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植物


 クレア達がユーゴーに見つかり、ゾンビ達が聖伐隊から逃げ惑う一方、ハーミスも緑に覆われた異形のカタコンベで、とんでもない数の植物と死闘を繰り広げていた。


「おいおいおいおい、どれだけ種を植えてやがるんだ、エミーッ!」


 エミーの裾から、壁に根付いた人くらいの大きさの葉の裏側から、天井を埋め尽くす木の幹の中から。息つく暇も与えないほど、蔓による攻撃が続く。

 幸い、蔓自体の耐久性はそこまで高くなかった。散弾銃の一発で蔓は弾け飛んだし、正面からアサルトライフルの連射を叩き込めば、壁面に根付いた植物そのものも破壊できた。ただ、なにぶん数が多いのだ。


「…………」


 しかも、エミーに目掛けて銃撃すると、瞬く間に植物が集まってきて、攻撃を防いでしまう。このおかげで彼女にまだ碌なダメージを与えられていなかったが、よくよく見れば、植物の種を植えこんだエミーの体は、火傷と種の痕跡だらけ。

 成長した植物の種は、皮膚ごと剥がれるようだ。肉まで見える彼女の体は、重傷を負っていると言っても過言ではないが、エミーの包帯塗れの顔は一向に崩れない。


「これだけの植物の種を埋め込めば体に負担もかかるはずだってのに、気にも留めねえんだな! ローラに何をやらされりゃ、ここまで自我が壊れるんだか……」


 散弾銃をリロードしながら何気なく呟いた、ハーミスの言葉がまずかった。


「グイイ、ガアアアアーッ!」


 急にエミーは目をぐるぐると動き回したかと思うと、彼女の絶叫に応じるかのように、蔓が一斉にハーミスに襲いかかってきたのだ。

 速さも、勢いも先程までの比ではない。ハーミスは速度の違いに一瞬だけ反応しきれずに、思わずアサルトライフルを叩き落とされてしまった。蔓によって巻きつけられ、握りつぶされるさまを見てもまだ、彼は自分の中のギアを高めようとしなかった。


「ローラの名前は禁句ってかよ、マジで誰と話したんだ……痛でッ!」


 しかし、右腕を蔓が掠め、腕ごとコートが裂かれた途端、彼は我に返った。

 血が噴き出す腕も抑えずに、ハーミスは逆上した様子のエミーを見つめる。天井や壁から襲い来る十本、二十本の蔓。殺意が篭った攻撃を、ここで対応するのは不利だ。


「これだけの植物相手じゃキリがねえな、ここはひとまず撤退させてもらうぜ!」


 ハーミスは、敵に背を向けないだとか、逃げるのは恥であるとか、そんな思考はなかった。この現状が敵にとって最大に有利だと理解すると、ハーミスは散弾銃を手にしたまま、最も近い通路の中に飛び込み、駆け出した。

 蔓はうねりながらハーミスを追いかけてきたが、彼は振り向きざまに散弾銃を放ち、通路の天井を崩落させた。びたびたと何かが激突する音はするが、貫通はしてこない。

 これで時間が稼げると思ったハーミスは、だっと走り出した。

 幸い相手は植物で、魔力の銃弾で燃え、破壊できたのは確認できた。ハーミスは植物にはそう詳しくないが、燃えるのならば、対策自体は簡単だ。

(相手は植物、燃やすのが一番だ! 『通販』(オーダー)であいつを燃やす手段は整えられるとして、後はどうやって隙を作るか――)

 『通販』のアイテムをカタログで見ていた時に、うってつけのアイテムがあるのは覚えていた。だからハーミスとしては、時間をかけて作戦を整えるだけで良いと考えた。

 そんな彼の足首に、するりと何かが触れた。

 欠けたゾンビの手足がぶつかったのかと思い、彼は足元を見た。


「――は?」


 違った。

 彼の足に噛み付こうとしていたのは、先端に蛇の頭のような突起と口、無数の小さな歯が生えた蔓だった。それが大口を開け、今まさに閉じようとした瞬間だった。


「う、うおおおおッ!?」


 反射的にハーミスが足を前に振ると、蔓の口は虚しく空を切った。だが、目のない蛇蔓――彼が勝手に命名した――は諦める様子を見せず、それどころかハーミスの走る速度に匹敵する速さでついてくる。

 更にもう一匹、通路の奥から同じ蔓がやってきた。まさかエミーが追いかけてきたのかと思い、蔓の後ろに目を凝らすが、誰かがいる様子はない。


(エミーに追いつかれたのか、いや、いない! 少なくとも俺の視界にあいつはいないし、噛みついて来てる植物にも目らしい部位はねえ!)


