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 発声器官も異常をきたし、体は人間のあるべき姿を保っていない。骨を全て抜かれた軟体動物のようで、立っているというよりは、壁にもたれていると言った方が良さそうだ。


「ひでえツラだな、勇者様。そんじゃ、全力全開の一発、叩き込んでやるから――」


 そんな勇者の成れの果てを見つめ、欠片も笑わず、静かにハーミスは告げた。


「――最後の言葉を聞いてやるよ、言え」


 最期の言葉。ただ終わりの為だけに存在する言葉。

 もう、生きて帰られる理由などない。どれだけ命乞いしようとも、何をしようとも、ハーミスは今ここで自分を殺す。ここで遺す言葉によって、為人が分かると言っても過言ではないのだが、リオノーレの台詞は、余りにも単純で、惨めだった。


「……わらひ、わたしは、まひ、まひがっひぇなひ」


「何言ってるか分かんね……いや、分かるわ。自分は間違ってないってか」


 自分は間違っていない。被害者なのだから、復讐する正当な立場なのだから。

 だから、こんな結果を迎えるのは間違っていると、リオノーレの潰れた瞳が言っていた。血のりがべったりと付いた装甲の、青い瞳は、そんな彼女を心から侮蔑した。

 無為に正義を謳い、正義に酔いしれている虐殺者の、何を以って正しさの模範と言えるのか。そういう意味合いでは、彼女達を襲ったゴブリンとリオノーレは、大差ない。

 どちらも苦痛を振りまいた。ならば、いずれは返ってくるのだ。


「ただひいのに、わらひはしぇいぎ、なのに」


 気づいていないのは、彼女だけだ。正当性ばかりを押し付ける彼女の、骨のない腕がぶよぶよと動き回る光景を正義と呼ぶのなら、それは好きにすればいい。ただ、押し付けられたハーミスの顔は、鎧の奥で、見せられないほど嫌悪感に満ちていた。


「あのな、お前は正しいだとか正義だとか言ってたよな。そこがズレてんだよ。自己満足の復讐でさんざっぱら人を殺しといて、正義だ何だなんて理屈が通用するわけねえだろ」


「ひょんなころ……」


「そんなことあるだろ。ま、あの世でゆっくり考えろよ。十分話は聞いてやったからな」


「ひゅ、ひゅぎいい……!」


 ほぼ折れた歯で歯ぎしりするリオノーレの前で、もう十分だと言わんばかりに、ハーミスは会話を止めた。話の噛み合わなさに、心底呆れてしまったからだ。

 そして彼は、強く右拳を握り締める。巨大人型兵器の時と同じように、拳の内側から蒸気の如く魔力が漏れ出す。さっきのラッシュどころではない、全力全壊の一撃。

 生かさず殺さずなどは甘え。最期はきっちりと、殺す。ハーミスの意思表示。

 ぐっと、精一杯振りかぶる。筋肉が破れるほど力を込めて。


「――じゃあな、リオノーレ」


 渾身の一撃は、リオノーレの体に突き刺さった。


「ぎッ」


 拳は命中した。

 彼女の体は岩壁にめり込み、岩諸共リオノーレを破壊した拳は、岩にとてつもない破壊痕を創り上げ、彼女を岩壁の一部とした。肉体が岩に埋まるほどの一撃は、あまりに一点集中された一撃は、リオノーレの上半身を壁の中に埋め込ませた。

 紙のように折り畳まれ、岩と一体化するほどぐしゃぐしゃにされたリオノーレは、間違いなく絶命した。下半身が岩から飛び出た哀れな格好は、勇者とは程遠い、彼女が思い描いていた栄光とは真逆の末路だった。

 ハーミスは、彼女の無様な最期をそう見つめなかった。さっさと振り返り、関心を失ったかのように、街に向けて歩き出す。こんな相手より、仲間の方が大事なのだから。

 そう思っているつもりだった。復讐を強く想うなと、考えているつもりだった。


(……そういえば初めてだな、俺の手であいつらを殺したのは)


 しかし、無理な相談だった。

 剥がれていく装甲から出てきたハーミスの顔は、これ以上ない、邪悪な笑顔だった。


(人を殺して、こんな笑顔をしてるんだ。復讐者が地獄に落ちるのは当然だな)


 岩からはみ出た下半身がびくりと震え、大便を漏らす女勇者よりも酷い末路を、残った連中が迎えられるよう、努力しようか。

 まだ終わらない、果て亡き復讐への路を想うと、何故か笑みが止まらなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 獣人街の門を抜けたハーミスを待っていたのは、仲間達と、鳴り止まぬ歓声だった。

 誰もが無事を喜び、雄叫びを上げ続け、家族と抱擁している。怪我の治療を受けている者ですら、隣の重傷者と肩を叩き合っているのだから、結果など知れている。

 それでも、誰かから聞きたいと思う彼の下に、仲間が駆け寄ってきた。


「――ハーミス!」


 ルビーが抱き着くのはいつものこと。次いで、クレアとエルがやって来る。


「あんた、今までどこに行ってたのよ!? 『選ばれし者』とはどうなったの!」


「終わらせた、それだけだ。俺も聞きたいことってんなら、戦争は……」


「見てわかるでしょう。この歓声、街の賑やかさ。我々が勝ちました。ニコも無事です、私達の完全な勝利ですよ」


「……みたいだな」


 軽症者多数。重傷者・死亡者僅か。されど、街に踏み込んだ敵は一人とて居らず。

 『獣人街の戦い』は――獣人の完全勝利に終わった。


【読者の皆様へ】


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