#7 少年K プロローグ
あながち、田舎の中学校で起こる「いじめ」と言うのは、マンガやアニメであるような、トイレの個室に入っていたら上から水をぶちまけられたり、引き出しの中に大量の虫が入っていたり……。そんな、派手な「いじめ」と言うのは、そうそう起こらない。
しかし、いじめが「起こらない」訳でもない。
だんだんと、空気に溶け込むようにして、じわりじわりとクラスの空気を侵食していく。
最初は「ん?何かおかしくないか?」と思っていた奴も、次第に「ああ、あいつはそういう奴だから」と、その空気に浸かっているうちに、そう言うようになる。
クラスの輪からは、何となく排斥され、何か言えばバカにされ、必要以上に面倒ごとを押し付けられる。
………さて、俺をそんな風な「なんとなくバカにされて当然の奴」にしたのはだれだ。
最初に俺を、バカにし始めたやつはだれだ。
最近読んだ、何かの漫画で言っていた、「自分から行動を起こさないと、何も変わらない」と。
………ならば、行動を起こそう。
今の俺の立ち位置を変えるため。
そしてゆくゆくは………俺の様に、いや俺以上の「いじめ」に会っている奴等を助けるため。
………そして今夜は、その第一歩だ。
心臓の音がやけにうるさい。深呼吸をして落ち着かせようとするが、効果はない。
面倒だったので、放っておく事にした。
よく考えれば、当然の事なのだ。
俺は今から人を殺し、そして食べるのだから。
暴走し、残酷に、残忍に。
俺をいじめた奴等を……殺す!!
カチャカチャ、トン。
「ひっ……ぎぅ……がぁ……。おかぁさぁん………」
暗い部屋の中に響くのは、声変わりに入ったばかりかと思われる、高校生の様に低くも、また小学生のように高くもない、少年の声。
少年の顔は涙で濡れ、首を締め上げられ、30センチ程宙に浮かせられているため、まともに呼吸ができず、ひゅー、ひゅーと口は大きく開かれ、必死に呼吸をしようとしている。
そしてそんな少年を締め上げているのは、片手にタブレット端末を握り閉めながら、どこか退屈そうな表情を浮かべた、身長150センチ程の「ギタイ」。
額にユニーコンの様に細長い角が1本生えており、骸骨のようにかくばった顔面には、目の位置に大きな穴が2つ、ぼこんと空いている。その奥に、光を見ることは出来ない。真っ暗で、無機質な闇が広がっているだけだ。
「あ……お前……誰なんだ……がぃ……助けて……」
締め上げられた少年の口が小さく動き、何とか言葉を発する。
だが、それに答えるものはいない。
骸骨の様な顔をしたギタイは、締め上げた少年の頭に勢いよくかぶりついた……。
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