再会
そこにいたのは、二人の幼いエルフ。
「モルディ、カナディ!」
間違いなく、ロアンナの街から救い出したエルフの子供、モルディとカナディだった。
「――お久しぶりです、ハーミスさん、クレアさん!」
「それにルビーさんも! ロアンナの街ではお世話になりました!」
奴隷として虐げられていた頃の面影や傷痕はなく、元気な笑みを顔一杯に見せている。一緒に助け出した魔物とも友好関係を築けているようで、彼らはエルフを背に乗せながら一行に向かって駆け寄ってきた。
「久しぶりねえ、あんた達! 元気してた?」
「はい、シャスティさんもベルフィ姫も、里を移動しながら元気に過ごしています! それと、こちらの方は……」
クレアやルビーとも明るく接する二人だったが、エルを見ると、怪訝な表情になった。
「ん、ああ。こいつはエル。フィルミナの滝で仲間になった魔女だよ」
てっきり見慣れない相手を人間だと思ったのかとハーミスがフォローしたが、彼女達にとってはそこは問題ではない。問題なのは、マントの内側にちらりと見えた服だ。
「……でも、マントの中……聖伐隊の隊服ですよね、それ」
聖伐隊の隊服。
エルの場合は背部にバツ印を書き足しているが、二人には見えないし、事情を知らなければ聖伐隊と思われても仕方ない。
ゆっくりと背中に担いだ矢筒に手をかけるエルフに、ハーミスが慌てて説明した。
「ちょっとした事情があってな。安心しろ、こいつは魔女で人間じゃない。聖伐隊に洗脳されて奴らに協力してただけで、今は俺達の味方だよ」
「ルビー達が保証するよ。エルも自己紹介してあげて!」
やや他人事の様子だったエルだが、ルビーに背中を押されて、モルディ達の前に出た。自己紹介など慣れていないらしい彼女は、少し鼻を鳴らして話し始めた。
「初めまして、エルと言います。知略と魔法に優れた、天賦の才を有する魔女です。私の素晴らしい力を見た時に才覚を妬むかもしれませんが、生まれ持った物の違いです。決して自分を卑下する必要はないと覚えておいてください」
こいつは、人と話した経験がないのか。
クレアが突っ込むよりも先に、モルディ達の顔が全てを表していた。なんとリアクションすればいいのか分からない、呆然とした顔だ。
「……は、はい」
首を傾げるエルをルビーが後ろに引っ張り、ハーミスが言った。
「悪りいな、俺の仲間になるくらいなんだ。こいつも相当クセが強いんだよ」
「強いんだよー。ところで、二人はなんでここにいるの?」
ルビーがそう聞いた途端、二人の顔から疑問と不安が消えた。
「それは勿論、皆さんを支援する為です!」
代わりに、ずい、と顔を寄せた二人の目と顔に浮かび上がってきたのは、眩いばかりの使命感と正義感、そして明るさだった。思わず仰け反った四人の前で、モルディとカナディは拳をぐっと握り締めながら、自分達に課せられた任務を語り出した。
「私達、ベルフィ姫の指示を受けまして、方々の亜人や魔物にハーミスさんの存在を伝えながら、今こそ戦う時だと呼びかける任務に就いているんです! 実際、複数のエルフの里が武装蜂起して、聖伐隊を倒してもいるんですよ!」
「レジスタンス活動に加えて、皆さんが獣人街に来るとシャスティさんから聞きまして、ここで生活できるよう、先回りして呼び掛けていたんです! これから来るハーミスという人間は、聖伐隊の幹部を二人も倒し、人非ざる存在に希望を齎す存在であると!」
「エルフに希望の火を灯し、竜を救った英雄だと!」
「人が掲げた偽りの救世主ではなく、真の救世主だと!」
まるで舞台のクライマックスであるかのように、二人はハーミス達を賞賛した。
こんな調子で、きっと二人は獣人街に到着するや否や、彼らについて話して回ったのだろう。彼らは人類の抑圧に反する、最後にして新たな希望であると。自分達を救った存在で、ドラゴンを従え、『選ばれし者達』を討ったのだと。
そんな話をしていれば、周囲からの反応など決まっている。
「あれが、ハーミス……」「亜人の救世主だって……」
住人達がずっとこちらを見て、聞こえるか聞こえないかの範囲で何かを話している。珍しいもの見たさが半分と、奇異の視線が半分。
「……あー、道理でな」
「この視線とひそひそ話の理由が、よく分かったわ……」
突き刺さる生暖かい視線に頬を染め、苦笑いしかできない四人――特にエルに関しては身に覚えのない賛美であるが、エルフ達は街に向けて手を翳し、にっこりと笑った。
「さあ、付いてきてください! 獣人街について、私達が案内します!」
「これも私達の任務です! 宿までお連れします!」
「宿まで取ってくれてるのね……」
ありがたいやら、有難迷惑やら。
仮にそう思っていても絶対に口には出せず、四人はエルフの後ろに付いて歩き出した。
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