表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

150/253

対空


「よーし、行くよー! ルビーに続けーっ!」


「「グオォォ――ッ!」」


 翌日の朝、陽が昇った頃、ワイバーンの一団とハーミス一行は空を飛んでいた。

 先頭は当然の如くルビーで、後ろにトパーズに乗ったハーミス、他のワイバーンに乗ったクレアとエルが続いている。

 残りの飛竜達は、横に広がるように飛んでいる。緊張感の欠片もなく、ルビーの鬨の声に従って吼える彼らの声を聞きながら、クレアは呆れた様子で肩をすくめる。


「ワイバーン連中、昨日の静かな奴らと同じとは思えないわね……ハーミスの通信機がなかったら、互いに会話もできないじゃない」


 彼女はそう言って、右耳に差し込んだ黒い装置を叩いた。

 これはハーミスが先日購入した、『魔導電波通信機』だ。相当遠くまで離れていなければ、どれだけ周囲が喧しくても会話ができる。今回の作戦では必ず別れて行動する為、しっかりと声を聞けるルビーを除き、これを取り付けている。


「だな、『魔導電波通信機』の調子はどうだ? 俺の声は聞こえてるか?」


「聞こえてるわよ」「問題ありません」


 二人の声が聞こえてきたのを確認しつつ、ハーミスは頷く。


「ならオッケーだ……それにしても、些か不用心過ぎねえか? 高度的に敵の攻撃は当たらねえだろうが、もしも相手に策があれば、こっちは格好の的だぜ」


 大袈裟と言ってもいいくらい乱雑な飛び方をするワイバーン達を指揮しているのは、当然ルビーだ。いくらこちらに分があると言っても、無警戒にも程があるだろう。

 ハーミス達の心配などどこ吹く風で、ルビーは呑気に飛んでいる。


「大丈夫だよ、こんな空高くに攻撃できる人間なんていないよ! 今日はルビーが判断するから、ハーミスは安心してね!」


「あんたが指揮するのが不安だって言ってるのよ、大体ねえ――」


 だが、クレアが彼女を嗜めようとすると、表情が険しくなった。


「――ルビーがやるの。ワイバーンはクレアじゃなくて、ルビーに従ってるんだよ!」


 そしてぴしゃりと、クレアに向かってきつい言葉を放った。

 いつものルビーとは思えないほど辛辣な口調で、しかも明らかに怒りを伴っている。こんなルビーは誰も見たことがなく、思わずクレアどころか、他の二人も驚いた。


「……どうしちゃったのよ、あんた……?」


 クレアが顔を顰める中、エルの声が聞こえた。


「怒鳴っているところすみませんが、バルバ鉱山が見えてきましたよ」


 彼女が指差す先には、やはり奇怪な雰囲気を齎す、輪の付いた施設。

 天に向かって細い光を放ち、ぐるぐると回る輪は、何度見ても不気味だ。


「ルビー、どうですか? 敵の姿は見えますか?」


「ううん、あの時と同じで、ぼろ切れを着た枝みたいなのしかいないよ! こっちを見てないし、今ならいける! 皆、攻撃を仕掛けよう!」


 目を細めたルビーの言う通り、相変わらず鉱山の周りや坑道の入り口には、おかしな採掘者しかいない。吹けば飛ぶような見た目で、いかにも弱そうだが、ハーミスからすればそんな状態自体がおかしいとさえ思える。

 なんせ、聖伐隊が必死に組み上げ、『選ばれし者達』が情報を共有するほどの施設だ。警備が薄いなど、ましてや防御策がないなど、どう考えてもあり得ないのだ。


「そりゃ何でも早すぎるぞ、ちょっと落ち着け……」


 ハーミスはルビーに警告しようとしたが、いよいよ人間の目でも坑道の入り口が見えた時、彼は自分の目が、節穴でないことを祈った。

 ――見ていた。採掘者のうち一人が、こちらに顔を向けている。

 赤い瞳。じっとワイバーンの群れを見つめているのに気付き、ハーミスは叫んだ。


「見てる。あいつら、俺達を見てるぞ! ルビー、一旦退け!」


「ハーミスの気のせいだよ。ルビーはちゃんと確かめたよ、あいつらは――」


 何も見ていない、とルビーが言おうとするよりも先に、変化は起きた。

 輪の中心から流れ出る細く赤い光が、急に止んだのだ。

 それだけならば、ちょっとした故障か何かだと思うだろう。寧ろ好機だと、ハーミスでも突撃を命令したかもしれない。

 ルビーの声を遮ったのは、その挙動が故障などではなく、『攻撃』だったからだ。


「――え?」


 なんと、輪の中心に光が集まったかと思うと、細く鋭い光がワイバーンの群れに向かって放たれたからだ。まるで矢のように飛んできた光は、ルビーの左後ろを悠々と飛んでいたワイバーンの顔面を貫き、一瞬で絶命させた。

 振り向き、墜ちゆく飛竜をただ眺めるルビー。呆然とする一行の中で、一番早く事態を呑み込み、命令を下したのは竜の王ではなく、ハーミスだった。


「――『輪』からだ、あのリングの中から魔力弾みたいなのが飛んできた! 皆、出来るだけばらばらに散れ! また撃ってきたら、的にしかならねえぞ!」


「た、たまたまだよ! 二度も「あの光が見えねえのか!?」」


 慌てるルビーに向かって、ハーミスは怒鳴りながら輪を指差した。

 彼の言う通り、その中心部には赤い光が波打って集まっていた。彼は決してあのような物体に対して博識ではなかったが、攻撃がこの一度で終わるとは思えなかった。


「……そんな」


 攻撃が届くはずがない。ワイバーンが簡単にやられるはずがない。

 あっという間に計画が瓦解して、顔中に焦りをありありと浮かばせるルビーを置いて、エルが坑道を指差しながら叫ぶ。


「まずい、ハーミス! 下を見てください、ぼろ切れの連中が!」


「何が、って!」


 気が付くと、ぼろ切れを纏った何かが、わらわらと集まっていた。

 一人、二人、十人どころではない。巣から這い出てきた蟻のように、彼らは凄まじい勢いで採掘場を埋め尽くしてゆく。しかも、いずれもこちらを見ているのだ。赤い瞳で、灰色のぼろの奥から。

 ただ数が集まるならば、何もまずくはない。まずいのは、彼らが手にしたそれ。

 細長い筒のような、銀色のそれ。

 その先端がワイバーン達に向けられると、僅かな赤い瞬きの後に、輪から放たれたような光が一向に向かって撃ちこまれた。

 今度は、油断していた他のワイバーンの頭が打ち抜かれ、墜ちる。あっという間に混乱が広がり、ルビーが指揮に戸惑う中、ハーミスは静かに呟いた。


「……こりゃあ、マズいな」


 冷静さを保とうとしていたが、この状況はあまりにも危険すぎる。いつもは落ち着いているはずのエルですら、想定外にも程がある状況を前に、声が上ずっている。


「どういうわけですか、あの武器の射程距離は魔法のそれではありません。まるで――」


 赤い光。銃身のような筒。まるで、これでは。


「――まるでハーミス、貴方が買った武器のようです!」


「俺もそう思ったよ! とにかく、こうなったら仕方ねえ……作戦開始だ!」


 ルビーではなく、ハーミスの一言で、ワイバーン達は一斉に動き始めた。

 言葉が通じなくとも、始まりの合図だけは通じていた。


【読者の皆様へ】


広告の下側の評価欄に評価をいただけますと継続・連載への意欲が湧きます!

というかやる気がめっちゃ上がります!

ブックマークもぜひよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