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勇士


「勿論、俺一人じゃない。クレアとルビーもロアンナに行って、全部取り戻してくる」


 エルフ達はざわついた。

 圧倒的な力を以ってエルフを蹂躙した聖伐隊を、たった三人で倒し、あまつさえ奪われたもの全てを取り返すと言い出すのだ。ただし、一番驚いたのはクレアである。


「はぁ!? あんた、何勝手なこと言ってんのよ! 獣人街に行くんでしょ!?」


 喚き散らすクレアとは対照的に、ルビーはハーミスの案に賛成した。


「ルビーはハーミスに賛成! ルビーも、聖伐隊は許せないから!」


「サンキューな、ルビー。クレアは森か平原で待っててくれてもいいぞ」


「ったく、この二人は……はいはい、どうせ止めても自分達だけで行くんでしょ! てゆーか、あたしがついてかないと何しでかすか分かんないのよ、あんた達は!」


「決まりだな」


 しかし、ハーミスとルビーの二人だけで突撃させる気がないのも、クレアの優しさである。どうあっても二人を制御できないと判断した彼女は、渋々彼の案を承諾した。

 さて、当のエルフ達はというと、歓喜する者が半分、疑いの視線を向ける者が半分。特にシャスティは、ハーミスの提案を全くもって信じていない。


「助けるだと、何を馬鹿なことを! それができるなら世話はない!」


 頭ごなしに否定するシャスティだが、クレアがずい、と前に出て説得する。


「そう思うでしょ、どっこいこいつはただの人間じゃないわよ。さっきも言ったけど、一人で聖伐隊の幹部の聖騎士をぶっ殺して、百人近い隊員を一晩で殲滅したのよ」


「おいおい、誇張表現が混じってねえか?」


「殆ど正しい表現じゃない。それに、こいつは人間の味方じゃなくて、あんた達の味方よ。高潔で他者を寄せ付けないドラゴンが懐いてるのが、何よりの証拠よ」


 クレアの言っていることが正しいのなら、エルフにとって、ハーミスはとんでもない人間だ。魔物を容易く殺す聖伐隊を返り討ちにして、幹部の――しかも聖騎士すら倒してみせたのだ。おまけにあらゆる種族を寄せ付けないドラゴンに、こうも慕われている。

 何より、クレアの話し方が、わらわらと集まってくるエルフ達を信用に導いている。身振り手振りで人を扇動する様は、詐欺師のようだ。


「確かに、ドラゴンが信用するなんて……」「もしかしたら、この人間なら……」


 彼女の都合の良いように周囲の意識を動かそうとするが、やはりシャスティだけは思うようにいかないようで、周りのエルフをどかしながら、尚も反論する。


「フン、人間の言い分など信用できるか! 幹部を簡単に殺せるはずがない、お前達が我々を監視しに来た聖伐隊の雇われかも知れないしな!」


 自分が聖伐隊の部下。そう言われた気がして、ハーミスの目つきが変わった。


「絶対にない。聖伐隊のしもべになるなら、その場で舌噛み切って死んでやる」


 ぎろり、とハーミスがシャスティを睨んだ。青い、死人のような目に生気が宿ったのを感じ取って、彼女はハーミスの中に、聖伐隊への強い憎しみを感じた。

 少しばかりの沈黙が、双方を包んだ。そして、精悍な顔をしたハーミスがどうあっても自分を曲げないと悟ったシャスティは、顎で彼を、広場の奥に行くよう促した。


「……いいだろう、そこまで言うなら試してやる。こっちへ来い」


 他のエルフ達、仲間と一緒に、ハーミスは草木が切り揃えられた広場の端に来た。人に見立てた木製の人形や、弓や鉈が乱雑に置かれているところを見ると、どうやらここはエルフの戦闘訓練場のようだ。

 シャスティは手ごろな鉈を一つ拾い上げると、ハーミスの足元に投げつけた。鉈は地面に突き刺さり、柄は彼の手がすぐ届くところにある。

 怪我をしないように横から見守る見物人達にも聞こえるように、シャスティが言った。


「私はこの里で一番の勇士だと自負している。弓術、剣術、武術、いずれにおいてもどのエルフよりも強い。その私に勝てなければ、街へ行こうと死ぬだけだ」


「つまり、シャスティより強いと、戦って証明しろってか?」


「話が早いな。さあ、剣を取れ。私に勝てたなら、話の続きを聞いてやらんでもない」


 決闘までせずとも、とハーミスは思ったが、それでシャスティが納得するのであれば一つの手段ともとれる。ただ、準備はどうしても必要だ。


「ちょっと待ってくれ、準備だけさせてくれ。えっと、昨日買ったライセンスは……」


 腰のポーチをごそごそと漁り始めるハーミス。ところが、彼がまだ準備を済ませていない内から、シャスティは背負っていた弓を構え、矢を番えた。


(これくらいの奇襲も避けられないなら、戯言を吐いた自分を呪って死ぬがいい)


 周りのエルフの騒ぎにも、今直ぐに放たれる矢にも動じず、ハーミスはポーチから一枚のカードを取り出し、手の中で砕いた。少しも相手を気にしない彼を見て、ルビーはクレアの肩を揺らしながら狼狽する。


「クレア、あのエルフが弓を!」


 ただ、クレアの方は落ち着いていた。


「大丈夫よ、あれくらい。あたしの『直感』(イントリション)が言ってるわ」


 彼女がそう言うのと同時に、シャスティの弓から矢が放たれた。

 確実な一閃。人間が放つよりもずっと早く、鋭い矢は、ハーミスの頭に吸い込まれていく。二人の距離は十歩分の歩幅くらいで、仮に魔物だとしても逃れられないだろう。

 尤も、ハーミスは違った。

 目にも留まらぬ速さで鉈の柄を掴んだハーミスは、刃を振り上げ、矢を弾いた。へし折れた矢は宙を僅かに舞い、彼の両隣に力なく転がった。


「――なん、だと?」


 必中を確信していたからこそ驚くシャスティを見下すように笑いながら、クレアが、これまた驚きを隠せないルビーの肩を叩いて、言った。


「シャスティとやらが何をしても、ハーミスが勝つってね」


 ハーミスの顔の横に、橙色のステータスが浮かび上がる。

 死人の証である黒い塗り潰しの上から、新しい文字が上書きされていく。筋力、体力が常人よりも大きい数字に、全体的な身体ステータスが向上する。

 全ての文字が上書きされたのと同時に、彼はシャスティに視線を向け、笑った。


「スキル『見切り』を持つ職業、剣士――いざ尋常に、ってな」


 職業は剣士。スキルは『見切り』(パススルー)

 既に購入していたライセンスで力を得たハーミスは、負ける気がしなかった。


【読者の皆様へ】


広告の下側の評価欄に評価をいただけますと継続・連載への意欲が湧きます!

というかやる気がめっちゃ上がります!!

おかげで第三章も執筆できています!!!


ブックマークもぜひよろしくお願いいたします!

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