太刀魚は塩焼きで。
「まじかー…そうくるかーーー」
「おうおうどうしたヒロキさん。なかなかどうして愉快なお顔ではございませんか。めちゃぶさいく。」
「ぶさいくいうな。絶許。というか聞いてくれ!コンタクトを直そうと思ったらなんと!!」
「なんと?」
「眼科が休みだったんだ。しかも盆休み。」
「ぼんやすみ。もうお盆終わった気がするんだが。」
「ほんそれ。油断したよね。」
「そういえばお前さんコンタクトだったんです?」
「今更かーい。随分前からずっとそうなんだけど。」
「前はメガネだった。」
「目ぇ悪い奴が突然メガネ外して生活し始めたらコンタクトだって思うだろ。」
「いや目が治ったのかと。」
「近眼プラス片目乱視は絶対治りませーん。悪化の一途でーーす。」
「なんかうぜぇ。」
「うるせえ。…あ、太刀魚売ってる。」
「買ってくる。」
「早ぇ。」
「買ってきた。」
「まさかの一本買い。」
「たくさん食べたくてつい。久しぶりだったし。」
「…まあいいんじゃないですかね。どうやって食べる?」
「塩焼き一択でしょう何言ってるの。」
「さいですか。」
「給食とかでレモン風味揚げとかあったけどあんまり好きじゃないもん。油吸いすぎて太刀魚自体の味がわからん。」
「それは言い過ぎ。」
「とにかく私は塩焼きが好きなんですー。ウチくる?」
「いくいく!…言っちゃったよ!!!」
「あ、皮剥がれた!!」
「薄いからなー」
「はいこれヒロキのぶんでーす。」
「って剥がれたやつかーい。しかも尻尾の方やないかーい。」
「文句言うな高級魚だぞ。食べてもいいのか。」
「わーい太刀魚だー!」
「ちっ、夢の一本食いが出来ると思ったのに。」
「(何だかんだ言いつつ俺の分もくれて優しいとか絶対言ってやんねぇわ。)だめでーす。俺も食べまーす。」
「ったく…。いただきます!」
「すげ…ふわふわじゃん…。」
「いいやふわふわだけじゃ言い表せないよこの食感は。箸をぷつっと入れた瞬間に溢れ出る出汁に程よく塩気をまとった皮と淡白な身が相まってもう一口だけでご飯1杯いけるんじゃないかな。私が考えるに魚の中では一二を争う骨の取りやすさとそれに伴う食べやすさに加え雑味が少なく溢れるほどの出汁がこの魚が私の好物に入る所以なのではあるまいか。」
「相変わらず長ぇな。でもそれには同意だなー。」
「白身魚は柔らかくて臭みがほとんどないから良いよね。私苦手な食べ物はあんまりないけど好きの度合いは結構差があるの。大好き、好き、どっちかといえば好き、普通、食べられなくはないみたいな。」
「(最後のは好きって言うんだろうか。むしろ嫌いじゃないのか?…なぞ。)」
「そしてその観点で判定すると太刀魚は大好きに認定されるよ。間違いないね。」
「そうかい。」
「素っ気ない。」
「俺も太刀魚好きだわ。」
「許す。ちなみにレモンも切ってみたんだけど」
「貰いまーす」