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準備①


 広場での演説から直ぐに、作業は始まった。

 最優先で行われたのは、聖伐隊の工作員が根城にしていた通路の封鎖だった。街の外にある出口から内側の迷路も全て、完全に塞ぐ作業だ。


「ふう、ふう……」「よい、しょっと!」


 街の外から土や木材を持ってきて、厳重に塞いでいくのは、男衆の役割だ。獣の力を持ち、耳と尾を揺らしながら、上着を脱いで土や木を運び、固めてゆく。


「結構枝分かれしてるんだな、この通路。きりがねえぜ」


「旅人達が言うには、徹底的に塞いでくれとさ。実際、聖伐隊が使ってたしなあ」


「確かにそうだよ。ここを掘り返されて侵入されちゃ、ひとたまりもねえからな」


 文句は漏らすが、手は休めない。この作業をぬかれば、家族に危機が及ぶ。


「ほら、水分補給はしっかりとしておくれよ!」


 その家族――つまりは土木工事に向かない女性や子供達にも、仕事がある。

 水の入ったジョッキと山盛りのパンが入った木箱を、子供達が四人がかりで運んできた。大人の女性は一人で持ってくるが、大抵は地上で食事造りに徹している。

 老人達も同様で、衣服やタオルを準備して、とにかくサポートに努めるのだ。


「おじさん、お兄さん! パン屋さんがこれ、皆で食べてくれって!」


「おう、助かるぜ!」「一旦休憩だ、お前ら!」


 男衆が休憩時間に入った頃、ティターンの屋敷の大広間では、首脳陣による作戦会議が始まっていた。大きなテーブルには地図が広げられ、ギャング達が集まっている。

 そんな屋敷に、外からクレアが入ってきて、ハーミス達に報告した。


「ハーミス、封鎖作業は順調よ。この調子なら、今日か明日には通路は埋まりそうね」


「よーし、とりあえずは一安心だな。街の男衆には引き続き作業してもらって、女性や子供、老人にはその周辺のサポートに徹してもらうか」


 ハーミスはありがたいといった様子だが、リヴィオ達はどこか不安げだ。


「それもいいんじゃが、街の周囲に防壁を張り巡らせたり、溝を掘る必要もあるんじゃないか? 門以外から攻められると危険じゃぞ」


「そんな時間はねえだろ。それに、もっといいモンを買ってあるから安心しとけ」


 買うと聞いて反応を見せたのは、巨大な地図を眺めていたニコだ。


「買う……『通販』(オーダー)スキルだな。ここにある金でとんでもないアイテムを買えると言っていたが、信じていいのか?」


 ハーミスが頷く。


「勿論だ。これだけの金があれば何でも……いや、それにしてもすげえ光景だな」


 広間の壁一面を埋め尽くすほどの木箱――中身の紙幣、貨幣を前にして、頷く。

 ハーミスの所持金と認識されたこれらの金は、『注文器』(ショップ)にもしっかりと反映されていた。十万、百万ウルどころではない金額が、青いカタログ画面の下に表示されていて、流石のハーミスも、金銭に無頓着のルビーも、驚かざるを得なかった。


「お金、いっぱいだねー……」


「双方のギャングからありったけの金を集めてきた。惜しみなく使ってくれ」


「助かるぜ、ニコ……お、この音は!」


 これだけあれば、大体の事柄はどうにでもなると確信したハーミスの耳に、ジャラジャラと金属を持ち運ぶ音が聞こえてきた。

 それが屋敷の前に下ろされた音を聞いたハーミス達は、どたどたと屋敷の外に出た。

 一同の眼前に映ったのは、これまた山盛りの武器だった。ギャング達が運んできたのもそうだが、彼らだけなら何往復もしないといけない量を一度に運べたのは、今も桃色のオーラで剣や斧を何十本も担いでいるエルのおかげだろう。


「持てるだけの武器を集めてきました。ですが、少々問題もあります」


 がしゃん、と全ての武器を下したエルの顔は、やや険しかった。


「オリンポスの武器は基本的にこの仕込み杖だけで、威力に難があります。ティターンの武器は種類に富みますが、手入れが為されていません。これでは心許ないですね」


 彼女の言う通り、綺麗な武器は細い仕込み杖だけで、ティターンの所有物らしい斧や槍、剣や鉈はどれもこれも多少なり錆びているようだった。

 どうやら、今日彼らが持ってきた武器だけが、まともに使えるものだったようだ。


「お前ら、武器の手入れはしとけとあれほど言っとったじゃろうが!」


「「す、すいません、頭!」」


 リヴィオに怒鳴られて委縮する子分達に呆れつつ、ハーミスは『注文器』のカタログ・ディスプレイをスライドし、必要な物を注文し、ボタンを押す


「なっちまったもんは仕方ねえ、『通販』で武器を調達するぞ」


「武器って、銃を?」


「一日二日で覚えられねえだろ、使い方なんて。ラーニングだって一人が限界だから、ここは原始的に、ストレートに、っと!」


 そしていつも通り、虚空からバイクに乗ったキャリアーを呼び出した。


「お待たせしました、『ラーク・ティーン四次元通販サービス』でございます」


 商品の数が多い為か、小さな一軒家ほどの大きさがある鈍色の箱を引きずってきた彼女に、やはりリヴィオとニコ、子分達は驚き、飛び退いた。


「なっ!?」「だ、誰だ!?」


「このリアクションも、もうすっかり慣れたもんよねえ」


 肩をすくめたクレア達に一礼しつつ、キャリアーはバイクと箱の接合部分を外す。


「またのご利用をお待ちしております」


 そして、これまたいつも通り、バイクで闇の中へと消えていった。ぽかんとする獣人街の住民を横目に、箱の中央の銀色のボタンを押した。

 すると、箱の側面が割れて、中から無機質のハンガーに吊られた剣と盾のセットが出てきた。剣は細く、先端は尖っていない。盾は長方形で大の男一人分くらいの大きさ。剣は半透明で、盾は完全な透明、いずれも握りは真っ黒。

 しかもそれは一つや二つではなく、どう見ても百以上は出てきている。そのうち一つを掴むと、ハーミスは剣をリヴィオに、盾をニコに渡した。


「『白兵戦剣盾セット』だ、対装甲特殊鋼材製の剣と、透明だけど超硬質軟性素材で作られた盾だ……ほら、実際に使ってみろ」


 そのスペックは、間違いなかった。


「凄いな……こんなに軽い盾は初めてだ」


 ニコの体躯でも、巨大な盾を軽々と振るえた。それなのに、盾を試しに地面にぶつけてみても、凹みもしなかったし、傷すらつかなかった。


「それなのに見ろ、この切れ味! たまらんのう、これは!」


 リヴィオが地面に剣を押し込むと、先端が尖っていない長方形型の刃なのに、見事に突き刺さった。とんでもない切れ味の武器を見つめ、ニコはハーミスに言った。


「成程、これが『通販』か。大したものだな、ハーミス」


 そうだ、これが『通販』だ。

 やや自慢げに、そんな意味合いを込めて、ハーミスは小さく笑った。


【読者の皆様へ】


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というかやる気がめっちゃ上がります!毎日更新もこのおかげでどうにか頑張れてたり…笑

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