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嗜虐


 怒る二人の前で、散々暴力を振るったバントだったが、ベルフィが腹を蹴られたもんどり打ったのを見て、ようやく満足したようだった。


「……ふう、さっぱりした。ストレス解消には、玩具を殴るのが一番だ。見てみなよ、里と子供達の命を肩に背負ったこれは、全く反抗しないんだよ!」


 いったい、どんな気持ちで暴虐を受けているのか。バントにはしっかりと分かっている。分かった上で、一つの抵抗もさせずに、憂さ晴らし程度にエルフを使い潰す。

 ハーミスもシャスティも、真当な感性の持ち主だった。だから、当然の如く怒るのだ。


「てめぇって奴は……正真正銘、ユーゴー以下のドクズ野郎だよ……!」


「心外だなあ、僕があの脳筋馬鹿以下だって? 三年前から彼は、先頭に置いてやれば喜ぶだけの猿だよ。僕は彼に一度だって劣っていると思ったことはないさ」


 彼は高笑いしながら、鎖を手放し、右手を翳した。すると、バントの掌から、メラメラと燃え盛る轟炎が現れた。驚く二人に、仰々しくバントは説明してのける。


「僕の職業は『大魔法師』、スキルは……言わなくてもいいか。あらゆる魔法を使えるんだ、近接戦しか能のないユーゴーと比べて、どちらが優れているかは一目瞭然だろう?」


 炎を消し去り、いかに自分が人間的に優位に立っているかを説明したバントは、またも気分を良くしたようだった。ユーゴーを殺したハーミスに、感謝すらしているようだ。


「さて、聞くところじゃあ、四人で行動をしているんだったね。その二人もさっさと捕まえて、ローラのところに連れて行かないと――」


 聖女の仲間として素晴らしいスキルと天啓を受けた彼に、ふと、声をかける者がいた。


「……して……さい」


「ん?」


 ベルフィだ。あれだけ殴られ、蹴られておきながら、まだ彼女は動けた。鬱血して、妙な色になった手を震わせる彼女は、体を震わせながら言った。


「……二人を……解放、して……ください……わたくしが……代わりに……」


「ダメダメ、ダメだよ。この二人は聖伐隊に逆らったんだ。必ず罰は受けてもらうよ」


 髪の隙間からベルフィを見下す彼は、笑いながら答えた。


「そんな……」


 唯一の希望すら砕かれ、ベルフィは項垂れた。要望など何一つ通らないという現実を叩きつけて、更にご満悦の表情を浮かべながら、バントは扉に向かって歩き出す。


「ちょっとばかり、外を散歩してくるとしようか。それと、ハーミス」


 その途中、ハーミスの怒りに満ちた顔を見つめ、彼はまたも笑った。


「正直言って、僕は君をいじめようとは思っていなかったよ。だって、君はローラ達に責められても、希望を捨てなかっただろう? そういうのは、僕は嫌いなんだ」


 彼が一瞥したのは、すすり泣きすらしない、道具同然のエルフの姫。


「僕が好きなのは、あの奴隷のような、絶対に反抗しないし、希望すら抱かない、無抵抗の相手さ。ついでに言うなら、僕が聖伐隊に参加しているのは、魔物を滅ぼすついでに、いい玩具が手に入るからだよ」


「……隊員の前で、そんなこと言ってもいいのかよ、変態野郎」


「構わないさ、皆は知っているだからね。それじゃあ、見張りをよろしくね。あと――」


 ハーミスが思っているよりもずっと、バントは邪悪だ。


「――オークやゴブリンのような醜い魔物を一匹、後で用意してくれ。さっき反論した罰だ、そこの玩具と交尾させて、子を産ませるのも楽しそうだからね。よろしく頼むよ」


 これだけの提案など、そうそう思いつくものではない。ベルフィの体が一層大きく震えて、捕らえられた二人は怒りを通り越し、最早なんの感情か分からないものに体を支配されていた。共通するのは、眼前のこの男を切り刻んで、殺してやりたい一心だけだ。


「「はい、バント様」」


 隊員が返事をして、抑えつけるのをやめたのを見て、バントは部屋の外に出て行った。反撃のチャンスと思ったが、剣を首にあてがわれている以上、そうはいかない。

 バントが階段を下りていく音を聞きながら、ハーミスは二人に呟いた。


「お前ら、上司があんなクズだと同情するよ」


「黙れ、亜人の扱いなどあんなもので十分だ。バント様の行いは常に正しいのだ」


「……人間とは、何とも、だ」


「人間代表として謝っとくぐおっ!」


 シャスティの言い分に同感したハーミスの足を、隊員が後ろから蹴った。這いつくばるように倒れ込んだ彼に向かって、ベルフィが涙を堪えながら叫んだ。


「いけません、人間さん! ここで聖伐隊に逆らっては……」


 口の端から息を漏らすようにして、ハーミスが告げた。


「逆らっても逆らわなくても、結果は変わらねえよ。バントはいつか里を滅ぼす……そんでもって、子供達はもう奴隷として売られてる。あいつが言っていた約束は全部嘘なんだ、なのにお姫さんは――」


 きっと、姫はまだ被害が及んでいないのだと思っているのだろうと、ハーミスは思っていた。しかし、そうではないと、思い知らされた。


「――知っています。全て、全て知った上で、ここにいます」


「……何だと?」


「それでも、こうする他ないのです。里を守る為に、犠牲を払うしか、ないのです」


 何もかもを知り、それでもベルフィは、仮初の約束を守りつづけていた。


【読者の皆様へ】


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というかやる気がめっちゃ上がります!!

おかげで第三章も執筆できています!!!


ブックマークもぜひよろしくお願いいたします!

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