白猫
終礼が終わり、それぞれが部活や委員会の活動のためにこの教室を出ていく。
俺も皆と同じように机の横にあるフックにかけてある教科書やら筆箱が入っている鞄を取り、特別棟の三階へと足を運ばせた。
俺はいつも、一人で放課後は図書室の管理をしている。
本当は図書委員会の人が担当するべき仕事なのだが、その人達は皆何かしらの部活をやっていて誰も管理ができないらしく、いつも図書室にいるからという理由だけでその仕事を押し付けられた。
別に、六時まで居ればいいだけだし、用事があればその日はしなくていい。
つまり、俺が本を読みたい時だけすればいい仕事だ。
しかし、俺はその仕事に不満がある。
頼まれた時は内容を明かされておらず、本の整理とか貸し出しとかするのかなと思い、喜んでその仕事を受けた。
そして、実際にやってみると、放課後に本を借りるどころか、読む人すらいない。
やる事が無いのだ。
無さすぎて、この図書室すべての本を読み終えてしまった。
本には興味があって、医学、天文学、生物学など、どれも興味深い内容のものばかりで面白かった。
今は二周目に突入して、あと三十冊読んでしまえば三周目だ。それとは別に時々本の整理をしている。
もう今日はその仕事を断って、例の彼女を探そうか、と思いながら地味に長い階段を登っていく。
*
階段を登りきり、三階にたどり着いた。
暑いわけではないが、一階より暖かく感じる。
夏の蒸し暑さが抜けていて、心地良い。
「もう、夏も終わりかな 」
一人言を呟いて図書室に目を向けるとドアが開いていた。
大抵は昼休みに貸し出しを担当する生徒によって閉められている。
恐らく閉め忘れたのだろう。
まあ別に閉め忘れていたって何も支障はないのだが。
「今日も整頓だな、今日は歴史の所にしようか 」
また呟いて図書室に入る。
すると、思いがけないことがあった。
人がいた。
風に靡く長く白い髪と透き通るような肌。
赤い目、すらっとした少し猫背の身長。
とても珍しい容姿だ。
聞いたことがある。
希に、遺伝情報の欠損によってメラニンが欠乏し、肌や髪が白くなる。
確かその病気の名称は、アルビノ。
先天性白皮症とも言ったっけ。
その彼女は心理学の所にある本を読んでいた。
ひたすら集中して真剣に。
周りはとてもおだやかで暖かいのに、彼女の周りだけは、何か違う静かさがあった。
とても綺麗で繊細。
まさに白猫。
俺はしばらく、その彼女から目を離せなかった。




