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兄妹


 兄のフォーバーは、鈍重ながら力持ちで、村の力仕事に貢献した。

 妹のシャロンは、どんなものでも美味しく楽しく食べる。ムードメーカーだった。

 どちらも表向きの顔でしかないと知っていたのは、ハーミスだけだった。シャロンは自分のスキルを使い、文字通り無能な彼が大事にしている生き物を、戯れ程度に食べた。

 彼女のスキルには何も貢献しない、無意味な行い。ただの嫌がらせに過ぎない。


『やめて、やめてよ! その子、怪我が治ったばっかりなんだよ!』


 暗い森に連れ込まれ、ハーミスは抵抗した。目の前で小さな小さな魔物をシャロンに掴まれた。フォーバーに羽交い絞めにされた彼は、ただ叫ぶことしかできなかった。


『だから美味いんじゃん、見なよ、この顔! 怯えたこの顔、最高に美味そうじゃん!』


『うごくな、ハーミス。うごいたら、もっと、いたくするぞ』


 抵抗すら許されぬまま、生きたまま小さな魔物は喰われた。絶望するハーミスの前で、シャロンはこれ見よがしに咀嚼しながら、肉塊を見せつけた。


『やめて、お願いだから、やめて……!』


『そう思うならもう何も育てなきゃいいんじゃん、助けなきゃいいじゃん。ま、お前が何もしなくたって、うちは食べ尽くしてやるけどな、ぎはは!』


 彼女の笑い声は、今でも耳にこびりついている。自分を蹴落とす時にも、笑っていた。

 二人が覚えているかはともかく、ハーミスは何度も魔物を助けようとしたが、その度に目の前で食われた。時には遺骸を部屋に放り込まれた。明らかに単なる捕食ではなく、快楽を含めた行為であるのは明白だった。

 明確に思い出した痛みは、ハーミスの心を完全に支配していた。だから、隣で彼を揺する動きにも、彼を呼ぶ声にも、全く気付かなかった。


「ハーミス、聞いてんの、ハーミス!?」


 クレアがどれだけ呼び掛けても、ハーミスはちっとも反応しない。他の二人も、少しばかり異常だと思う中で、今度は敵の方に動きが起きた。


「クレア、あれ! あの二人が離れてくよ!」


「離れてくって、どういう……本当だ、セイレーンを一匹捕まえて、何するつもり?」


 彼女の言葉を聞いて、ハーミスの意識は敵の方にようやく向いた。

 聖伐隊はセイレーンに手間取っているようだったが、そのうち一匹が矢で射られ、地に落ちた。それを隊員達が捕えて、縄で拘束される。フォーバーとシャロンに命令され、その場を去ろうとする。

 これから彼女が、何をしようとするのか。ハーミスは気づいた。


「――ッ!」


 復讐の許可証である『通販』(オーダー)スキルの『注文器』(ショップ)が、微かに光った気がした。

 思考が体に行き渡るより先に、ハーミスは岩陰から飛び出していた。彼はライセンスをその場で砕きながら、三人が気づくよりも先に、町の裏側からシャロン達を追った。


「あ、ちょ、待ちなさい、ハーミス!」


 慌てて彼を追いかけようとしたクレアだったが、そうはいかない。


「「キャーハハハハ!」」


 聖伐隊から逃げ出すかのようにこっちに飛んできたセイレーンが、クレア達と、まだ逃げている途中の住民達に気付いたのだ。勿論、聖伐隊も追いかけてくる。

 嬉々として襲ってくる敵を前に、これ以上の分散は許されない。そう判断したエルによって、クレアは引き戻され、岩陰からも離れた撤退を余儀なくされる。


「クレア、こっちにもセイレーンと聖伐隊が来ます! 一旦身を隠しましょう!」


「ったく、あのバカは……分かった、こっちに来た聖伐隊を捕まえて隊舎の場所を聞き出すわよ! そうすりゃあいつの向かった場所も分かるでしょ!」


「その案に賛成です! ですが一旦……」


「分かってる、分かってるわよ、ああ、もう!」


 苛立つクレアを他所に、ハーミスはマントすら脱ぎ棄て、銀の髪をたなびかせて走っていた。露店の中をかいくぐり、海岸に沿うように走っていた。

 仲間のことは、頭から消え去っていた。彼は自分を、チームの中では幾分冷静な方であると称することが多かったが、復讐が絡むと、その冷静さはたちまち失われる。どこに行くかも分からないのに追いかけるこの独断が、その最たる例と言えるだろう。

 聖伐隊とセイレーンの戦いを無視して、ただひたすら走ると、その先に見えてきたのは、整備された地区。木造りの港に、隊舎のような建物と、小さな舟が幾つもある。きっと、これが将来的に大陸へ侵略する為の拠点となるのだろう。

 ハーミスの走る速さは、兄弟が歩くよりもずっと速い。聖伐隊の隊舎の裏を走り、魔導式低反動拳銃のリボルバーを回しながら、ぐるりと回りこむように疾走して、そして。

 隊舎から飛び出たハーミスの前にいたのは、兄妹と、護衛の隊員が一人。

 彼は全てがスローモーションに感じる中、反射的に拳銃の引き金を引いた。


「だ、誰だお前はんばッ」


 紫の魔導弾は、護衛隊員の頭を撃ち抜き、辺りには脳漿が飛び散った。

 兄妹は足を止め、ハーミスと向かい合った。ライセンスを砕き、ガンスリンガーとなった彼は、静かに、それでいて最高の怒りを込めながら、二人の名を呼んだ。


「……よお、フォーバー、シャロン」


 改めて視界に入れた二人は、あの頃と変わっていなかった。

 遠くから聞こえる、聖伐隊とセイレーンが戦う音が、人々の悲鳴が遠く感じた。


【読者の皆様へ】


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