2.転移された世界で
あのロリ神なんてことしてくれたんだ。今まさに俺の第2のモテモテ異世界生活が始まろうとしていたその矢先、俺の選んだ能力を相殺するような代償をくれやがった。
「さて、まずはこの問題をどうするかだ」
俺は猫になってしまった。体は黒く、目は青い。目はとても澄んでいて、黒い毛並みと合わせてなんだか神々しく見えてくる。てか、店のガラスの壁に映る自分の姿をまじまじと見てる場合じゃない。
こんな時はまず情報収集だ。ここはどんな世界なのか、魔王のような存在がいるのか、俺はこれからどうすべきなのか。それを判断しないと俺の異世界ライフは始まらない。
「あ、猫ちゃんだ〜〜! 可愛い〜っ!」
「うぐっ」
俺は突然後ろから抱きかかえられた。ああ、でもなんだろう。背中に感じる弾力がたまらねえ〜。年頃の男子高校生にとって、この柔らかさはだめだ。簡単に虜になってしまいそうだ。
「猫ちゃ〜ん? こっちを向いて欲しいにゃ〜、可愛いお顔を見せて欲しいにゃ〜?」
何だこの可愛い猫語は。聞いてるこっちが恥ずかしくなる。
「あっ、こっち向いてくれた〜!」
彼女はどうやらエルフのようだ。淡い緑色の髪に緑目で豊かな胸がある。そして笑顔が可愛い! 可愛いは正義だと言わざるを得ない可愛さだ。
「可愛いにゃ〜お前は〜。にゃんにゃ〜ん、にゃ〜ん。なんて可愛い猫ちゃんなの〜!」
もしかしてだけど、俺の能力とやらが聞いているんだろうか。こんなペットとして可愛いみたいな感じでかかっても不本意すぎるんだが。本当にあのロリ神なんてことしてくれたんだ。
エルフの子は「にゃんにゃ〜ん」と俺をナデナデしてばかりで離してくれそうにない。俺としてはそれならそれで一向にかまわないにだが、そういうわけにもいかない。ああ、もったいねえ。
「あのー、楽しんでるとこ悪いんだけど、離してくれると助かるかな……」
抱きかかえられたままそーっと彼女の顔を見上げると、彼女は顔を真っ赤にして羞恥に悶えていた。
「も、もしかして……猫ちゃん言葉わかる……の?」
「もちろん、全部分かってた……にゃん♪」
「いやあぁあぁぁぁああ! やめてぇぇええええ!! 聞かなかった事にしてぇぇええええ!」
エルフの子は赤面したままうずくまってしまった。
ーーーーー30分後ーーーーー
「落ち着いたか?」
「ううぅ、私普段あんなキャラじゃないんですよぉ、でも猫ちゃんなら言葉わからないと思って……」
「ごめんな、早めの段階で言ってあげなくて」
まあ、俺もエルフの子の反応が可愛くて言うのを渋って楽しんでしまったんだけど。
「そういえば、君の名前は? 俺は桜井亜久登、アクトとでも呼んでくれ」
「……私の名前はティナ・グレイスです」
喋れる事をネタバラシした後にからかい過ぎたかな、うずくまったままこっちを向いてくれない。
「そんなふさぎ込まないでくれよ。俺も色々困ってて出来れば助けて欲しいんだ」
「アクトさん、何かお困りなのですか?」
ようやくこちらを向いてくれた。
「いや、実はさ……この町に迷い込んだみたいで、食べる物も寝る所もないんだ。だからこの町の事を少し教えて欲しーー」
「だったら! 私の家に来てください! 寝る場所もご飯もありますよ!」
急に元気になったティナが食い気味にそんな事を言ってきた。
「それはとてもありがたいんだけど、流石に悪いと言うか」
「いいんです! 私が養ってあげますよ」
こんな可愛い女の子が養ってくれるだと!? なんてこった。この子のヒモとして生きていくのも悪くないなあ。いや、むしろ、ヒモとして生きて甘やかしてくれる。人生イージーモードだぜ、フハハハハ!
「じゃあお言葉に甘えて」
俺は何の躊躇いもなく答え、ティナの家へ行くことにした。
ーーーーーーーーーー
まあ、そんな甘くない事は分かってたよ。俺の見た目猫だし。恋愛関係に発展して、なんてありえないよねー。
「どうしたの? こっちおいで〜」
ティナはベッドに横になりながら手を伸ばして呼んでいる。俺はすぐベッドに飛び乗りティナのもとへ行く。
「ティナお前、もう遠慮しなくなったな」
「だって、アクトにはもうあんな醜態を晒しちゃったんだし、だったら開き直って思いっきり可愛がろうって思ったの」
「素直になってくれるのは嬉しいんだけどな? 流石にずっとモフモフされると恥ずかしいんだけど」
「え〜、だってこんなに気持ちいいんだよ? モフモフせずにはいられないよ」
すっかり俺に心を許しじゃれてくるのは嬉しいんだけど、これは猫として可愛いって意味なんだもんな。はあ、報われねー。日本での音質育ちの俺にとってはこんな右も左もわからない異世界での暮らしに慣れるのに大変だって言うのに、そういうイベントの1つや2つくらいあってもいいよなー。とか考えていたら、
「ねえ、アクト」
「ん、なんだ?」
「一緒にお風呂入ろっか」
さっそくイベントが発生した。