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変貌


 千切り殺す。そう聞くのと、ハーミスが散弾銃を撃つのは同時だった。


「どんな姿だろうが関係ねえ、フォーバーみてえに頭をぶっ飛ばしてやるよ!」


 拡散した魔導弾はシャロンの体だけでなく、手足と触手、翼をも撃ち抜いた。フォーバーであれば肉を抉り取り、破壊できる威力のはずだが、シャロン相手には違った。

 弾丸が貫通した部位が、瞬く間に再生していた。どう見てもフォーバーよりも早い再生速度を見たハーミスは、更に銃弾を撃ち込んだ。シャロンの体は弾け飛んでいくが、再生する方がそれよりも早く、彼女もその事実に気付いているようだ。


「無駄無駄、無駄じゃん。あのデブ以上に、うちはスキルを把握してるじゃん。例えば、こんな風に、じゃん!」


 距離を詰めながら散弾銃を乱射するハーミスだったが、それはまずかった。


『アアア――……』


 口が無傷だったシャロンは、何とセイレーンの歌を、裂けた口から奏でたのだ。

 散弾銃の引き金を引こうとしたハーミスだったが、耳が歌を受け入れた途端、力が入らなくなった。岩場で歌を聞かされた時のように、散弾銃を落とし、その場にへたり込む。


「――う、ぐ、この……」


 セイレーンの場合は、そのまま飛び上がり襲いかかってくる。相手から接近してくれれば、或いは反撃のチャンスがあったかもしれない。

 しかし、シャロンは動かなかった。代わりに襲いかかってきたのは、彼女が背中から生やした烏賊の足で、鞭のようにしなるそれが、ハーミスの体を縛り上げ、思い切り砂浜に叩きつけた。

 体に衝撃が走り、歌が途切れた時には、もう彼は抵抗すらできない。


「やっぱり、セイレーンの歌は効果覿面じゃん! そして一度捕まえたら、もう、お前に勝ち目はないじゃんよぉッ!」


 シャロンは高笑いしながら、思い切りハーミスの体を振り上げたかと思うと、そのまま勢いよく海に放り込んだ――というより、水面に激突させた。


「ぐおああぁぁッ!」


 いくら水とはいえ、相当な勢いで衝突させられれば、砂地にぶつけられるよりも強い痛みを齎す。しかもこちらは、呼吸のできない水中に沈む、おまけつきだ。


(海、マズい、水中はマズい! さっさと陸地に……)


 触手が離れたのを感じたハーミスは、必死に地上に戻ろうと、泳ごうとする。

 だが、水中で手足をばたつかせるハーミスの視界に飛び込んできたのは、魚のように全身を使って突進してくるシャロンの姿だった。これでもかと口を開いた彼女に激突したハーミスは、命中した腹部に、鋭く深い痛みを感じた。

 なんと、口の中に生えたサメの歯が、彼の肉に突き刺さっているのだ。


「が、ごぼ、ごぼおおあああああッ!」


 シャロンが口を閉じれば閉じるほど、ハーミスの体に空いた穴から血が噴き出し、水混じり合ってゆく。尚も泳ぎ続けるせいで、地上が遠ざかってゆく。力を込めても引き千切れないハーミスの体に、シャロンは目に見えて苛立ったようだった。


