第1章二節 天災が来た
ロウグ達が異世界に行きますよー
「どわぁ!?」
地面から離れた場所に穴ができ、そこからロウグは投げ出されるように地面に激突した。
目を開けるとロウグは見慣れない場所に居る。
魔術に失敗したロウグは眩しい光に目が遮られ、気づいたらここに居た。
「痛ったぁ・・・ここバ!?」
ロウグが立ち上がろうした瞬間、背中に衝撃がはしった。
「うぉ!?」
正体はレガートだった。
体重100を超える巨体が、ロウグの体に乗っかったのだ。
骨が折れなかったのは奇跡だ。
「重いんだよデカブツ!いきなり乗るんじゃねぇ!」
「ぬぅ・・・すまない」
「全く、こちとら魔法が使える以外は普通の人間と同じなんだぞ?もうちょい丁寧に扱え」
ロウグは魔法が使える以外はただの人間だ。
「そうだったな」
「そうだぜ?だからもっと・・・」
「キャア!」
「ジカンサ!?」
レガートに少しお説教し立ち上がろうとするロウグに、次は少し間をあけてフォルナが激突してきた。
「いてて・・・え!兄さんどうしたの!」
「ロウグ、お前なんか運がいいな」
「どこがだよ、野郎と妹に乗っかられても嬉しくねぇよ」
ロウグは苦しそうに言い、立ち上がった。
「さて、ここはどこだ?」
レガートに潰されて言えなかった台詞をようやく言えたロウグは、辺りを見渡す。
「一見路地裏に見えるが、こんな路地裏は王国では見た事ないぞ」
レガートの言う通り路地裏だが、こんな路地裏はルバート王国にはない。
周囲は高い壁に覆われ、壁には窓が付いている。
階段もあるが鉄製だ。
「ひとまずは外に出てみようよ」
フォルナの提案に二人は頷き、狭い道を進む事にした。
「とその前に着替えね?寝間着はさすがに恥ずい」
ロウグはそう言い、あらかじめ用意した荷物を見せた。
「兄さんに恥ずかしいなんて気持ちあったんだね」
「いやあるに決まってんだろ!?」
「そうか?お前よく酒飲んで酔い潰れてその辺の道端で寝てるじゃねぇか」
「いやあれは酒が入ってるからであってな」
「はいはい。でも確かに兄さんの言う通りに何か羽織りたいな」
「・・・(´・ω・`)」
自分の言葉を流され凹んだロウグを後目に、レガートとフォルナは自分の持ってきた荷物から上着を取り出した。
フォルナは元々出かける予定だったのでシャツとズボンは来ており、その上に緑と金の縁で彩られた上着を羽織った。
レガートはシャツの上には何も羽織らず、そのままにする事にした。
「ほら兄さん、そんなしょげてないで早くして」
「へいへい、ま俺は荷物じゃなくて空間魔法でしまってるんだけどね」
そう言ってロウグは、自分の身長と同じ位の魔法陣を発生させ、魔法陣に手を入れた。
「なるべく目立たない服装かな」
そう言って、魔法陣から黒のローブを出した。
それを着るが、はたから見たら不審者だ。
「あとレガート、俺達の武器はかくしとけ」
「おう」
3人は何が起きても大丈夫なように、武器を持ってきていた。
レガートは自分の神剣を、フォルナは弓と矢、ロウグは魔道具を持ってきていた。
それぞれの武器は布に包んで隠した。
「さて、そろそろ行くか」
そう言って、3人は明るく照らす方へ進んで行った。
・・・
「おい、どこだよここ・・・!」
そこはロウグ達のいた世界とは全く違っていた。
建物は高く、人は見慣れない服を着ており、何か薄い板をいじっている人もいる。
この環境に3人は明らかに浮いている。
事実、こちらに気付いた通行人達は何やらひそひそ話している。
「こんなの俺達の世界では見た事ねぇぞ、あ、でも女の子達は可愛いな!」
「兄さん・・・。でもこれ言葉通じるの?」
「魔族と亜人族の公用語なら喋れるが、あいつらの喋ってる言葉は全く分からんな」
