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 一方その頃、金細工をリュックに詰めながら歩くクレアと、両腕を組んで彼女の愚行を睨むエルの、どう見ても仲の悪いコンビがどかどかと歩いていた。

 同じ目的地でなければ一緒に歩くのも憚られると言っているようにすら見える二人の間には、仲間だというのに、軋轢すら見えている。これでもいざという時はしっかり協力するのだから、人というのは本当に分からないものだ。


「ったく、ほんとーに乗せられやすいんだから! 子供におだてられて魔法を披露してるなんて、とても最年長とは思えないわね!」


「そっちこそ、不要な物を買わないと言った舌の根が乾かないうちから貴金属を購入しますか。貴女が蒐集以外でそれを何に使うのか、皆目見当が尽きませんね」


「せいぜい言ってなさい、あたしがいなきゃ金策も碌にできないくせに……って、あれ、ルビー? 何してんのよ、あんたは」


 いつもの如く口喧嘩をする二人のうち、クレアが肉屋でルビーを見つけた。

 驚くことに、彼女は肉屋の女店主が渡した肉を、受け取った傍からもりもりと食べていた。ついさっき朝食を取ったばかりなのに、とんでもない食欲だ。

 もりもりと肉を生で食むルビーだったが、二人に気付き、駆け寄ってきた。


「ふぁ、ふふぇふぁー! ふぇふーっ!」


 ご丁寧に、口の中の肉をぶちまけながら。


「こら、口の中のもん呑み込んでから喋りなさい!」


 クレアに叱られ、エルに露骨に嫌な顔をされ、ルビーは慌てて肉を呑み込み、言った。


「ふぉーふぇ、ふぁ、ん、ごくん! ルビーね、あそこのおばさんにたくさんお肉を食べさせてもらったんだ! おばさん、ごちそうさまでしたーっ!」


 彼女が手を振ると、女店主はにこにこと笑って手を振り返した。彼女としては、ペットに餌をやっているような気分だっただろう。

 すっかり満腹でご満悦なルビーを見て、クレアもエルも気づいた。三人とも、思い思いの行動を取っていたが、肝心のハーミスがいない。彼の性格上、一人で街市場に行ったとも思えない。


「お肉はいいけど、じゃあ、ハーミスはどこにいるのよ?」


「ハーミス? えっと、確か近くの喫茶店に――」


 ルビーが思い出した調子で、喫茶店にいると言おうとした時だった。


「――どぎゃああああッ!?」


 彼女が指差した喫茶店の扉が勢いよく吹っ飛んだ。

 しかも、扉だけではない。間抜けな悲鳴と共に、屈強な男が一緒に外に弾き飛ばされたのだ。もうもうと立ち込める埃の中で、男は完全にのびているようだった。


「ちょっとちょっと、今日は何事なわけぇ!?」


「ルビーの言っている喫茶店からですね、行きますよ」


「うん、ハーミスが危ないかも!」


 毎度毎度のトラブルももう飽きたと言わんばかりに、三人は喫茶店に飛び込んだ。


「ハーミス! 無事です、か……?」


 そして、エルがハーミスの無事を案じた時には、屋内で決着はついていた。


『氷塊拳』(コールドブレイク)ッ!」


 ハーミスの拳から放たれた巨大な氷塊が、獣人の男の体に直撃していた。

 しかも、振り抜いた拳と同じ勢いで攻撃されたのか、男の体は完全に氷塊で圧し潰されていた。床板を男諸共貫いた氷の一撃は、どれだけ屈強な相手でも耐えられないだろう。

 驚く三人の前で、氷の冷気ですっかり青白くなったマスターの出したコーヒーを、仕事終わりのようにぐいっと飲み干して、ハーミスは笑顔で言った。


「おー、皆、用事は終わったんだな。こっちも今、終わったところだ」


 喫茶店に入って行く三人。特に、エルは魔法が使えることに驚いたようだ。


「その手の魔力……貴方、魔法を使えたのですか?」


「いいや、職業ライセンスで『魔法師』になって、無理矢理魔力と地力を底上げしただけだ。確かに魔法は使えるんだが、時間は限られてる」


「ライセンスについてはもう慣れたわよ。そんでもって、こいつらは何者?」


「さあな、俺をお前らと分断させて、付いてくるように命令してきたんだ。何者かはこれからじっくりとっくり、魔法を使って聞いてやるさ」


 ハーミスは邪悪な笑みを浮かべながら、喫茶店の奥で倒れていた男を起こし、顔を近づけてそう言った。すると、男は慌てた調子で、手をぶんぶんと振りながら喚いた。


「ま、ま、待て! 俺達は聖伐隊の幹部を倒したと噂されてるあんたが、どれほどの力を持ってるか確かめるよう、命令されたんだ! あんたは合格だよ、合格!」


「ふーん、合格ね。命令されたって、誰にだ?」


 ハーミスの問いに答えたのは、喫茶店の入り口にいる者だった。


「――わしじゃ。部下が乱暴して悪かったなあ、勘弁してやってくれんか」


 ただし、クレア達ではない。その後ろにいる、入り口の壁にもたれかかる女性だ。


「……同じ質問して悪りいけど、誰だ、あんたは?」


 三人の間をどかどかと歩いて、彼女は仁王立ちで言った。


「わしはリヴィオ。獣人街のギャング、『ティターン』の頭じゃ」


 ハーミスの前に立つ彼女――リヴィオ。

 ギャングのボスを名乗る彼女の見た目は、一言で言えば、奇抜だった。


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