夜に光る瞳
目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。
起きてしまった理由は明確に分かっている。
今日視てしまった夢のせいだ。
ベットの上から這い出し、姿見の前に立つ。その前でネグリジェを脱ぎ捨てた。
鏡に映る私の肩には、男に荒く掴まれた痕が残っている。
実際に掴まれた訳ではない。この痕は私が造り出した妄想だ。想像妊娠と同じようなものだ。
私は自分自身が殺される夢を見た。
夢の中で私は薄暗い道路の上に立っていた。
闇の中にいるのは、血塗れで倒れている多数の人間と暗い色のパーカーを着た一人の男。
男の手には、月光に照らされて鈍く光る刃渡りの長いナイフが握られていた。
地面に向けていた男の顔がこちらを向いた。異様にギラついた双眼。今までに見たことの無い目だった。
男の瞳に吸い寄せられるようにして、私は男に近づいた。
あの瞳を近くで見たい。それだけの感情で、私は男の元に行った。
間近で見る男の目は、まるで二日三日肉にありついていない肉食動物のようだった。
このままでは殺される。そう思った。
だが、それならそれでいい。
この男になら殺されてもいい。
私は恋を知らなかった。いつも、友人の恋愛話の聞き役に徹していた。
この感情が恋だというのであれば、なんて人を好きになってしまったんだと友人に笑われるだろう。
男の手が肩に置かれ、物凄い力で掴まれたが不思議と悪い気はしなかった。
笑われたっていい。怒られたっていい。他人に何を言われようと構わない。
私は男のことが好きだ。
いや、それは満点の解答ではない。
私は男の───その目の強さが好きだった。
夜に光る瞳を読んでいただきありがとうございます。
この小説は友人に指定されたワードで書きました。短編って難しいですね。
これ以外にも『バカガミ!!─強制不能水神─』を連載しておりますのでそちらもどうぞ宜しくお願いします。