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終焉①


 ハーミスが注文したアイテムは、彼の前に並べられた。

 辺り一帯を埋め尽くす、漆黒。全てのアイテムが黒いので、まるで平原自体が黒い闇で覆われてしまったかのようにすら錯覚してしまう。

 そしてこれらは、悉く彼らの住まう世界に存在しない武器、兵器。何がどのように使われるか、ハーミス以外には誰にも理解できなかったが、ローラの生み出した従僕を目の当たりにした時よりもずっと、彼らは顔に驚愕の色を浮かべていた。


「……凄まじいな、これは……」


 クレアが使うよりもずっと巨大な銃火器、両手で抱えることすら難易な黒い火砲。


「獣人街での戦いの時もかなりの装備を揃えたが、それ以上だな」


 箱一杯に詰められたアイテムと衣服が、並べれば屋敷を埋め尽くすほど。


「これが、ハーミスのスキルとやらか……凄いのう!」


 翼の生えた箱のような、乗り物らしい何かが、全員が乗ってまだ余りそうなくらい。


「魔導式重装型銃火器パック、二百セット。投下型十連魔導爆弾、百八十個。超大型魔導式浮遊大陸間輸送機、百機。アイテムラーニング装置と特殊術式防護服を在庫分全てご購入いただき、ありがとうございます。またのご利用をお待ちしております」


 斯くして、装備は整った。

 ずらりと並べられた、これまでで一番多い装備の山を見て、クレアは今度こそ開いた口が塞がらなかった。暗黒空間に消えてゆくキャリアーなどに少しも目もくれず、彼女はぱくぱくと口を動かしながら、辛うじてハーミスに聞いた。


「……いくらするのよ、これ全部で」


「使える金はありったけ使わせてもらった。早速準備していくぞ」


 ハーミスがはぐらかしたのは、口に出せないほどの高額だからか、或いはどれだけの額を使ったかも本人が分かっていないのか。いずれにせよ、永遠に一個人が手に入れられない金額だというのは、間違いない。

 クレアにさらりと返事したハーミスは、皆に聞こえるくらいの大声で言った。


「全員、このラーニング装置を耳に挟んでくれ! それでここにある武器の使い方が分かるようになってる。学習し終わった奴から、防護服を着用して、武器を輸送機に載せていってくれ! 時間がない、早めに頼むぜ!」


 彼が指差した先には、幾つもの箱一杯に詰められた、聖伐隊が使っていた通信機のようなアイテム。こちらは真っ黒で、前者よりももっと薄い。

 ハーミスの指示を聞き、一斉に一同が動き出した。大まかに何をするか理解していた者もいたし、意味が分かっていなくても、他の仲間につられて動く者もいたが、ハーミスにとってはそれで十分だった。

 大量に並べられた箱の中の装置を耳に装着すると、誰も彼もが何かに気付いたような表情を見せてから、ハーミスに言われた通りに、武器を箱型の輸送機――だと呼ばれた乗り物らしい何か――に詰め込んでゆく。

 クレア達幹部もまた、同じようにアイテムを耳に装着する。総じてアイテムの使い方を風が流れるより早く理解していくクレアは、これまたハーミスに問いかける。


「ラーニング装置って、あたしが使ってたアイテム?」


「そうだ。今回は並べた武器を活用してもらう為に、全員分を買っておいたんだ」


 彼の言う通り、近くの獣人やエルフ、ドワーフは眼前の兵器やアイテムの使い方を理解し、驚いているようだ。銃火器がどれほど強く、危険であるかが流れ込んでくるのだ。


「お、おお……武器の使い方が、頭に入ってくる……?」


「すげえな、この武器! これさえあれば、あの化け物なんて怖くねえぜ!」


 ハーミスのような力を得られるとも思ったのか、『明星』の面々、特にゾンビ軍団は意気揚々とアサルトライフルやガトリングガン、グレネードランチャーといった魔力を使う特殊な武器を、箱状の乗り物に担ぎ込んでゆく。