 考えを巡らせる間にも、がちん、がちんと蛇は噛み付こうとしてくる。通路を抜け、少し広い掘削場に出てきても、まだ二匹は追いかけてくる。


(なのに、どうして俺の居場所が分かるんだ!? 音か、動く音なのか!?)


 どうやって追いかけてくるのかと頭を捻っていると、今度は三匹目が、二匹目の後ろから這い出てくる。どうやって、エミーもいないのにハーミスを追いかけてくるのか。

 もしかすると、音で判断しているのか。試すように、ハーミスは立ち止まった。そして直立不動の姿勢を取り、自分は害がない、自分は石ころであると強く念じた。


「違げえ、痛っでぇ!」


 何の意味もなかった。

 寧ろ、蛇蔓達は好機だと言わんばかりに噛み付いてきた。細い歯が腕と足に突き刺さり、血が滲み出る。無理矢理引き剥がそうとしても、蛇の力は相当強く、歯を食いしばらないと腕から離せなかった。


「この野郎ッ!」


 散弾銃を向けて引き金を引くと、魔力弾で蛇の頭が吹き飛ぶ。それで一度は収まるが、奥から後続がわらわらとやって来る。これでは逃げた意味がまるでない。


(駄目だ、一本二本潰したところで意味がねえ! どんどん後続が来やがる!)


 散弾銃をリロードする余裕もなく、ハーミスは再びだっと逃げ出した。


(どういうことだよ、エミーが近くにいないのに植物が俺の居場所を把握してるなんて、ありえねえだろ! どんな植物を使ってんだ、こいつは……)


 どうすれば逃げ切れるか、とばかり考えていたからだろうか。

 不意に、ハーミスは掘削場のごつごつした岩に躓いてしまった。


「うわ、おっと、おとととッ!?」


 しかもそのまま、彼は偶然あった泥の水たまりに顔から突っ込んでしまった。


「泥の水たまり!? 誰かが掘削作業してた後なのか……って、マズい!」


 顔中汚い水塗れ、コートも服も、傷口すらびしょびしょになってしまう。細菌が入り込むとまずい、と考えるよりももっとまずい事態が、ハーミスに近づいてきていた。

 振り返った彼の前には、蔓蛇がいた。大きな口を開いて、今まさに彼の体に触れようとしていた瞬間である。ハーミスは散弾銃を構えようとしたが、ここにきてリロードをしていなかったのを思い出した。

 非常にまずい。ハーミスの頬を、泥水の混じった汗が伝う。

 今度はどこを噛まれるのか、と呼吸すら浅くなり、目の黒点が小さくなった。

 ――だが、蛇は彼を噛まなかった。

 それどころか、まるで彼がその場にいないかのように、ひくひくと何度か鼻をひくつかせると、そのまま通り過ぎて行ってしまった。蔓はエミーのいるところから繋がっているのか、途切れる様子はなかったが、とにかくハーミスは襲われなかった。


(……通り過ぎた、何でだ……?)


 ゆっくりと水たまりから起き上がったハーミスは、自分の体の変化を探す。音も出した、動きもしたのに気付かれなかった唯一の変化を、彼は見つけた。


(そうか、血だ! 俺の血の匂いを追って来てたんだ、あの植物は! ちょっとでも匂えば追いかけてくるが、消えたら直接触る方法意外じゃ見つけられねえんだ!)


 水たまりに落ちた彼のさっきと唯一違う点は、血だ。

 蔓に斬られた腕の血が、泥に覆われて止まっていた。憶測でしかないが、水の音や動きもあったのに敵が見逃した理由は、それしか考えられない。

 いずれにせよ、試す価値はある。というより、これを試してみるほかない。


(からくりは分かった、あとはエミーを嵌める罠を作るだけだ!)


 彼はそっと蔓を跨ぎ、蛇達が進んだ方向とは別に、こっそり歩いて行った。


【読者の皆様へ】


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