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田中天狼のシリアスな煩悶  作者: 朽縄咲良
第一章 田中天狼のシリアスな煩悶・再開編
10/45

田中天狼のシリアスな転校生

 「なあなあ。田中ァ、知ってるか?」


 市民プールで春夏秋冬(ひととせ)の特訓に付き合った翌々日の月曜日。登校して、カバンを机に置いた俺に、クラスメイトの西藤が、馴れ馴れしい調子で話しかけてきた。

 俺は、カバンから教科書を出しながら、横目で西藤を見ながら訊き返す。


「知ってるって、何をだよ?」

「お! そのリアクションだと、まだ知らないな!」


 俺の言葉に、西藤はニンマリと笑みを浮かべる。

 俺は、朝っぱらから西藤の勝ち誇る顔を見せられて、内心で舌打ちしながら、上辺では平静を装う。


「……だから、何をだよ?」

「へへへ……それはさぁ」


 ウザい。もったい付けずに早く言え。


「――今日、ウチのクラスに転校生が来るんだってよ!」

「――はあ? 何で?」


 悔しい。西藤の目論見通りに驚いてしまった……。

 いや、でも、コレは驚く情報だろう。


「……何で、転校生だよ? 高校生なのに? 一年生なのに? この時期に?」

「――いや、近い近い近い! ちょ、離れろ! オレには、(ヤロー)に接近されて喜ぶシュミは無え!」

「ぐぎゅう」


 近づけた顔を、西藤にガチ目に押しのけられる。


「――つか、オレも詳しくは知らねえよ。親が急に転勤になったとか、そんな感じだろ?」

「でも、まだ6月だぜ……。まるでラブコメマンガの(・・・・・・・・)テコ入れ(・・・・)じゃないかよ……」


 ……どこかで、“ギクリ”という声がしたような気がするが――気のせいか。

 俺は、ごほんと咳払いをし、ゆっくりと椅子に座ると、肘を机に乗せて口元で手を組み、上目遣いになる。


「で……西藤くん……。とても重要な事(・・・・・・・)を確認したいのだが――」

「……何だね、田中」


 西藤は、直立不動で後ろ手を組み、静かな声で答える。

 俺は、視線を前方に据えたまま口を開く。


「その転校生徒やらは――男か? ……それとも――」

「田中……この私(・・・)が、男の転校生ごときの話題で、こんなにも嬉々としながら君に教えに来ると思うのかね?」

「……了解した」


 俺と西藤は、ジッと見つめ合うと、大きく頷いた。

 ――と、


 キーン コーン カーン コーン


 教室前方に据えられたスピーカーから、時間を告げるチャイムが鳴った。

 そして、鐘の音が鳴り終わる前に、教室の引き戸がガラガラと開けられる。

 固まって駄弁(だべ)っていたクラスの生徒達は、慌てて自分の席に着く。


「おーい、始めるぞ~!」


 出席簿をバンバンと叩きながら、担任の松辻先生が教室に入ってきて、教卓の上に出席簿を叩きつけた。別に機嫌が悪い訳ではなく、いつもの所作である。

 彼が体育教師だから、どうしても動作が荒っぽくなるのだろうか……?

 日直の号令に合わせて、朝の挨拶を行い、全員が着席してから、松辻先生は口を開いた。


「あー。今日は、みんなに嬉しい知らせがあるぞ~!」


 早速来たな……。俺と西藤は、ちらりと目を合わせた。


「まあ、何だ。こんな時期なんだが、今日からこのクラスに新しい仲間が増える事になった!」


 クラスメイト達が一斉にどよめく。期待の声、怪訝な声、歓喜の声……様々な言葉が、クラスのそこかしこで交わされる。

 松辻先生は、「おーい、静かにしろー!」と言いながら、出席簿をバンバンと教卓に打ちつけて、興奮するクラスを鎮めてから、ドスドスと大股で歩き、一度閉めた教室のドアを開けて、教室の外に控える誰かを手招きした。