 その乗り物、ハーミスが輸送機と呼んだそれには、先に魔物や巨人が乗り込んでいた。


「輸送機……魔物や巨人でも入れるようだね、ありがたい」


 機体の上部から左右に大型の翼が伸び、中央部に大きなハッチがあるこの乗り物は、先端のコクピットの日勇差に反比例して、胴体部分が非常に大きく、巨人も屈めば問題なく乗り込めたが、船内の複数の椅子には流石に座れないようだ。

 武装はないようだが、兵士を戦場に運ぶのであれば十分だろう。あれが空を飛ぶとは半ば信じられない様子で、ルビーが言った。


「でも、魔物の皆じゃ動かせないよ? ハーミス、どうするの?」


「遠隔操縦ができるタイプを買ったんだ。他の輸送機から別のを操れるんだよ。魔物しか載ってない、巨人しかいない輸送機は他の奴に操ってもらう」


 ハーミスが身振り手振りで説明する、その更に隣で、黒いジャケットに各々が袖を通している。『明星』のメンバーはマントの下に、獣人はシャツの上から羽織る。流石に巨人サイズや、四足の獣用の衣服はないようである。

 これもまた、エル達は手に取って着用した。彼女としては赤いバツマークの入った白の隊服もどきを脱ぐのに抵抗感があるのか、ハーミスに念の為効果を聞いておく。


「ハーミス、これは術式防護服と言っていましたが、どのような効果が?」


「そのジャケット、素材が特殊なんだよ。打撃、斬撃、魔力を使った攻撃に耐性があって、伸びるのに破けにくい。従僕相手に、どれだけ効果があるか分からねえが、ないよりはマシだと思ってな」


 それならば、とエルは納得したようだ。

 そんな四人や幹部の面々の後ろで、作業は着々と進んでいる。


「急げ、急げ!」「武器を積み込め、早くしろ!」


 皆が目覚ましい働きを見せてくれるが、特に仕事が早いのはゾンビ軍団だ。疲れ知らずで、命令された事柄を延々とこなしてきた彼らにとって、積み込みや整備といった作業はお手の物である。

 彼らがてきぱきと準備を進めていく様を自慢げに見つめていたアルミリアだが、ふと思い出したような調子で、ハーミスに話しかけた。


「この調子であれば、じきに準備は出来そうじゃな。して、ハーミスよ。これから危険な敵に挑むわけじゃが、作戦はあるのかの?」


『明星』に参加してから纏ったであろう深紅のシャツの上から、黒いジャケットを羽織りながら、ぶかぶかの灰色のズボン――恐らくハーミスに似せた――を履いている元高貴な生まれの少女に、ハーミスが答えた。


「小細工は通用しなさそうだから、正面からぶっ潰す。けど……そうだな」


 指を顎にあてがい、僅かに考える仕草を見せてから、ハーミスは修正した。


「幹部の皆、集まってくれ。もしもの時の為に、俺の作戦を伝えとく」


 彼の下に、一声で主要メンバーが集まった。合わせて十二人が集まった平野の真ん中。何もないが、ここが作戦会議室だ。

 ぐるりと円を描くように揃う面々で、最初に口を開いたのはシャスティだった。


「ハーミス、作戦とは?」


 彼は小さく頷くと、決まってはいるが、決めあぐねているように話し出した。


「まず大前提として、あのでかい顔は聖女ローラだ。あれを倒せば怪物達が消えるかも、と俺は思ってる。だが、今言った通り、ローラに怪物……従僕が関連してるのかは分からないし、何をしても連中は消滅しない可能性もあるってのは、覚えておいてくれ」


「いずれにせよ、それしか今は手段がありません。最も関連性のありそうな敵を倒すしか、我々にやれることができないのです」


 ベルフィの言葉に全員が同調したのを見て、ハーミスは話を続ける。


「ああ、だから俺達は、あの輪に向かって輸送機で移動する。敵に対策がなけりゃ、そのまま俺が突っ込んで、向こうでローラと戦って、倒す」


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