「しかし、話しかけない事には・・・」
さすがの事態にレガートも動揺している。
それもそのはず、言葉はおろか文字も読めない場所に飛ばされてしまったからだ。
「ひとまず話しかけて見ようぜ」
「でも誰が行くの?」
「俺が行こう」
レガートが名乗りを上げた。
服装的に目立っているロウグやフォルナよりは、怪しまれないはずだ。
「行ってくる」
そう言って、近くにいた人に話しかけてみる。
「すいません、ちょっといいですか?」
「・・・!?・・・・・?」
急に話しかけられた女性はかなり驚いている。
けれども話しを聞く気はあるようだ。
「あー、ここって何処ですか?」
「・・・?」
女性は不思議そうな顔をしている。
とりあえず質問を何度か投げかけては見るがどれも分からなと言った様子だ。
「ダメか、レガート戻って来い」
ロウグはこのままでは相手が怯えると思い、一旦レガートを呼び戻した」
「駄目だな。向こうの言葉は聞き取れないし、こっちの言葉も通じてない」
レガートは冷静にそう言った。
「ちょっと待ってろ。ち、さすがに翻訳魔法は時間がかかるな」
「兄さん?」
「今度は俺が話しかける。ここじゃ目立ちすぎてるから移動するぞ」
ロウグの言葉に2人は頷き、場所を移動した。
・・・
少し場所を変え、ロウグは人の良さそうな人を探す。
「よし、行ってくる」
そう言ってロウグは1人の男性に近づく。
「すまん、ちょっといいか?」
「・・いい・・です」
(通じた!)
少し魔法の調整をし、再度話しかける。
「ここって何処だ?」
「ここは駅のすぐ近くですよ」
「いや、そう言う事じゃ無くて」
どうやら道に迷った人と勘違いしているらしい。
「ここの国名をだな」
「?日本ですけど」
「日本?」
聞いた事ない国の名前にロウグは困惑する。
「ええ、あなたはどこの国から?」
「え!ああ、南の方にある国から!」
「そうですか、でもその服は目立ちます。別の服に着替えた方がいいですよ」
「お、おう」
「では私はこの辺で」
そう言って男はお辞儀をし、去っていく。
ロウグは2人のとこに戻り、たった一言。
「多分ここ別の世界だ」
「「ばかぁ!」」
「ブゲェ!」
2人からの強烈なビンタで、ロウグは回転しながら倒れる。
「どうするつもりだ!」
「まぁ待て!まずは宿を探すんだ」
「飯より宿」と言う格言をどこかで聞いた事があると、ロウグは自慢気に言う。
「とは言っても兄さん、私達はただの人だよ?元の世界の身分もこっちじゃ使えないし」
トロンメールでは絶大な力を持った賢者や剣聖でも、この日本と言う別の世界ではただの人間だ。
しかも身分もないので、恐らくこの国では不法滞在と言う扱いになる。
言葉はロウグの翻訳魔法で何とかなるし、文字も覚えるか翻訳すればいいだけだが、さすがにまずい。
「どうしたら・・・」
頭を抱えるレガート、そんな時だった。
「や・・・て・・・くだ・・・」
「ん?」
「やめ・・て・・・」
遠くから聞こえる声に、フォルナが反応する。
「兄さん、レガートさん!なんか聞こえる!」
「え?」
「やめてって声が!」
「どこから聞こえるんだ、フォルナちゃん?」
「あっち!」
そう言ってフォルナは指を指す。
フォルナは昔から耳が良かった。
「こりゃ宿探しは中断だなレガート」
「ああ、まずは悪漢の撃退だ」
そう言って、ロウグとレガートは屈伸する。
「フォルナ、俺達の荷物頼んだ。あと武器も」
「兄さん!」
「フォルナは後からついてこい」
ロウグは魔力を溜める。
するとロウグの脚部に風が発生し、その風はどんどん強くなっていく。
「行くぞ」
「おうとも!」
レガートの合図で2人は駆け出した。
「わ!」
