1日1ストーキングしてくる天沢さん
成績、運動、容姿。
全てにおいて、平凡中の平凡である俺でも、高校生活はそれなりに楽しめているつもりだ。
そもそも、そういった能力は付加価値であるため、人間が生きていくに当たって、必要条件ではない。
故に要らない。
そこそこの友達がいて、そこそこ行事にも参加して、時にはそこそこ馬鹿なことをやってみたり。
それでいいじゃないか、人生なんて。
ずっとそういうモットーを掲げてきた俺だ。
変化なんて、求めたつもりはなかったんだけどな。
こそっ。
……来たか。
どうやら今日は昼休み時間中にするようだ。
トイレに行くためにちょっと席を外しただけなのだが、どうやらその隙にやられたらしい。
「天沢」
「……」
「悪いけど、ばればれだ。」
そう言うと、観念したのかようやく物陰から姿を現した。
「どうして!?今日こそは完璧だと思ったのに!」
「お前の完璧は、言うほど仕上がってないぞ」
俺の前に出てきたのは、なんと学校一の美少女こと、天沢 結衣だった。
そう。何を隠そう、俺はこの少女に、1日1ストーキングされているのだ。
……。
「じゃ、そゆことで」
「!ま、待って秋月くん!」
教室に戻ろうとした俺を、天沢は必死に呼び止めた。
やはりそこはストーカーゆえ、簡単には返してくれないらしい。
「秋月くん、お願い待って。今日は、だめ、なの……?」
「……はぁ。分かってると思うが、説教からだからな。」
「う、うんっ!」
そんな可愛くお願いされたら、叶えてあげたくなるに決まってるじゃないか。
というのも、ストーキングがばれた後に、俺と天沢は少しの間だけお話をする事になっているのだ。
何故かは知らん。
というわけで、俺達は空き教室に来ていた。
屋上なんて使えたら夢があるのだが、人生そんなに甘くない。
「大体な、天沢。ストーキングなんてしなくても、普通に話しかけてくれれば応じるっていつも言ってるだろ」
「うんっ、うんっ。」
……いや、なんで説教されてんのに、そんなに嬉しそうなんだよ。
といっても、毎回この説教が意味を為し得ない事を俺は知っていた。
形だけだ、形だけ。
「……。」
「ん、なーに?」
「……いや、なんでもねえよ。」
天沢は、凄く幸せそうな顔をしていた。
俺はそういう人の顔を見るのは嫌いじゃない。
だから、仕方なく毎回許してしまうんだよな。
「……天沢、今日の午前の授業、なんだったんだ?」
「!あのね、聞いて聞いて!今日の数学の時間、秋月くんの事考えてたら先生が、真面目に授業受けろって怒ってきたんだよ?!」
「いやお前、この前も同じような事で怒られたって聞いたんだけど」
「秋月くんの事考えてる時くらいほっといて欲しいの!」
結局、毎回諦めて普通に世間話をしてしまうんだよな。
ストーキングはやめて欲しい。
だが、彼女とこうやってお話する時間は、嫌いじゃない。
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