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祝祭


 戦争の翌日から、片付けが始まった。

 獣人街の前に転がった死体を片付けるのは、ハーミスが買ったアイテムの仕事だった。合計三十二万ウルをはたいて購入した『微生物廃物処理装置』と呼ばれる、四足歩行のロボットが平原を歩き回り、薬剤を散布すると、死体は溶けてなくなった。

 半日も経たず、平原と赤い門の前は綺麗さっぱり、元の姿を取り戻した。しかし、戦いを終えた後の作業は、まだ終わってはいない。


 同時に、死者が弔われた。戦いでの死者はゼロではなかった。

 そんな甘い話がないとは知っていても、街を守り、勇敢に死んでいったと同胞から聞いたとしても、泣き崩れる者がいて、ただ茫然と炎に包まれる友を眺める者もいた。

 体の節々に包帯を巻き、ガーゼを貼ったハーミス達も、街の端で焼かれる死者を見つめた。獣人街では死した者を埋めず、燃やし、天に上る手伝いをするのだとリヴィオ達から聞いていた。

 街が少しの間だけ、悲しみに包まれた。ところが、街の悲哀は長くは続かなかった。


「――さあ、祭りじゃあ! 飲め、歌え! 朝まで騒ぐんじゃあーっ!」


 なんと、次の日の昼間から、街全体を賑わせる祭りが始まったのだ。

 露店がこれでもかと並び、飲食店は常に扉を開きっぱなし。花火が打ち上がり、街中でダンスを踊り、音楽が鳴り響く。どこもかしこも酒盛りの真っただ中で、中には昨日友人を喪った者や、父を亡くした者もいる。

 おかしな様子にも思えるが、同様にこれこそが獣人街なのだと、ハーミスは思った。

 死は悲しいことだ。しかし、悼む心をいつまでも抱き続けていると、いずれそれは歪んでしまう。立ち直れないほどに歪めば、憎しみにも転ずる。

 だからこそ、リヴィオやニコは、祭り騒ぎ、悲しい思いを少しでも和らげる道を選んだのだ。自分達のように、死に惑わされ、盲目にならないように。


 結果は大成功だった。昼間から飲めや歌えの馬鹿騒ぎ。子供も大人も、大騒ぎ。

 昼はあっという間に過ぎゆき、夜になれば、街中に吊るされた明かりが灯る。それでもまだ、しっぽりとはいかない。皆が浮かれ、騒ぎ尽くし終えるまで、終わらない。


「……こりゃあ、凄いわね」


 ハーミスとクレアもまた、広場の椅子に座りながら、住民達が尻尾を揺らして踊る光景を眺めていた。二人の手には、紫リンゴのジュースが入ったジョッキ。

 エルは子供達と一緒に、魔法を使って花火を打ち上げるお手伝い。ルビーは肉屋と魚屋から、これでもかと山積みにされた食料を頬張っている。どちらにしても、この祭りをすっかり愉しんでいるのだ。


「これが獣人街なんだよ。明るく、強く。そう在り続けるんだ」


「すっかり獣人街の一員って考えね。いっそのこと、永住してみたら?」


「そういうわけにもいかねえさ。俺は……」


 復讐者だ、というよりも先に、広場の壇上に、リヴィオとニコが立った。


「皆、すまん! 話を聞いてくれんか!」


 体中に包帯を巻いたリヴィオと、未だに杖をついているニコ。二人とも重傷者にカテゴライズされる立場だったが、毅然と壇上に立っていた。

 何事か、と踊りを止め、はしゃぎ合うのすら止めた住民達。一体、何を言い出すのだろうかと無音の空間で一同が注視する中、先に口を開いたのはニコだった。


「……まず、皆には感謝を言いたい。僕達がまだここにいていいと許してくれたこと、そして戦いに尽力してくれたこと……感謝しても、しきれない」


 獣人街は、ティターンもオリンポスも、双方のボスも街にい続けることを許した。もしかすると祭りはリヴィオなりのお礼の意味合いもあったのかもしれないが、それよりも先に、リヴィオが話し始めた。


「わしもじゃ、皆に感謝する! その礼として、いや、詫びとして! わしらに獣人街の皆へと約束をさせてほしい!」


 リヴィオの、ひいてはニコの約束。


「わしは――わしらはティターンとオリンポスを解散する! そして、ここのニコを頭領、わしを副頭領とする新たなギャング、『ゼウス』の結成を約束する!」


 かつてのギャング、街の守護神である『ゼウス』の復活。


「僕とリヴィオで、この街を守っていく――今度こそ、何にも負けないように!」


 瞬間、凄まじい歓声が湧き上がった。

 街中、いや、街の外の森にすら響き渡るこの声こそが、リヴィオとニコを真に迎え入れ、ゼウスの結成を祝う証であった。住民達は新たなギャングの誕生を祝福する踊りのステップを踏み、希望に満ちた明日を喜ぶ酒を、飲み交わす。

 エルの魔法で制御された花火が、何十発も同時に打ち放たれる。ルビーの喜びに満ちた咆哮が、街を遥か超えた空の先まで轟き響く。

 壇上の新たなボス達は、涙を堪えられずに部下に囲まれ、ただ幸せな涙を流す。

 先刻よりもずっと賑やかになった街の夜は、まだまだ続く。


「……復讐者、ね。あんたをそう思ったこと、あたしは一度もないわよ」


 ハーミスを見ずにジュースを飲むクレアは、言った。


「そう見えてるなら、それ以上に嬉しいことはねえさ」


 クレアを見ずにジュースを飲むハーミスは、答えた。

 終わらない夜の終わらない祭りは、ずっと、ずっと続いていった。


【読者の皆様へ】


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