ありふれた茎わかめ(大袋)
「はあ…なんてこった…」
「どうした珍しい。アキがそんな悩ましげなため息つくなんて。」
「茎わかめ美味すぎかよ…。」
「は?」
「ヒロキよ。私はここ最近一番の悩みを抱えているの。それが何かわかる?」
「いや…どうした?」
「茎わかめだよ。」
「いやわけわかめだよ。」
「この食感、この風味…!なんて素晴らしいんだ!!」
「また始まったよこれ。人の話を聞かない。」
「考えてもごらんよ、この個包装。小さな袋に入ったほんの三本程の茎わかめ。今みたいな空腹時に食べるとどうなると思う?お酢の酸味があとを引いて次から次へと止まらない…っ!」
「確かにシャキシャキしてるしもっと食べたくなるよな。」
「そう、そうなんだよヒロキ!たまには分かってくれるじゃないか!!」
「たまに、は余計ですー。お前そんな駄菓子も食うんだな。」
「いやいややっぱり分かってねーなお前さん。茎わかめは女性にも人気ですしめっちゃ売れてますしー。そんなこと言う人には分けてあげません。」
「へーそうなんだ知らなかったよ(棒)てかその前にひとつも残ってないし。大袋だろそれ。」
「当たり前じゃんあげるつもりはミリも無かったからしょうがない。たとえ大袋でも誰にもやらん。家族にもだ。」
「なんてケチ臭いやつだ。」
「そんな細かいこと気にすんなよ。という訳で今日の食レポ聞きやがれ。」
「どういう訳だよ。はいはいどうぞー。」
「さあ想像してみて、茎わかめの大袋を開けて中の個包装を開けようとする瞬間を…!記憶の中の酸を求めてたちまち口内に広がる唾液に気づいたら貴方はもう止められない。次の瞬間にはもう茎わかめを食べているわ。止められない咀嚼、広がるジューシーな味わい、酸に出会えたことへの無意識の歓喜…。手は自然に新たな袋へと伸び、以下エンドレス。何という魔のループ(いい意味で)!何という幸せ…っ!!」
「そう言いつつカバンからまた大袋が出てきてるんですけど。」
「いやね、絶対止められないと思ったからつい。」
「中毒?もはや中毒なの??食べすぎると腹壊すぞ。」
「そう、これは中毒。食への飽くなき欲望…。ああッ!なんて幸せなのっ!お腹いっぱい茎わかめで満たす!!」
「誰でもわかる。これはヤバい奴だ。後悔する前に止めろよ?知らねーからな。」
「ふんッ。せいぜい私が幸せそうなのを見て羨む事ね。強請られてもあげないから。」
「へいへいさいですか。」
「あ、そうだ。今暇?」
「まあ暇っちゃ暇だけど。」
「茎わかめ買ってきてよ。梅味。」
「俺はパシリか!」
「私梅味の方が好きなの。じゃあよろしくね。」
「…大袋ふたつも持ってくるならひとつは梅にしとけよ。」ボソッ
「文句言うな。金はやる。」
「はあ〜ぁ…。行ってくる…。」
「(あ、なんだかんだ言いつつ行くんだ。)うぇーい。」
「買ってきたぞ。ってどうしたよ。」
「うぐぅうぅ…お腹痛いぃ…」
「言ったこっちゃねえな。しかも二つ目も完食してるし…。梅味はお預けな。」
「ぐぬぬ…遅い…おぶって帰れよ…。」
「ったく。早く乗れよ。もし重かったら即降ろすからな、覚悟して乗れ。」
「いや私かわいい女の子だから羽のように軽いし。」
「言ったな?羽より重かったら落とーす。よいせっ」
「うわわわわっ」
「羽より重ぇな。はいどーん」
「ぎゃあああ!!!」