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撃滅


 黒い巨人の頭の上に立った銀髪のハーミスは、手元に何かを持っていた。彼はそれを口に寄せ、聖伐隊を見下ろしながら言った。


『あーあー、テステス……よし、聞こえるな』


 何倍にも大きくなった声が、ジュエイル村中に響いた。どうやら、ハーミスが持っているのは声を大きくする道具のようだ。呑気に見下される怒りが恐怖を上回ったのか、ユーゴーはハーミスを指差して怒鳴りつけた。


「な、なな、なんだそれは! それはなんだ!?」


『えーと、商品名は……『対大陸間侵略決戦兵器完成型壱号』、だってよ。またの名を『フォートレスギガント』だともさ』


「名前を聞いてるんじゃねえよ! それが何だって言ってんだ!」


 ユーゴーの問いに、ハーミスが笑ったような気がした。


『まあ、そう焦るなって。教えてやるよ……こうやって、なぁッ!』


 次の瞬間だった。

 巨人が勢いよく拳を掲げたかと思うと、思い切り聖伐隊の隊員目掛けて振り下ろした。地面がめり込むほどの巨体が、目にも留まらぬ速度で拳撃を繰り出せばどうなるか。


「んぎゃああああッ!」


 物凄い音と風圧と共に、数人の聖伐隊隊員が潰された。

 あまりに凄まじい攻撃だからか、クレアとルビーはおろか、聖伐隊の面々ですら身動きが取れなかった。巨人の頭に座り込んだハーミスの命令で、ゆっくりと巨人が拳をひび割れた地面から引き抜くと、人間だったものが窪みに残っていた。


『騒ぐなよ、ただのパンチだぜ? お次はキックだ!』


 そうして今度は、パンチと同じくらいの速度で蹴りを放った。

 地面を容易く抉り削る蹴りが、ユーゴーの隣にいた数名の隊員に直撃した。半分はその場で上半身が消し飛び、残り半分は遥か遠くへ蹴り飛ばされた。

 甲冑の中で、ユーゴーは失禁した。それが、カオスの引き金だった。


「「逃げろおおおおおお――ッ!」」


 隊員達は、聖なる使命より己の命を優先した。だが、もう遅い。何もかも遅いのだ。

 唸り猛る剛腕。敵を爆ぜ壊す瞬脚。いずれもただの人間では対処など出来ない。直撃なら当然、掠めただけで体の半分が消し飛ぶ攻撃に、耐えられるはずがない。


「ぶぎゃあああッ!」「ひぎいぃぃ!」


 虫を潰す人間の立場が、逆転したような事態だ。

 殆どの場合は、血すら残らない。肉体が爆ぜ、断末魔すら塵と化す攻撃に対して、反撃を試みる者から死んでゆく。しかも、中には死にすら気づかず、上半身だけでばたばたと蠢く者もいる。

 数十名を超える聖伐隊は、たちまち散り散りになったが、数は面白いくらい早く減っていく。痛みすら感じない様子で、しかし死の恐怖を間際にたっぷり感じながら散っていく隊員達を、ルビーとクレアはただ見つめている。


『ハーミス、凄い……!』


「なんだか分かんないけど、あいつに賭けて正解だったみたいね、あたし達」


 村が地鳴りと地割れ、爆音と轟音で埋め尽くされる中、ただ一人巨人に立ち向かうのは、兜を脱ぎ、逃げ惑う隊員を一喝するユーゴーだけだ。


「お、おい、お前ら逃げるな! 敵前逃亡は死刑だぞ!」


 ちっぽけな威厳を最大限ぶちまけるが、隊員達は我が身が何よりも大事である。


「そんなこと言ったって、あんなのに勝てるわけないでしょうがーっ!」


 森の中や谷の方角に逃げようとする白い影を、遥か上から見つめるハーミスは見逃さなかった。頭部から生えた二つの黒い棒を彼が掴むと、そこから赤いボタンがせり出す。


『あー、逃がすつもりは全くねえからな。こういう時は、確か……レーザー発射、っと』


 ハーミスがボタンを押すと、巨人の赤い双瞳が光を伴って輝き、たっぷりと目に溜め込んだのち、夜闇を切り裂く鋭い光を放った。

 視線の方向に放たれた光――レーザーは、逃げる隊員を包むと、刹那の間に黒焦げにしてしまった。瞬時に世界を照らす恐るべき攻撃は、この世界の技術を、やはり超越している。

 巨人が頭部を動かすだけで、丸焦げで絶命する隊員がどんどん増えていく。光に当たるだけで精製されてゆく真っ黒なオブジェは、辞世の句も、死の間際の失禁すら許さない。ただただ、人間を差別なく虐殺してゆく。

