田中天狼のシリアスな究明
――『ホントは今でも北武ライオネルズの事が大好きなんだろ?』
そう、俺が指摘してやった瞬間、秋原は飛び出さんばかりに目を大きく見開き、口をパクパクする。
そして、口の端を歪めて、せせら笑いを浮かべながら声を荒げた。
「は……はぁ~? な、何言ってんだよテメエ! そ――そんな事ある訳ねえだろが!」
「いやいや……」
きっぱりと否定しようとする秋原だったが、そうは問屋が卸さない。
俺も薄ら笑いを浮かべながら、彼女の言葉に反論をする。
「嫌い嫌いって言ってる割には、めちゃくちゃ野球に詳しいじゃん。……殊に、北武の選手の事についてさ」
「そ……そんな事は……」
「考えてみれば、初回の芦山の打席の時から、何となく違和感を感じてたんだよな……」
口ごもる秋原の顔をジト目で見ながら、俺は言葉を継ぐ。
「普通に考えれば、あの芦山の打球で三塁を狙ったらアウトになると思うよ。――でも、お前は『芦山は足が速いから』セーフになるって言って、実際セーフだった。――おかしいと思わないか?」
「お……おかしいって、何がだよ……」
「だから――何で北武嫌いで、試合なんか見るのも嫌だって言ってるお前が、芦山の足の速さを知っているんだ、って話だよ」
「……」
俺の言葉に、秋原は何も答えなかった。
そんな彼女に、俺は更に言葉をぶつける。
「それだけじゃねえよ。5回裏のピンチの時も、お前は三塁側のブルペンまで良く見てて、多比良の肩が出来上がってないって事も把握してた。……よっぽどのファンじゃないと、ブルペンの状況まで見てないよ」
「う……」
「トドメは、さっきの代打中浦へのリアクション……。随分と詳しく、今季の中浦の状態を知ってたよな? ――北武の試合なんて、見るのも嫌だってのに」
「……」
俺の言葉に、秋原は沈黙を続ける。
と、俺は、その顔に指を突きつけた。
「――ほら、今も」
「……え?」
「俺の話も上の空で、やたらとグラウンドの方に気持ちが向いてるじゃん。本当は、見たくてしょうがないんだろ? 北武のチャンスと、『満塁神』中浦の打席を、さ」
「……」
秋原は、相変わらず何も言わなかった……が、真っ赤な顔をして、小さくコクリと頷いた。
それを確認して、俺は思わず口元を綻ばせた。
そして、秋原の足元に転がっていたマキシマムコーヒーの空きペットボトルを二本拾い上げ、彼女に差し出しながら言ってやる。
「よし……じゃあ、思う存分に応援しな。メガホン代わりに、コイツを使ってさ」
「えぇと……でも……」
秋原は、ついさっきまでの威勢がどこかに飛んで行ってしまったかのような、気弱そうな表情を浮かべ、俺が差し出したペットボトルを受け取ろうか迷う素振りを見せる。
――その時、
「はいっ、ししょー! これ持って!」
脇から春夏秋冬が腕を伸ばし、俺の手からペットボトルを取り上げ、半ば強引に秋原に握らせた。
秋原は、半ば無理矢理ペットボトルを持たされた事に対し、戸惑いの表情で春夏秋冬の顔を見る。
「い……いや、こんなモン持たされても――」
「いいから! 応援して下さい!」
秋原の言葉を途中で遮り、黒木さんが叫んだ。
「秋原さんは、本当はチームを応援してあげたいんでしょ? だったら、もう変な意地を張るのは止めて、自分のしたい事をして下さい! そうしないと、ずっと意地を張り続けなくちゃいけなくなりますよっ!」
「……!」
「そうそう、黒木さんの言う通りだよ、秋原」
ハッとした顔をする秋原に、俺は微笑みかけながら言った。
「もう、お前がガチの北武ファンだってのが、自分自身で良く解っただろ? だったら、ここは自分の心に素直に――いでっ!」
俺の言葉は、途中でポコンという間の抜けた音と頭部への衝撃で遮られた。
目をパチクリさせながら見ると、手にしたペットボトルで、俺の頭を小突いた秋原が、眉間に皺を寄せながら、俺の顔を睨んでいる。
「ぶ……ぶった? ぶったね! 親父にもぶたれた事無いのにッ!」
「うっさいアム〇。――いや何か、お前のそのドヤ顔がムカついて……」
仏頂面でそう答えた秋原だったが、急に耐え切れなくなったように口元に手を当てると、くっくっと笑い始めた。
そして、憑き物が落ちた様な表情を浮かべると、両手に持った二本のペットボトルを、球場に轟くチャンテ4のリズムに合わせて、思い切り打ち合わせ始める。
「――歓声背中に 受けていざ打て 空の彼方に らーららららーらー 頼むぞ、なっかっうっらッ!」
「……まったく」
ペットボトルを叩きながら、北武ファンの歌うチャンテ4の応援歌を歌い始めた秋原の横顔を見て、俺は顔を綻ばせた。
「楽しそうな顔しながら応援しやがって……。名前がどうのとか言ってないで、最初から素直になってればいいのにさ」
そう呟いて、俺もペットボトルを拾い上げ、隣の熱狂的北武ファンと同じように打ち鳴らし始める。
全ての北武ファンがチャンテ4をエンドレスで歌い続けている、三塁側スタンドのボルテージは最高潮だ。
横目でチラリと見ると、春夏秋冬と黒木さんも、秋原と一緒になって、必死に声を張り上げている。
ここは俺も――乗るしかねえ、このビッグウェーブに! ……ってヤツだ。
俺は息を大きく吸い込むと、ペットボトルを大きく振りながら、雪崩のような歌声に加わる。
「「「「お~おぅお~、うぉーうぉうぉおお……」」」」
そして、エンドレスで続くチャンテ4が、最初のイントロに戻った時、
カ――――――――ンッ!
みんなの歌声を斬り裂く様な乾いた音が鳴り、小さな白球が、青い空に高々と舞い上がった――!




