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港町


 朝日が昇り切った時、つん、と風の匂いが変わった。


「――ハーミス、風がしょっぱくなってきたよ!」


 それは悠々と飛ぶルビーだけでなく、ゴーグルをかけてバイクを走らせるハーミスも、二人乗りのサイドカーで地図とにらめっこするクレア、エルも感じ取っていた。

 木々の生い茂る森と草原を抜けてから三日目、ごつごつした岩が立ち並ぶ平野を通り抜けたその先は、切り立った崖のようにもなっていた。遠く見えるそれに、世界が変わったと実感させられながら、一行は海の存在に思いを馳せる。


「潮風の匂いですね。ルビーとハーミスは、海に来たことがないと言っていましたね」


「俺とルビーはジュエイル村から出たことがなかったからな。クレアは確か、海の向こうにも行ったことがあるんだっけか?」


 クレアに問いながら、ハーミスは崖に沿ってハンドルを切り、並走する。


「まあね。昔の話だけど……ほら、ロディーノ海岸が見えたわ」


 彼がゴーグルを外して、しっかと前方を見つめると、そこは別世界だった。

 遠く、遠くまで広がる青色。ずっと遠くまで続くこれこそが、話に聞いていた海。

 ルビーが歓喜して鳴く声が耳に入ってきたが、ハーミスが驚いたのは、海というよりもそれと地上の境目にある、人が住まう町並みだった。

 てっきり彼は、海岸はもっと静かで、聖伐隊がちょっとばかりのキャンプ地として使っているだけだと思っていたが、どうやら違うらしい。


「すげえ……海岸って言うよりは、町みたいだな」


 ハーミスが投げたゴーグルを受け取りながら、クレアが答える。


「あたしもまさか、ここまで整備されてるなんて思ってなかったわよ。新聞には、大陸進出の為の港に整備するとは書いてあったけど、こんなに早いペースで進むなんて……」


 あまり考えたくないが、それくらい、聖伐隊の力が増しているのだろうか。


「とにかく、一度町の方に行きましょう。坂を下りれば、直ぐのはずです」


 エルの指示通り、ハーミスは前方の大きな坂から海岸の方角に向かって下りて行った。大きな岩が辺りにはたくさんあって、バイクを隠すのにはちょうど良い。

 ルビーも降り立ち、翼を仕舞う。岩場の影にバイクを停めた一行は、聖伐隊にばれないようにそれぞれマントを羽織り、クレアは大きなリュックを背負う。


「バイクはこの辺りに停めておいて、透明マントを被せておけば……」


 風景と同化する、いつもの大きな布をバイクに被せて隠していていると、声がした。


「――あら、旅人さんかい? 海岸が安全になったって聞いて、来てくれたのかい?」


 ハーミス達は一瞬、心臓が止まったかと思った。

 手っきり聖伐隊に見つかったのかと思った彼らが、フードも被らずに振り向くと、そこには年老いた夫婦がいた。お揃いの繋ぎを着た夫婦のうち、妻が柔和な声で言った。


「嬉しいねえ。魔物が多かったこの辺りも、聖伐隊がしっかり整備してくれたから、賑やかになったもんだよ。ロディーノはすっかり港町さ、楽しんでっておくれ」


 それだけ話して、うふふ、と笑いながら夫婦は坂の上の方へと歩いて行った。

 まるで、ハーミス達を知らないかのようだ。聖伐隊のいる地域であれば、自分達はお尋ね者として扱われて然るべきなのに。ボケているのかとも思ったが、そうでもない。


「……俺達の顔や情報が、広まってねえのか?」


 エルが、首を横に振った。聖伐隊の事情には、彼女の方が詳しい。


「いえ、聖伐隊がいる以上、そちらには情報としては広まっているのでしょう。恐らく本国から離れた僻地なので、町に情報が行き渡っていないのかと思います」


「成程な……ちょっと、町の方に行ってみるか」


 物は試しと言わんばかりに、一行はフードも被らず、町の方に繰り出した。

 潮風の匂いが平原よりもずっと強い町は、獣人街ほどではないが、自分達のように遠くから来ただろう人で賑わっていた。家屋はほとんどなく、代わりに海鮮関連の食料品を専門とした露店がこれでもかと立ち並んでいる風景は、見ていて楽しいものでもある。

 ただ、やはりハーミス達を見て声を上げる者はいなかった。聖伐隊の隊員が向こうからやって来て、反射的に彼はフードを被りそうになったが、すれ違っても何一つ声をかけられず、ただの旅人程度の扱いしか受けない。

 『選ばれし者』を四人も倒した大罪人のグループは、歩きながら話してゆく。


「確かに、ロアンナの街みたいにぴりぴりしてないわね。あたし達の人相書きとかもないみたいだし、さっき聖伐隊とすれ違っても、怪しまれなかったわよ」


「俺達がこんなところにいるってのは、あいつらからすれば予想してないのかもな」


 二人の言う通り、『選ばれし者』はいるが、ここにハーミスが来るという情報は絶対に流れていない。だから、安心しきっているのかもしれない。


「だったら好都合です。ここでセイレーンの情報を早めに集めましょう」


「どうやって? 聖伐隊を捕まえてぶちのめす?」


「そんな野蛮なことしないわよ。なんかあんた、口まで悪くなってない?」


「誰かさんの影響でしょうね「うっさい、いいからついて来なさい!」」


 恐らくルビーの口が悪くなった原因と思しきクレアは、眉を吊り上げてエルを威嚇してから、近くの聖伐隊の隊員に近寄ってゆく。


「ねえ、ちょっといい?」


 そしてなんと、軽々しく声をかけたのだ。


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