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十五歳、はじめての英雄召喚

 今日は四月四日。四が二つ並んでなんとなく縁起が悪い気がするけれど、私にとって今日はめでたい日、十五歳の誕生日だ。

 けれど、これから起こることを考えると色々と不安になってくる。私の周りに座っている子たちは男も女もみんな心配そうな表情を浮かべていた。

 私がいるこの公民館のホールにはざっと百人くらいの少年少女が集められている。年のころは皆私と同じくらい……、というかここにいるのは全員四月四日生まれで十五歳になったばかりの子なのだ

 そんな私たちが集められて何がはじまるのか。それは英雄召喚と冥宮探検試験である。

 今の世の中、十五歳になったら英雄を召喚してその能力を取り込むことも、英雄の力を使って冥宮を探検することも誰もが知っている常識だけど、三年前にそんな話を聞いたら、ゲームと現実の世界の区別がつかないの?って話した人を呆れ顔で見てしまうことだろう。

 けれど、この世界は三年前のそれとはすっかり別物になってしまった。


 スマホをいじりながら時間つぶしをしているとホールの壇上にスーツを着たおじさんが現れた。頭は白髪だが、老人というほど老けてはいない。年は五十歳くらいだろうか。

「時間になりましたので、英雄召喚の儀と死生混淆冥宮ラビリントスについての説明をさせていただきます」

 おじさんは唐突に話し始める。皆真剣な顔でおじさんの話を聞いている。これからおじさんが話すことは命に関わることなのだから当然だろう。

 ただ、私としてはおじさんが自分が何者なのか語らないまま話し始めたのでそこが気になって仕方がなかったのだけど。

「えー、皆さんは十五歳という年齢を迎えられました。あと数日すれば高校に通い始めるという方がほとんどでしょう。大人でもなければ子供でもなく青春を謳歌する年頃、十五歳というのはそういう年齢だと思います。しかし今の世の中、どこへ行こうとも常に死の危険と隣り合わせです。それは皆さんもよくご存知でしょう」

 おじさんが一旦言葉を切る。

 私の住む日本は失われた二十年だとか言われてずっと景気は悪かったらしいけれど、つい三年前までは治安はとても良かった。悪いとこもあったのかもしれないけど、少なくとも小学生が塾で遅くなったりしても通り魔や強盗に襲われたりするようなことは滅多になかった。

 けれど、今の日本は違う。日本に限ったことじゃないけれど、どんな町でも子供が、いや大人だって日が沈んでから歩くのはとても危険なことになってしまっている。

「死生混淆冥宮ラビリントスの出現は世界を一変させてしまいました。今まで映画やゲームの中にしかいなかった動く死者や死霊が私たちの世界に現れるようになったのです」

 みんな静かにおじさんの話を聞いている。おじさんの言っていることは単なる事実だ。だから口を挟む者はいない。

「動く死者たちの襲撃によって多くの犠牲が出ました。そして死者たちの襲撃が成功する度に彼らの同胞は増えていったのです。しかし電霊ダイダロスによってもたらされた英雄召喚システムによって人類は死者に対抗する手段を手に入れることができました」

 おじさんは胸ポケットからスマホを取り出し頭上に掲げた。

「皆さんもすでに英雄召喚アプリはスマートフォンにインストール済だと思います。このアプリを使えば動く死者に襲われても過去の英雄を召喚し、死者を撃退することができます。しかし英雄を召喚するには大量のバッテリーを消費し、一度英雄を召喚したら丸腰になってしまうという欠点がありました。しかし今回行う英雄召喚は皆さんの肉体と精神に英雄の持っていた力を宿らせるという者です。早速ではありますが、私ソロモン王が皆さんに英雄を降臨させましょう」

 そう言っておじさんは両手を頭上に掲げると呪文を唱え始めた。

 あんたソロモン王だったのかよ、と心の中でツッコむ暇もなくおじさんの呪文によって私たちは光に包まれていく。そして地面から激しい光が放たれ、私の中に入り込む。

 体の中に力が満ちていく。そんな感覚を覚えながら私は意識を失った。


 光に包まれてからどれくらいの時間が経ったのだろう。肩を揺すられる感覚で私は目を覚ました。隣に座っていた女の子が私を起こしてくれたようだ。ありがとう、と彼女に礼を言う。辺りを見るとまだ気を失っている人もいれば椅子を片付けている人もいるようだった。私も他の人に倣って座っていたパイプ椅子を折りたたむ。

「ねえ、あなた……。私は西須亜紀っていうんだけど、あなたの名前は?」

 私を起こしてくれた女の子が話しかけてきた。

「私は猫岸麻友。この四月から星船院高校に通うんだけど」

「うそ!同じ学校じゃん!」

 その一言で私たちはお互いのことを話しはじめる。どこの中学に通っていたかとかどの辺に住んでいるのかなんてことを話した後、亜紀は私の胸元を指さした。

「ところで麻友はどんな英雄を引き当てたか気にならない?」

「どんな英雄って……。まだ見当もつかないけど……」

「そっか、麻友はまだ説明受けてないもんね。あたしが教えてあげるよ」

 そう言って亜紀はスマホを取り出すとひとつのアプリを立ち上げた。

 真・英雄召喚アプリとタイトルが表示されている。

「このアプリを立ち上げると自分にどんな英雄の力が宿ったかわかるんだよ。ちなみに私が引き当てた英雄は……」


 カラミティ・ジェーン。


 画面にはそう表示されていた。全然知らない名前だったので思わず誰それと口走ってしまう。けれど亜紀は気を悪くした様子もなく「なんか昔のアメリカで活躍した女ガンマンなんだって、と雑な説明をしてくれた。

 それより麻友の引いた英雄が何なのか教えてよ、と亜紀が迫ってきたので私もスマホを取り出してみた。するとそこには落とした記憶のない「真・英雄召喚アプリ」がインストールされていた。

 そしてアプリを立ちあげると「あなたに宿った英雄は『巴御前』です」と表示される。

 私と亜紀は顔を見合わせ名前は聞いたことあるけど、どんな人だっけと解説文をスクロールしていく。木曽義仲の手下の女戦士でもの凄い怪力の持ち主だったそうだ。そんな怪力があれば動く死者なんてあっさり倒せるんだろうか。

 英雄が宿ったといっても今のところ私の体には何の変化も起こっていない。ひょっとしたら私たちは集団で詐欺にあってるんじゃ……なんて考えているとまた壇上のおじさん、いやソロモン王の声が聞こえてきた。

「皆さん、そろそろ召喚のショックから回復したところでしょうか。私が確認したところ皆さん全員に英雄の力が宿りました。早速英雄の力を試してもらいましょう。椅子は全部片付きましたね」

 周囲を見回したが、椅子はすでにホールの隅に運ばれ、折りたたまれた状態で交互に積まれている。

「では皆さん、大声で英雄の名を呼んでください。そうすればあなた方の肉体に英雄の力が宿ります」

 私と亜紀は顔を見合わせた。そんなガキのヒーローごっこみたいなことしなくちゃダメなの。私たちだけでなく会場中の皆がそう思っているようだ。

「英雄が召喚できなければ皆さんは今日のうちに確実に死にますよ」

 壇上のソロモン王に真顔で言われて私はようやく覚悟を決めた。

「出でよ巴御前!私に力を貸してください!」

 大声で私はそう叫んだ。


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