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赤竜


「ふう、覚えてくれてたのは嬉しいぜ、ルビー……とりあえず、ちょっといいか?」


 どうにかルビーをどかして起き上がったハーミスの前で、ルビーはまるで忠犬のような様子を見せていた。さっきまでの警戒心が、嘘のようだ。


「なに? 貴方の言うことなら、ルビーは聞く!」


「ちょろいわね」


「よせよ、せっかく仲良くなったんだから。ルビーがドラゴンじゃなくて人間の姿をしているのも気になるけど、まずはお前の母親と村についてだ……何があった?」


 ところが一転、ハーミスが真相について聞くと、ルビーの顔がたちまち曇った。

 しまった、とハーミスもクレアも思ったが、聞かなければ始まらないのも事実だった。ただルビーの口が開くのを待っていると、静かな洞窟に、ルビーの声が響いた。


「……人間が、ドラゴンを裏切ったの」


 そうではない、と言いたかったが、ドラゴンからすれば、きっと真実だろう。


「昔から、ルビー達の一族は魔物を攻め込ませない代わりに、ドラゴンが住みやすい洞窟と、森に住まわせてもらってたの。ずっと、ずっと人間とドラゴンは仲良しで、今の村長さんも良くしてくれたし、たまに空を飛ぶのも許してくれた、村を見るのも」


 魔物との共生ではなく、ドラゴンとの共生と呼ぶべき生活が続いていたらしい。


「……さっき言った、金髪の子とその仲間以外は」


 誰かは分かっている。ローラと、『選ばれし者達』だ。

 ハーミスが転落死してからの全てを聞けなかったが、きっとローラは、あの後も魔物に対して何かをしでかしていたのだろう。人々からすれば力を誇示出来て良いだろうが、村長や村の古参からすれば、関係性を崩す危険性がある。


「……ローラだな。魔物との共生を破棄したって聞いたぜ」


「魔物だけじゃない、ドラゴンとも、だよ。村長さんが言ってた、金髪の子が私を狙ってたのは、自分達が魔物とも戦えるって証明する為だって。村長さんは、金髪の子を信用してなかったみたいだけど、皆は共生をやめるって言ったの」


「その頃から、魔物の廃絶だなんだってのを計画してたってわけだ」


「皆がだんだん、村を守る必要がないって言って……本当はもっと大きな洞窟に住んでたけど、村長さんがこっちに住んでくれって。目立たないようにする為だって」


 いや、関係性を崩すのが目的だったのだ。

 人間は危険だと思い知らせるのが、魔物は人に駆逐される運命だと知らせるのが目的だった。今現在、村に残っている者も、一時はそんな思想に染まったのだろうか。

 守りは必要ない。そんなはずがなく、村の為にもドラゴンを守るべきと気づいた時には、狩人がやってきて、歯向かう者を殺した。皮肉なものである。

 ハーミスが複雑な状況を頭で整理していると、横からクレアが質問してきた。


「そこまでして、あんた達ドラゴンを匿う理由が分かんないんだけど?」


「村長は多分、ルビー達を外に出せばローラ達に狙われると思ってたんだろうな。それに、ドラゴンの歯や鱗は……高く売れる。守っている意味合いもあるだろ」


 間を開けたのは、言っていいか悩んだからだ。しかし、ルビーは気にしていないようだった。


「村長さんも、そう言ってくれた。特にルビーみたいに、人間に変化できるドラゴンは珍しいから、ここから出ると悪い人に襲われちゃうって」


「そういう能力があるのね。そんで、今度は村がドラゴンを守ってやった、と」


 貴重な能力を持つドラゴンとその母親は、村長の手によって守られた。ローラ達がいなくなってから、村長はきっと、ドラゴンがどれだけ大事かを村人に普及したに違いない。

 だからこそ、今残った村人は、己の行いを悔い、ドラゴンを大事に守ろうとしたのだ。


「……でも、金髪の子がいなくなって暫くしてから、白い服の人達が来たの。ママは悪いドラゴンだから、やっつけてやるって。差し出さないと、村の人を殺すって」


 その時点で、全てが手遅れだった。聖伐隊は結成され、ドラゴンも狩りの対象となった。


「矛盾の塊をよくも言えるわね、あの連中は。あたしの方がまだ道理に沿ってるわよ」


「言えてるよ。どこかでドラゴンのことを知ったんだって村長は言ってたけど、もしかするとずっと知ってたのかもな……時が来たら、最初から狩るつもりだったのか」


 ルビーは頷いた。


「あの人達、ママが隠れてると、本当に村の人達を殺し始めたの。そしたらママが、ルビーにここに隠れているように言って……外に出て行って……!」


 彼女は今も覚えている。村の声はここからだと聞こえないが、村長がここに来た時、彼の肩は血に塗れていた。彼の血ではなく、同胞の血だった。

 恐ろしい人間達の目に留まらないように、どうにかしてここに来た。今にもここに連中がやって来るかもしれない、早々に逃げてほしいと、村長は息を切らしながら叫んでいた。その話を、ただ母親は聞いていた。

 ルビーは、この洞窟の生活を名残惜しいとは思っていなかった。しかし、母親は違った。娘に遺言を残し、洞窟を出た。

 暫くして、村からも聞こえるくらいの、竜の断末魔が聞こえてきた。

 絶叫は、今もルビーの鼓膜にこびりついて離れない。


「ルビーもママも、人間と一緒に暮らしたかった! なのにどうして、人間はあんなに酷いことをしたの!? 分かんない、ルビー、分かんないよ!」


 母の声を掻き消すように、ルビーはぼろぼろと大粒の涙を流しながら、吼えた。

 守れば不要と言い、篭れば狩る。

 人間の理不尽さを、人間二人はただ俯き、聞いた。


【読者の皆様へ】


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