非凡
「レギンリオルっていうと、確か聖伐隊の……」
「聖伐隊の本拠地ね。けど、『魔法特務隊』ですって? レギンリオル軍にそんながいるなんて聞いたことないわよ、出まかせじゃないでしょうね?」
「当然です。表向きには存在しない部隊ですから」
エルと名乗る女性は、体を起こした姿勢のまま、淡々と語り始めた。
「聖伐隊が軍に取り入るまで、軍事国家レギンリオルは魔物や亜人の力を利用するのに積極的な態度を示していました。ドラゴン、オーク、獣人……魔女も例外ではありません」
「確かにオークや魔物の腕力は、人間じゃ敵わないからな。軍隊で飼い慣らせば、相当な戦力になるだろうな……今の聖伐隊が許すかはともかくだが」
軍事国家というくらいなのだから、戦争に使えるアイテムはなんであれ有効活用するだろう。魔物が人間より強いのであれば、猶更だ。
「つまり、貴女は自分から軍隊に入ったの?」
ルビーの問いに、エルはやや自慢げに答えた。
「はい、私には稀な魔法の力があると、幼少期から知っていました。そんな才能をフィルミナの滝で、閉鎖的な魔女の集団だけで浪費するなど馬鹿げていると思ったのです。私の才能を、もっと認めてもらえるべき場所で使うことが正しいのだと考えました」
「フィルミナの滝って、この辺りじゃない。あんた、ここが地元なのね」
「そうです。といっても、こんなところは直ぐに離れましたが」
フィルミナの滝の場所は、ハーミスも地図を見ていたので知っていた。川の分岐点で湖ではない方向に向かうと、とある岩場に突き当たる。そこが滝になっていて、ここは通らないようにしようと相談していたのを覚えているのだ。
「ところで、魔法って、どんなのが使えるんだ?」
「私達魔女が使える魔法は一種類に限定されますが、さっきも言った通り、人間が使う魔法よりも遥かに強力なものが使えます。私は山羊の悪魔と契約し、物を自由に浮かせたり、動きを止めたりする、物体に干渉する魔法が使えます」
平原で一行を殺しかけた魔法のことだろう。彼女は桃色のオーラを操り、物体の動きに干渉するのだ。追手に使わなかったのは、中毒でそれどころではなかったと予想できる。
「多くの魔女は、魔力を使った攻撃しかできません。それと比べても、異端の魔法が使える私がどれほど優れているか、お判りでしょう」
ここに来て、ハーミス達の予想は当たり始めた。
エルが礼儀正しいのは口調だけで、かなり傲慢な性格だ。『選ばれし者達』のように狂っているほどではないが、少なくともクレアが顔を顰めるくらいには。
「で、人に紛れて軍に入るなんて、両親が止めなかったわけ?」
「魔女には母しかいませんが、反対はしました。ですが、私の姉と妹……ポウとアミタは私の意見に賛同しました。最終的には隠れ家を出ました。五年ほど前の話です」
「母親しかいないって、どういう意味だ?」
「魔女は繁栄の為、人間の男性と交わりますが、孕んだ後は処分します。主に去勢や家畜化などが一般的ですが、詳しく聞きたければ話しますが」
「……いや、いい」
ハーミスは少し顔を青くして、首を横に振った。カマキリの交尾を思い出して身震いする彼を無視して、エルは話し続ける。
「そうですか。とにかく、当時はまだ亜人に対して駆除命令などが出ていない国でしたから、私達は軍部に歓迎されました。私達と同じような考えで入隊した魔女は合わせて八名、全員がある部隊に集められるまで、そう時間はかかりませんでした」
「それが、魔法特務隊だな」
「はい。私達魔女の魔法は人間程度では防げないものです、特務隊は戦場の影で着実に成果を上げました。私達の魔法は人を殺すに値し、確かに世界に貢献したのです」
自他国問わず、人を殺す。軍隊に入ったのであれば当然だったが、改めてその話を聞いたハーミスは、複雑な面持ちを隠し切れなかった。
しかし、エルはまるで武勇伝のように語っていた。自分の才能や実力を示すべく、人を殺すのは至極当然であると語っていれば、当然ハーミスも、ルビーも嫌な顔をする。
「貢献、ねえ。あたしにはワガママ娘の自己満にしか見えないけど?」
中でもクレアは、自分の意見を隠さない方だった。
「母親の下から飛び出してまであんたと姉妹がやったのは、自分を見てくれ、見てくれってガキの自己顕示欲の発散と変わらないわ。それに人殺しがくっついてきたんだから、タチが悪いったらありゃしないわね」
エルがクレアを睨んでも、彼女は臆するどころか、言ってやったという視線を向けた。
論争をしても無駄だと思ったエルは、ぶつけ合っていた視線を逸らし、話を戻した。
「……何を言われようとも、私の魔法の才能は確かだったのです。このままいけば、私は魔女の界隈ですら革命を起こす者になっていたでしょう……連中がいなければ」
連中。誰といわずとも分かる、聖伐隊のことだ。
「聖伐隊か。レギンリオル軍の魔物や亜人にも言及したのか?」
「勿論です。オークやゴブリンの部隊は極秘で虐殺され、私達は監禁されました」
「……殺されなかったの?」
「殺されませんでした。殺される方がましな地獄を、味わいましたが」
川のせせらぎの中、彼女は親を殺されるよりも憎々し気な顔をした。
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