だ?」
「・・・」
途端に不安になった結笑だった。
今週はAfte:rも出しますね。
それと賢者もさらに最新話を出そうと思っています!