田口家の手作りギョーザ
「やっぱり来たなお前。」
「あたぼうよ。おばさんがギョーザを作ると聞いていてもたってもいられなくなった。」
「うちのギョーザの何がいいのさ。至って普通じゃねぇの?」
「何をおっしゃいますか!!家庭の手作りギョーザはその家庭の特色が出るんだよ!うちじゃギョーザは食べれないから来たってのにそんなこと言うなよ!!」
「怒るな怒るな、わかったから!なんでお前ん家じゃギョーザ食えないんだっけ?」
「…お母さんが匂いのキツいの駄目なんだよ。何でだよマジで。意味わからん。」
「よく生きてこれたなお前。どこでギョーザに出会ったんだよ。」
「お前ん家だよ!!!お泊まりした時に出会って恋に落ちました。おばさんありがとう!!!!」
「そう言えばそんなこともあったような無かったような。うわあ、母さんめっちゃいい笑顔じゃん。あ、そうか。母さんたちって実は幼馴染らしいからお前ん家おばさんが駄目なの知ってたんじゃね?」
「そうなんですかおばさま!!感謝してもしきれません…!!今日もご相伴に預からせていただきますっ!」
じゅううぅっ
「うーんいいかほり…っ」
「そうだな、にんにくとにらが入ってるからなあ。お前ん家じゃぜってー出てこない。」
「それな。…あ、私10個お願いしますー!」
「そして遠慮がない。」
「一応食費を出しています。本日の材料費の半分。」
「うん、お前半分食べるもんな。生ギョーザの総量半端じゃねぇもん。わかる。」
「約ひと月振りの手作りギョーザ…!いただきます!!…うまぁ…。」
「恍惚とした表情だな。そんなに美味かったのか。」
「うん。だって他所じゃ味わえないんだよ?!お店じゃたった6個を味わうために作られた味濃いめのパリパリギョーザが一般的でさ、鶏油とか魚醤とかのアレンジもあって好きだけど手作りとはまた違うの食べ物なの!!」
「そうかい。」
「うんそうなの。特色としてはね、ほかのお家はどうかはわかんないけど桜エビが入ってるところかな。3:5で肉少なめの野菜多めだから野菜の旨みがしっかり味わえる上に蒸し途中に乾燥していた桜エビがジューシーになってて噛むたび美味しくなるの!そしてけしからんのはごま油。中にも入ってるし焼きもまた然り。香味野菜だけでも威力が強いのにごま油の右ストレートで食欲が止まりませぬ。好きぃ…。」
「すごい愛だな。確かに美味いけどな。」
「極めつけはタレだよ、ヒロキ。醤油も酢醤油も美味しいけどうちからお裾分けしたシークヮーサーを絞るあたりが最高。レモンとかスダチには出せない独特のほのかな甘みと強い酸味が醤油とラー油とスクラム組んでタックルしてくるみたいなんだよ。もう最高。幸せ。」
「細すぎて伝わらないでーす。」
「感じてくださーい。あ、おかわりお願いしますー!10個で!!」
「こいついつの間に食べてんだ。ずっと喋ってた気しかしないのに。」
「何やってんだよ早く食べなよ!冷めるじゃないか。中華はスピードだぞ!!」
「へいへい。あ、そうだ、柚子胡椒を買ってみたんだけど___」
「いただきます!!!」