 なのに、木々はちっとも焼けない。環境が破壊されない、だが人間だけが死んでいく様を、ユーゴーは呆然として見つめるばかりだ。


「に、人間だけが燃えてる……森が焼けてねえって、なんでだよ……!」


『これ、どっかの亜人が作った、自然環境を残して人間だけを殺す兵器なんだってよ。エイリアン……だっけか? なんか開発者は、そういう種族らしいぜ』


 聖伐隊が魔物を滅ぼす組織なら、この巨人は人類を滅ぼす兵器だ。そんな人知を超越した力を百人ぽっちの人間に使えばどうなるかは、明白。


『ところで、もう聖伐隊で残ってるのはお前だけだぞ、ユーゴー』


「はっ!?」


 気づけば、ユーゴー以外の聖伐隊は全滅していた。

 死屍累々、殆どの場合は遺体が残っていない。地面と一体化したか、どこかに飛んでいったか。半分以上は黒炭になってしまっている。


『言っとくが、容赦しねえよ。確実に潰す』


 自分だけという状況に置かれたユーゴーは、それでもハルバードを構えた。失禁しようとも、ただ一人になろうとも、聖女の恋人であり、『選ばれし者達』の一人であるプライドが、ユーゴーを奮い立たせたのかもしれない。


「――ふざけるなよ、ハーミスの分際でえぇ! 俺様はユーゴー、『選ばれし者』だ! 聖女ローラの愛を受けて、彼女の使命を果たす為にんぎゅぶうううう!?」


 尤も、そんな些末な感情は、巨人が振り下ろした拳の前では無意味なのだが。

 みしみしと地面すら奇怪な音を立てる中、あわや潰されかけたユーゴーだったが、咄嗟に白く光る盾を発現させ、攻撃を防いだ。


『お、そうだったな。スキルを使えるんだったな。防御壁を作るスキルか?』


 ユーゴーのスキル『神聖盾』(ホーリーバリア)はあらゆる攻撃を防ぎ、弾き返すとされている。事実、ユーゴーがこれまで弾けなかった攻撃など存在しない。

 ならばなぜ、されていると表記したのか。


「ど、どうじで!? なんで攻撃を弾けないんだああぁ!?」


 連続してパンチを繰り出す巨人の拳を弾くどころか、次第に圧され始めているからだ。

 地面に足がめり込んでいる。前かがみになった巨人の拳の殴打を前に、防戦一方どころか、動けなくなっている。おまけに衝撃で、全身の骨が軋み、今にも折れそうだ。


『さあな、足りない頭で考えろ。まあ、ローラの命令で頭がいっぱいで、自分で一度だって動いたことのない奴の考えなんて知れてるだろうけどな』


「な、なな、なにをおおおぉ! おれざまはユーゴーだぞ、せいぎじだぞおおお!」


『だったら頑張ってこいつを倒してみろよ。『選ばれし者』なんだろ?』


 拳が加速する。ピストン運動の如く放たれる拳が、次第にユーゴーの盾の防御力を上回ってゆく。片手での暴虐が、ハーミスの怒りに同調するように、両拳での暴力に変わってゆく。

 盾にひびが入り、ユーゴーが死の恐怖に慄く。


「やっ! やべろ、やべろ! 盾が壊れる、ごわれるうう!」


 そこまで彼が叫んでいると、ようやく拳がぴたりと止まり、巨人が顔を上げた。

 もしかすると、慈悲の心が芽生えたのだろうか。ユーゴーは盾を解かないまま、既に放り投げたハルバードを拾おうともせず、ハーミスを見つめた。


『壊す気でやってんだよ、こっちは。まあ、まだ本気も出してねえんだがな』


「…………はひぇ?」


 そんなはずがないと、彼の冷たい青い目が、巨人の赤い目が言っていた。

 開いた掌を、指一本、一本ずつ折り曲げてゆく。完成された拳は、余りに強く握られたからか、内側から蒸気が漏れている。

 人間一人を壊すには、明らかなオーバーキル。巨人はゆっくりと拳を掲げ。


『お前が傷つけた人の分だけ、よーく味わえ。正真正銘、本気の一撃をなあぁッ!』


 ユーゴー目掛けて、これまでで一番早く――隕石の如く叩きつけた。


「やめ、やべでやべでやべでえええええええぶぎゅるッ」


 盾などもう、何の意味もなかった。

 文字通りの撃滅。広場を諸共砕き尽くすほどの、人知を超越した一撃。

 光の楯は完全に砕け、鎧も完全に破壊され、ユーゴーは容易く圧し潰された。


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