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経緯


 彼女としては、ある程度誤魔化せていたつもりだったのだろう。それくらい重い話なのか、それとも話せば自分達に対して悪い印象を持つと思っているのだろうか。いずれにしても、何も話さないよりはよっぽどましである。


「……そうじゃな、やはり気になるか」


 だが、一同のアルミリアを見る表情から、話してくれという意図を感じ取ったのか。

 とうとう諦めたような態度で、四人に向かって話し始めた。


「この地について、先に話すとしよう。ここは『忌物の墓』――国に仇名す者を捨て、死後も尚貶める為だけに作られた、忌まわしい墓じゃ」


 人の近寄らない地の成り立ちを語る彼女の様相は、落ちた貴族の表れにも見えた。


「『忌物の墓』と呼ばれるまで、ここはただの墓じゃった。カタコンベとしても使われておったし、今ここにいるゾンビの三割ほどは、その時の死体じゃ」


 アルミリアの語り口調は、高貴な者というよりは、老人のようだった。皮肉なことだが、さっきの明るい話よりもずっと、ハーミス一行の食いつきは良かった。


「三割? じゃあ、残りの七割は……」


 クレア達が見た大量のゾンビの、その七割がどのように増えたのか。やや話を渋ったアルミリアに代わり、すっと彼女の隣に立ったオットーが、話を続けた。


「……聖伐隊が台頭する少し前、世に知られない影の粛清が始まった頃に棄てられた死体でございます。聖伐隊を良しとしない者への虐殺です」


「聞いたことがあります、レギンリオル上層部や貴族の間でも、強硬派と穏健派のトラブルがあったと……穏健派は反聖伐隊派として、相当揉めたと噂では……」


「うむ、揉めた。大変揉めた――その末に、奴らは穏健派を始末することに決めた」


 最高指導者のひ孫である彼女の瞳には、今もその時の光景が残っている。

 ふかふかの天蓋付きベッドで眠っていたアルミリアの耳に聞こえてきたのは、オットーやメイドの叫び声、慄き、シーツを掴む彼女の部屋に飛び込んできたのは、恐ろしい形相の兵士達。たちまち囚われた彼女が部屋を出る時に見たのは、付き人達の亡骸。


「一部の権力者を、反乱を企てたとして処刑した。付き人、メイド、穏健派の復権に関わると少しでも疑われた者は悉く始末された。挙句の果てに、国に仇名す者を永劫暗黒の地に晒すとして、この墓地に埋められるようになったのじゃ」


 アルミリアの死は、絞首によって執行された。罪状は取って付けた程度だったが、国に反逆した者として、誰もが納得し、彼女の死を喜んだ。

 両親や親族は燃やされたが、アルミリアはあくまで末端として、燃やす価値もないと判断された。ゴミのように捨ててやるのが辱めであると、強硬派の誰かが言ったので、アルミリアやオットー、何人かの従者は捨てられた。

 塵芥を処分するように。邪悪を滅すると称し、亡骸に何一つの経緯は払われなかった。

 話を聞き、ルビーは露骨に聖伐隊への怒りを表していた。ハーミスやクレアも同様で、普段は表情をそう見せないエルですら、邪悪への嫌悪感に満ちていた。


「凄まじいわね、聖伐隊と強硬派ってのは。仮にとんでもない国益が出るにしても、穏健派を丸ごと始末なんて、洗脳でもされてなきゃやらないでしょうに」


 ともすれば国民からの反感を買いかねない凶行を思い立った背景には、本人達だけの意思ではない、別の誰かの思惑があったはずだ。ハーミスには、思い当たる節がある。


「……されてたんだろうな。『選ばれし者達』には人を洗脳する奴が、ティアンナがいた。そいつを使って、邪魔者を排除したんだろうよ」


 今は爆散して死んだティアンナが、強硬派の一部を洗脳した可能性は十分にある。

 とにもかくにも、そこからこの地は忌まわしい存在となった。最初から汚らしい、薄気味悪いと言われればそこまでだが、反逆者の埋められる地と言われれば、国民や聖伐隊も近寄る気にはなれないだろう。


「わらわやオットー、従者を皮切りに、国家反逆などの重罪を犯したとされる者の死体がここに棄てられ、土の状態もあってか自然に埋まるようになっていった。それからじゃ、この地下墓地が『忌物の墓』と呼ばれるようになったのは」


 少なくとも、忌物などと呼ばれる地には、誰も触れたくないはずだ。


「クレア、いみもの、って?」


「あんたは知らない方が良いわよ。あたしがそう呼ばれたら、呼んだ奴をブチ殺しかねない言葉ってくらいに覚えときなさい」


 やや納得いかない様子だったが、ルビーは頷いた。

 話を聞いていたハーミスとしては、恐らくその事柄だけでは忌物と呼ばれるには足りないと思っていたが、予想は当たっていた。


「私達の外にも、国境周辺で殺された魔物や亜人の死体も遺棄されたようでございます。その影響でしょうか……お嬢様と私は魔力の影響を受け、蘇ったのです。他の従者は損傷が酷く、復活は致しませんでしたが……」


 オットーの話が正しければ、反逆者に加えて魔物、亜人まで埋められたのなら、これはもう忌物と呼ばれても何らおかしくない。ただ、ハーミスはそれとは別に、二人のあまりにあっさりとした誕生ヒストリーに驚いていた。


「おいおい、そんなてきとうな調子で復活するもんなのか?」


 ハーミスがエルに問うと、彼女も少し困惑した様子で答えた。


「ゾンビの発生については、まだ不明な点が多いんです。集団での覚醒や偶発的な事象も含めて……今回の場合は、地下墓地の神秘的な力に、死体に籠った怨念やその類の思念が共鳴し、誕生したのかもしれません」


 エルが言うなら、そうなのだろうと思うしかない。

 彼女で分からないのに、他の面々が考えるだけ無駄と言える。とにかく偶然、アルミリアとオットーはゾンビとなり、再びの生を受けられたのだ。


「わらわ達二人だけでは、広い地下墓地で復活して、ただ終わりであった。じゃが、そうはいかなかった――わらわには能力があったのじゃ」


 そうならなかったのは、アルミリアのみに与えられた、神様からの贈り物。

 或いは、ハーミスと同じ、報復の許可証。


「生者ではなく、死体を噛み、同胞とする力が」


 生き返っただけなのかと絶望に打ちひしがれそうになった時、彼女はゾンビとしての本能に駆られたのか、地下墓地に埋没していた死体に噛み付いてみた。

 すると、奇跡が起きた。

 死体は目の前で起き上がり、彼女に感謝の言葉を述べた。まさかと思い、同じ機会に死んでしまった者や、反逆者として別の時期に死んでしまった者を噛んでみると、のっそりと起き上がり、アルミリアの名を呼んだ。

 その時、彼女は理解した。自分に与えられた能力と、これを使い、山ほどの死体やこれから増えていく死体を用いて、新たなる穏健派を作り上げるのが使命であると。

 ただし、穏健と言っても、自分達を殺した連中に対してはそうはいかない。


 聖伐隊と、この国にのさばる強硬派を倒す。その為に、彼女達は復活したのだ。


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