「この歯で噛み千切られないとは、いい体してるじゃん! 陸地に戻りたそうな顔してるじゃん、それじゃあ、お望み通りにしてやる……じゃんッ!」


 噛み千切るのを諦めて、シャロンは歯を離した。代わりにもう一度触手で彼を掴むと、浜辺に向かって放り投げた。


「うっぐう……ッ!」


 もう、彼には着地する体力も残っていなかった。砂場にぶつかり、二、三度転がって、仰向けで呻くだけのハーミスの前に、シャロンが舞い降りる。


「四人も『選ばれし者』を殺した割には、大したことないじゃん。攻撃力はかなり高いけど、防御の方は所詮ただの人ってとこじゃん」


「この、野郎……!」


「ま、どうでもいいじゃん。予定通り千切り殺して、お終いじゃん」


 ポーチをまさぐる力も籠められず、腹部から血が漏れ出す。

 シャロンの触手のうち、一本がうねうねとハーミスの真上で揺れる。たちまち先端を尖らせたそれは、彼の心臓に向けて少しだけたわみ、一気に振り下ろされた。


「それじゃ、死ね――」


 確かに、殺意を持って振り下ろされた。

 振り下ろされたが、命中はしなかった。


「――ぶ、んっごぉ」


 ハーミスの心臓を触手が貫く前に、桃色のオーラに包まれたバイクが、シャロンの体に直撃していた。爆発はしないが、バイク諸共、彼女の体がひしゃげた。

 バイクが跳ね飛ばされ、シャロンが揺らぐ。その好機を逃さず、赤い影が瞬いた。


「ハーミスに、何、してんだああああぁッ!」


 その赤い影は、黒い籠手に魔力を纏わせ、渾身の力でシャロンの上半身と下半身を引き裂いた。人間を超越した力は、強化された彼女の体を容易く真っ二つにして、上だけを遠くに投げ飛ばした。

 小刻みに呼吸をするハーミスの前で、下半身がドロドロに溶けてゆく。その肉を踏み潰し、彼の前に立ったのは、エルとルビーだった。

 桃色のオーラと赤い光をそれぞれが纏い、仲間を傷つけられたことで明確な怒りをシャロンに向けている。それはまた、ハーミスを後ろから抱え起こしたクレアも同様だ。

 未だ呼吸が荒いままのハーミスがどうにかして体を起こすと、シャロンもまた、下半身を再生させた。何回か瞬きする間に、シャロンは鉤爪の足を取り戻す。


「随分といきなり、乱暴じゃん。お前らがローラが言ってた、ハーミスの仲間じゃん?」


「どういうことなの? ルビー、確かにあいつを真っ二つにしたよ?」


 肉が内側から這い出てくる様子に、ルビーも目を丸くする。

 この場で唯一説明できる立場にあるのはハーミスだけだったが、彼はそれよりも、どうして居場所を伝えていない三人とバイクがここにいるのかが疑問だった。


「皆……どうして、ここに……?」


「あのクソでかい船に忍び込んできたのよ、聖伐隊がセイレーン達のいる島に何かを探しに行くって聞いてね。ていうか、あんまり喋んない方が良いわよ。傷口、ヤバいから」


 クレアが触れたハーミスの腹には、幾つも傷痕が連なっていた。巨大な歯型は、まるで鏃で何回も穴を開けられたかのようだ。しかも、血まで湧き出している。

 成程と頷くよりも、彼はクレアの手を掴み、言った。


「俺のことは、いい……岩場に洞窟がある、そこに行ってくれ……!」


「洞窟? 何言ってんのよ、そんなことより一旦逃げないと!」


「いいから行ってくれ! クラリッサが捕まれば……」


 状況も現状も理解できないまま、他の三人が困惑する。ハーミスは自分が冷静なつもりでいるが、実際は出血と、意識の混迷で、まともな判断が難しくなっている。

 事情も話さないままただ名詞を告げ、指示もできないハーミスを見ていたシャロンだったが、ふと、アルゴーと燃え盛る森、岩場に視線をやった。

 それから、口元を吊り上げて笑った。


「……もう遅いじゃん。見るじゃん、アルゴーが動き出したじゃん」


 シャロンの言葉でハーミスが振り返ると、アルゴーと呼ばれた白い船は、砲撃も攻撃もやめ、ゆっくりと島から離れようとしていた。聖伐隊の隊員が島に残っている様子もなく、関心を失った子供のように離れてゆく。

 もしや、とハーミスが察した時、既にシャロンは海に飛び込んでいる途中だった。


「もうお前らに用はないじゃん。喰う価値もないし、ここはおさらばじゃん!」


 捨て台詞にも聞こえる言葉を言い切ってから、彼女は海の中に姿を消し去った。

 残されたのは、ハーミス一行と燃える島。

 そして、聖伐隊が目的を果たしたであろうという、不確かな事実だった。


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