「…………」


 俺たち、クラスの全員は、固唾を呑んで転校生の入場を見守る。

 遂に、クラス全員の注目が集まるドアを潜って、転校生が入室し――、


「――――!」


 クラス全員が、凍り付いた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 「あー、彼女が――」


 ――ショーワ。


「市水市の八徳高校から、一身上の理由でウチの高校に転入して――」


 ――昭和。


「今日からこのクラスの一員として加わる――」


 ――うん……紛う事なき昭和だ。


 ……クラス全員の注目を一身に受け、ぶらぶらと身体を揺らしながら、だらしなく立つ転校生を前にして抱いた印象は、『昭和』の二文字だった。

 急な転入だったのだろう。彼女が着ている制服は、東総倉高校(ウチ)の指定制服であるブレザーでは無く、前の学校の制服だったと思しき黒いセーラー服。――それは、別に良いのだが、彼女は、そのセーラー服を明らかに改造(・・)していた。

 上着の丈をへその辺りまで短くし、くるぶしの辺りまでのロングスカートを穿き、ぺちゃんこに潰した学生鞄をぶらぶらと揺らして持っていた。

 髪の毛は染め上げた金髪で、前髪を触覚かと見紛うレベルでくるくる巻いて盛っている。

 メイクもバッチリ……なのだが、真紫のアイシャドーに真っ赤なルージュで、どっちかというと、相撲好きで『蝋人形にしてやる!』と歌うのが得意な、どこかの悪魔にしか見えない。

 これは――今や、お笑いのコントや、時々テレビで特集している『昭和懐かし映像アーカイブ』みたいな番組で流れるドラマに出てくる――、


「Oh……イッツ ア トラディショナル ヤンキースタイル……『スケバン』――!」


 斜め前の西藤が、俺の考えを代弁してくれた。……つか、何でカタコト英語やねん?

 もっとも、それは、俺や西藤だけが抱いた印象では無いようだった。アッチでヒソヒソ、コッチでヒソヒソ……、至る所から小声でのヒソヒソ話が聴こえてくる。


「あー! うるさいぞ、お前ら! 新しい仲間の登場でワクワクドキドキしているのは分かるが、ホームルーム中だぞ~!」


 松辻先生が、頓珍漢な事を口走って、ひとりでガハハとウケている。というか――確かにドキドキはしているが、決してワクワクはしていないぞ、俺たちは……。


「じゃ、早速自己紹介してもらおうかな!」


 そんな生徒達の微妙な空気にも気付く様子は無く、松辻先生は話をドンドン先に進めていく。

 と、転校生は、顔を曇らせ、松辻先生に小声で何か言う。


「んー? ……あ? ――いや、それじゃダメだろう。……まあ、それはそうだが。でも、結局いずれは分かる事なんだから――」


 ふたりは、黒板の方を向いて、何やら言い争いをしている。


「……?」


 ほったらかしにされた形の俺たちは、腑に落ちない顔で首を傾げる。

 やがて、話がついたのか、松辻先生が「大丈夫だって! ほら、頑張れ!」と声をかけて、その大きな平手で彼女の背中をバンと叩いた。

 転校生は観念したのか、肩で大きく溜息を吐き、黒板のチョークを手にして、カッカッと音を立てて、何やら文字を書いていく。

 そして、書き終わると、俺たちの方に向き直った。

 板書された文字を視認したクラスメイト達は、静かに(どよ)めく。

 黒板には、小さな文字で、


  秋原 獅子


 と、記されていた。

 ……アキハラ シシ……?

 黒板の文字の並びを見て、その読み方に引っかかって首を傾げたのは、俺だけでは無かった。

 そんな、クラスメイト達の困惑を知ってか知らずか――化粧越しでもハッキリ分かるほど、顔を真っ赤にした彼女が初めて口を開く。


「……ど、どうも。みんな、よろしく……て、違う――」


 コホンと咳払いをし、彼女は顔を歪めて中指を突き上げて、震える声で叫んだ。


「“あきはら らいおねる”で……だッ! よ……夜露死苦ゥッ!」

劇中の天狼と西藤のやり取りは、エヴァン○リオンの碇ゲン○ウと冬○のイメージで再生して下さいw

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