表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/108

第1章 美女の皮を被った野獣③

 声をかけたのは、背丈だけは女よりかなり高いものの、少し痩せぎすで、どことなく頼りなげな感じのする男だった。

 美男でもなければ、取り立ててブサイクというわけでもない。

 いわば、どこにでもいそうな、サラリーマン風の日本人だ。

「つまんない」

 声をかけた男に向けられた女の目は、実に悲しそうだ。

「こいつら、マジ弱すぎて、準備運動にもならないんだもの」

 男が、黙って肩を竦める。

 女の方は、見かけは可憐だが、少し前までは、CIAのトップシークレットとして扱われていた、最強の暗殺者だった。

 男の方は、少し前までは、普通のサラリーマンとして、小さな商社に勤めていた。

 裏の世界とは、まったく縁もゆかりもない、正真正銘の民間人である。

 見てくれも、歩んできた人生もミスマッチな二人だが、なんとこの二人は、紛れもない夫婦だった。

 男の名は、杉村悟。

 女の名は、カレン・ハート。

 悟とカレンは、ある事件をきっかけに知り合った。

 当時のカレンは、眉一筋動かさずに人を殺める、冷酷無情な殺し屋だった。

 男に対して、何の感情も抱いたことはない。

 ましてや、弱腰な日本人なぞは、軽蔑しきっていた。

 そんなカレンが、どういった訳か、日本人である悟を気に入ってしまった。

 それまで恋愛の経験もなければ、恋愛したいとも思っていなかったカレンは、愛情表現の仕方がわからなかった。

 しかし、どうしても、悟を手に入れたかった。

 思い悩んだ挙句、カレンは思い切った行動に出た。

 その事件で、腹部に銃弾を受けて入院していた悟の病室に夜中に忍び込み、ベッドに横たわる悟の額に銃口を押し付けて、「わたしと一緒になるか、ここで死ぬか、どちらかを選べ」と言って迫った。

 命が惜しかったのか、悟もカレンを気に入っていたのか、悟は素直にうなづいた。

 そんな、小説や映画でもあり得ないカップルだが、不思議と仲が良い。

「なかなか、良い代物ね。わたしが貰っておいてあげる」

 気持ちの切り替えが早いのか、カレンの顔からは、さきほどの悲しみは消えていた。

 路上に落ちているナイフを嬉しそうに拾い上げ、倒れている男の腰から、鞘を奪った。

「こんな弱っちい奴に持たれたら、ナイフが可哀相だわ」

 鞘に納めたナイフをベルトに差しながら、悟に笑顔を向ける。

 悟も笑顔で応えてから、路上に目を移した。

 狭い路上を埋め尽くさんばかりに倒れている、さぞ凶暴であったろう方々たちを見回す。

 どの輩も、軽傷の者はいない。

「よりによって、カレンに喧嘩を吹っ掛けるとはな。こいつらも、とんだ災難やったな」

 悟が、憐みを帯びた口調で、ぽつりと呟いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