斉射
ハーミスは牢を出て、弓と矢筒を担ぎながら、自分の意志を二人に伝えた。
「今、お前を責めたってどうしようもない。それよりも、手持ちの金がどれくらいあるかを教えてほしい。それと俺の金を合わせて、アイテムを買う。どのみち逃げたって聖伐隊は追いかけてくるんだ……ここで全員、殺る」
「正気なの!? 聖伐隊は百人を超えてるし、幹部だっているし……」
ハーミスの目は真剣だった。やる時はやる程度の男だと思っていたが、今の彼は確実に、村に蔓延る聖伐隊を滅ぼす気でいた。
夕方と同じように反論しようとしたクレアだったが、口を噤んだ。
何よりクレアの直感が告げていたのだ。『通販』と呼ばれる未知の能力、あらゆるものが買える謎のスキルで、彼はやってのけるのだと。彼女は目を擦り、涙を拭った。
「……本気、なのよね。分かった、あたしの全財産、八十万ウル。全部あんたに託すわ」
そして、牢から出て背嚢を下したクレアは、そこから黒い革の袋を取り出し、ハーミスに渡した。ずしり、と重い袋の中を覗くと、札束と貨幣がぎっしり詰まっている。
ついでにパーカーのポケットから、ハーミスの八万ウルも返した。
ハーミスの目が、一層真摯になった。勝つ為の手段を手に入れたからだ。
「ありがとな。今だから説明しとくよ、俺のスキルに、『通販』についても」
「『通販』……あのバイクってのを持ってきた奴よね」
ハーミスが頷く。
「あたし、金を奪って悪いとは言ったけどさ。何かを買うだとか言ってたけど、そのスキルが何なのかはさっぱりなのよ。もう一回、詳しく説明してもらえる?」
右腕の『注文器』を突き出し、カタログを表示して、ハーミスは言った。
「これで、必要なものを買うんだ。ざっくりとしか説明できねえけど、これは店みたいなもんだ。こいつに載ってるのはどれもこの世界じゃ買えないようなすげえもんばっかりで、金があればそれが買える。つまり、有効活用する為には金がミソだ」
「……あたしの八十万ウルが、効果を発揮するってわけね」
「そういうわけだ」
「ルビーはわかんないけど、ハーミスの言うことなら信じるよ!」
細かい説明は省いたが、おおよそ理解はしてもらえたようだ。
「よし、それじゃあ買い物タイムだ。えーと、これとこれを買って……」
そこからルビーも交じって、買い物と作戦会議が始まった。
聖伐隊が来るか心配だったが、不思議と誰も来なかった。復讐を果たせと天命が告げているのかとすら、ハーミスは思っていた。
作戦の立案から決行、商品の購入まではあっという間だった。手元に残った八十八万ウルのうち、半分以上を使って購入した商品は、キャリアーによって運ばれてきた。
今度は、バイクの後ろに収まりきらないほど巨大だった。バイクに引きずられてきたそれを、ハーミスも含め、三人は奇異の視線で見つめていた。
「…………またのご利用をお待ちしております」
作戦の成功も何も祈らず、キャリアーはバイクで走り去っていった。
それはクレアの背と同じくらい大きく、高かったが、三人で持ち上げられないほどではなかった。牢の前に、ずしん、とそれを置いたハーミスは、脳内にラーニングされた使い方と、黒い先端に引っ掛けられた説明書を合わせて、クレアへの講習を始めていた。
「作戦は決まった。クレア、言ったとおりにこれを使えそうか?」
縄のように連なった『弾薬』を接続しながらハーミスが聞くと、『引き金』に指をあてがうクレアが頷いた。
「うん、使ったことはないけど、要はこの引き金を引き続ければいいのよね?」
「説明書にはそう書いてあるから、間違いはなさそうだ。ヤバいと思うか、これから光の弾が発射されなくなったら、こいつを捨てて逃げろ。あとは……」
支えとなる三本の支柱をぐるぐると回し、全方向への攻撃が可能である点を確認していると、とうとう白い影がわらわらとこちらに向かってやってきた。
「――おい、何をしている! どうして牢が開いてるんだ!」
やはり、聖伐隊だ。しかも一人や二人ではなく、十人以上はいる。
本当は掛け声とともに作戦を始めたかったが、何事も上手くはいかないものだ。それでもやらなければならないとハーミスが悟ると、彼はルビーの手を引き、駆け出した。
「来やがったか。予定通りだ、村の方に走るぞ、ルビー!」
「うん!」
「あ、お前ら、どこへ行くんだ! それにそこの女、何だそれは!」
当然、聖伐隊としては逃すわけにはいかないのだが、彼らはそれよりも、その場に残ったクレアと、筒状の武器らしき何かに視線が集中していた。
本能的に、六つの小さな穴が開いた筒を武器だと察していたのか。それは正解である。
「さぁ、あたしだって知らないわよ。ハーミスが言うには、三十万ウル分の『魔法弾薬』ってのを撃ち切るまで弾を発射してくれる武器ですって」
筒の上に取り付けられたトリガーに指をかけ、『銃身』を敵に向け、クレアは笑う。
「『弾薬』が何だか知らないけど、喰らった方が分かるでしょ! この武器――『大口径銃座式魔導機関砲』! 十五万ウルの斉射、受けてみやがれーッ!」
そして、引き金を引いた。
この世界には存在しない武器――『ガトリング砲』の更なる強化版、『大口径銃座式魔導機関砲』から放たれたのは、紫色の光る弾丸。一発一発が人間の体どころか木々にすら穴を開けるそれが、矢の一斉射撃よりも早く、凄まじく撃ち込まれればどうなるか。
「ぎゃあああああぁッ!」
「な、なんだ、なんだこりゃあああッ!?」
剣を抜く間もなく、聖伐隊の隊員は体が弾け飛び、肉塊が辺りに散らばった。
戦おうと挑む者、逃げる者、唖然とする者、一切合切関係ない。聖伐隊は皆殺すべし、と武器自身が叫んでいるかのように、紫の光が瞬く度に、死が齎されてゆく。しかも、内臓を噴き出し、体が千切れ、惨めで苦しく、痛ましい死だ。
トリガーを押し込んでいる間は際限なく弾丸を撃ち続ける武器で、並居る魔物討伐のプロを殺戮していくクレアは、恐怖よりも快感が勝っていた。
「……すっご、これ……って、呆けてる場合じゃないわね、まだまだいくわよーッ!」
縄の如く連結された弾薬はどんどん減っていく。
集まってきた敵が、周密の危険性を感じて散開しても、クレアは砲塔を回して撃ち抜いてゆく。紫の光が森を照らしている間は、聖伐隊が死んでゆく。
だが、これは作戦の第一段階だ。銃撃では、ユーゴーに対処できない可能性もある。
トリガーハッピーと化したクレアが二十人以上を殺している間に、ハーミスとルビーは村へ向かっていた。
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