また会うため
白い部分が多い自己満小説ですが、よろしければご覧ください。
誤字・脱字はお許しください。
今日もまた目を覚ます。
相変わらず氷のように冷たい水の中で。
長い間ここにいるせいで慣れてしまったけれど。
今日もまた何もないこの水の中で思い出に浸る。
こんな生活になったのはもう何百年も前の話だ。
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家族に囲まれて眠りについた私は、気付けば大きな河のある場所にいた。
河の上には橋が掛かっている。
橋の入り口には老婆が座っていて、その前には机があり、上に食器が置いてある。
疑問に思いつつ私は橋の前まで来た。
すると老婆は私に食器を渡してきたので、それを受け取る。
何やら中にスープが入っている。
「すいません、これは何ですか?」
私が尋ねると老婆はこう言った。
「これは特別なスープでね、飲めばなにもかも忘れて次の世界へ行けるのさ。なにもかも、ね」
含みを持たせた言い方が気になり、さらに老婆に尋ねる。
「なにもかもとは?」
「そりゃそのままの意味だよ。恨みやら憎しみやら喜びやら愛する人との記憶やら、ね」
「愛する人との記憶…?」
「そう。何事もなく次の世界を楽しむために、それらをきれいさーっぱり忘れるのさ。それはそのためのスープだよ」
ニタニタ笑う老婆に若干の怒りを覚えつつ私はさらに尋ねる。
「このスープを飲んだら愛する人ともう会えないのですか?」
すると老婆はこう答えた。
「会えるには会えるさ。まあ、会ったとしても、ただの他人同士だがね」
会ったとしても他人同士?
老婆の言っていることが理解できない。
「どういうことですか?」
「つまり、次の世界ではその人と愛することもなく、別々に生きていくのさ」
「そんな…」
生まれ変わってもあの人とまた愛し合えると信じていたけれど、老婆のその言葉に私は言葉を失うしかなかった。
そんな私の前で相変わらずニタニタ笑う老婆は口を開いた。
「たまにいるんだ、疑ってここまで聞き出して今のあんたみたいになる奴が。でも、そんな奴のための処置もあるんだ」
「本当ですか!?」
あの人とまた愛し合えるのね!
この時初めて老婆が女神に見えた。
「それで、その処置とは何ですか!?」
「簡単だよ。スープを飲まない代わりにこの河の中で千年過ごすのさ」
老婆の言ったことに私は耳を疑った。
何故千年もこの河で過ごすのか、そもそも河の中で過ごすことが可能なのか、色々なことで頭の中がグシャグシャになって何も話すことができない。
構わず老婆は続けた。
「そりゃそうさ。それくらいの覚悟がなきゃ何もしてやれないよ。ただえさえ忘れたくないってわがままを叶えてやるんだから」
さらに老婆は爆弾を落とす。
「そうそう、この河は氷のようにそれはそれはとても冷たいんだ。それに途中で投げ出すなんてこともできないよ。それでも記憶を忘れずに過ごしたいかい?」
確かにあの人との記憶を忘れたくない。
しかし、千年というとてつもなく長い年月を冷たい河の中で耐えるなんて、私にできるのだろうか?
延々と頭の中で考えても答えは出ない。
あの人のためならどんなことでもできると思っていたが、即答ができずにいるあたりやはり人間、自分がかわいいらしい。
考えている間にも老婆は話を続ける。
「たまにあんたみたいな奴がいると言っただろ?そいつらのほとんどは、この話を聞いて結局なにもかも忘れて次の世界へ行く事を選んでいる。当たり前だ。忘れたくないがために、河の中で千年も無駄にするなんて全く馬鹿げているよ」
果たしてそうなのだろうか。
老婆の言う通り忘れたくないためだけに千年も河の中で耐えるのは馬鹿げているのだろうか。
「それに河の中で千年過ごしたとしても、相手がスープを飲んでいたらその千年が無駄になるんだよ。それでも忘れたくないと言えるかい?」
その言葉が頭にガツンと来た。
考えてすらいなかったけど、あの人がスープを飲まないとは言い切れないんだ。
だとしたら私の事を覚えていない…?
そんな事など考えたくないが気付いてしまえばその事が頭をちらつき始める。
あの人が覚えていなかったら私は生きていけるの?
良くない方へ考えが傾いてしまう。
あの人は本当に私との思い出を忘れないでいてくれている?
「何も意地悪でこんな事言っているんじゃない。あんたのためを思って言っているんだよ。さあ、スープをお飲み。すぐに次の世界へ行けるよ」
自信がなくなった私は、老婆の言う通りスープにゆっくりと口を近づけた。
これで何もかも忘れてしまう。
そう思うと、走馬灯のようにあの人との思い出が駆け巡る。
初めて出会った日、初めてデートした日、初めて手を繋いだ日、そして、私に向けたあの笑顔。
瞬間、私の手が止まった。
急に動かなくなった私を見て不審に思った老婆が声をかける。
「どうしたんだい?さっさとお飲み?」
「やっぱりあの人の事を忘れたくありません」
私はそう言ってスープを老婆に返した。
「あの人が私の事を忘れていたとしても、私は絶対にあの人を忘れたくない。忘れたくないんです…」
いつの間にか涙が流れていた。
そうして私は泣き崩れ、しばらくしてため息が聞こえた。
それに気づいて私は顔を上げると、老婆は言った。
「あんたの気持ちは分かったよ。スープを飲まないなら河の中で千年過ごすしかないが、それでいいんだね?」
「上等です。あの人を忘れる事と比べたらへっちゃらです」
私は笑って見せた。
本当は不安なのだが、それでもあの人を忘れるくらいなら千年耐えた方がマシだと思えた。
「ほっんとあんたは馬鹿だねぇ。仕方ない、これも決まりだ。ほら、こっちへおいで」
言われた通り老婆に近づいた。
すると、いきなり頬に痛みが走る。
老婆を見ると、手に何かを持っているのでおそらくそれが原因だろう。
「スープを飲む事を拒んだ奴には、頬に印をつける決まりでね。
これで準備は整ったよ。あとは河へ飛び込むだけだ。行ってらっしゃい」
そう言って老婆は笑みを浮かべた。
それは最初のニタニタしたものではなく、とても優しいものだった。
そんな老婆を見て私は微笑み、橋の縁に立つ。
そして、大きく深呼吸をして河の中へ飛び込んだ。
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あれから何年経ったのかはもう忘れてしまった。
千年まであともう少しな気もするし、まだ先な気もする。
しかし、そんなことはどうでもいい。
私はただひたすらあの人の事を思いながら、また会う日までこの冷たい河の中で過ごすだけなのだ。
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そうして生まれ変わって、私は新しい世界で健やかに育った。
また今日もあの人を探しに行く。
今日はどこへ探しに行こうか。
あの人に会えるかもしれないと思うと、笑みがこぼれる。
その頬には老婆につけられた印の代わりにえくぼがあった。
中国のえくぼの伝説を自己解釈したものなので、理解できない部分もあると思います。
伝説を知らない方は調べると分かりやすいかと思います。
ここまでご覧いただきありがとうございました。