レガートのあまりの踏み込みとロウグの風で、フォルナは一瞬目を閉じる。
目を明ける頃には2人の影はなかった。
「・・・は!早く追わなきゃ!」
フォルナも兄から渡された荷物を持って慌てて駆け出した。
・・・
「やめてください!私は行きません!」
声がだんだん近くなっていく。
途中で通行人の横を通るが、あまりの速さに口を開けている。
ロウグは風の魔法で走っているのに対し、レガートは完全な足だ。
小細工は無い。
「いた」
わずか三分で、その場所についてしまった。
「やめてください!」
「だから悪い様にはしないって、な?」
どうやらナンパらしい。
「おいやめろ、嫌がってるだろ」
「ああ?」
まず口を開いたのはレガートだ。
男達は一瞬レガートの背丈にビビるが、隣のロウグを見てまた睨む。
「こんな少女を無理やり連れ去ろうとするとはな・・・この世界も前とは変わらんか」
「ああ?訳分かんねぇこと言ってんじゃねぇ!」
男の1人が怒声を上げながらレガートに近づく。
「ふん」
「ぐお!?」
しかし次の瞬間、近づいた男が吹っ飛ばされた。
レガートの見えない高速の蹴りを真正面から食らえば誰でもそうなる。
「!・・・てめぇ!」
「やっちまえ!お前ら!」
そう言ってそこにいた7人の男達がパイプを持って一斉にレガートに襲いかかる。
「馬鹿だなぁ、アイツらも。長年殺し合いしてきたあいつに叶う訳無い」
しかし男達にそんなのを理解出来るはずもなく、1人、また1人と吹っ飛ばされていく。
「おい!やべーって!」
残り3人になってようやく気付いた男達は、引き腰になっている。
「そろそろか。レガート、後は任せろ」
ロウグは重い腰を上げ、前に出た。
「よし、あの貧弱そうな男なら勝てる」
ロウグが前に出ると、男達は変わってまた喧嘩腰だ。
「本当に阿呆だな」
ロウグはそう言った後、意識を集中する。
「失せろ」
そう言った後、男達の体は地面にふした。
「え?何が」
少女は何が起きたか分からない様子だ。
「さて・・・大丈夫かいお嬢さん!さあ無粋な輩はいなくなりました私と夜を一緒にスゲダ!?」
「全く、ちょっとかっこよくなったと思ったらこれか」
隙あらばナンパするロウグにレガートの鉄脚が下った。
「え?あの?」
「すまないそこの少女、こいつは女性を引っかけないと死ぬ病でな。怪我は無いか?」
「は、はい・・・あの!ありがとうございました!」
少女は目いっぱい頭を下げる。
見た目はかなりおしとやかで、礼儀正しい少女だ。
「いや、構わない。女性を守るのは剣聖として当然の事だ」
「え?剣聖?」
「ぐぐぐ・・・あともうちょいで花園が!」
「お前はどさくさに紛れて下着を見ようとするな!」
ロウグは少女のスカートの中を覗こうとし、レガートに踏まれた。
少女も咄嗟にスカートを押さえる。
「恥じらう姿も可愛いねー!」
何事も無かったかのように立ち上がり、ロウグは少女に近づく。
「おいロウグ!」
「待て待てレガートォ、そろそろか宿決めなきゃまずいぞ?ここまで見てくれた読者も飽きてるぞ?物語は短い方がいい」
「お前は何を言っているんだ?」
「え?家無いんですか?」
今まで黙っていた少女が喋った。
「ん?ああ、俺たちはいきなりここに飛ばされてな。必要最低限の荷物だけで宿も無ければ金も無い」
「そ、だからお嬢さん、君の家に泊まらせてくれない?」
「え?それはちょっと・・・」
「そうかー、それは残念」
「お前がそんなにすぐ引くとはな」
「誘うってのはそんな簡単じゃないんだよレガート君」
「でも、私の家は無理でも私の叔母に言えば、宿を貸してくれるかもしれません」
「「え!?」」
レガートとロウグは一斉に少女の顔を見た。
読んでいただき、ありがとうございます。