第12話 ステージ・オブ・ザ・キヨミズ(Aパート ボマー&キラー)
12話のAパートです。
工作とレイラによって凶行が断たれた2人の凶悪犯は今……?
【登場人物紹介】
・坂上伊志男[21歳]
爆弾魔。世間を驚かせようと、独学で爆弾を製作している。東京に虚偽の爆発予告をしてで世間の目を反らし、その隙にFUJIオーサムランドに爆弾をしかけ、大量殺戮を試みるも、工作とレイラによってを妨害される。彼はその後、工作のコトをひどく根に持っている。
・矢加部太郎[32歳]
殺人鬼。過去に罪の無い人間を6人もバラバラにして弄び、死体を青木ヶ原樹海に捨てていた凶悪犯。しかし、思いこみが激しい性格で、樹海で偶然出会った工作とレイラを自分以上のサイコキラーと勘違いしてしまう。それが原因となり、あえなく警察に逮捕された。
※詳細は[第4話 グリーン・オーシャン]にて。
俺が爆弾に取り付かれたのは13歳の頃だ。
床屋の待合い席に置かれた週刊のマンガ雑誌をそれとなく読んだコトがキッカケになった。その時特別読み切りで掲載されていたマンガには、錆びた鉄の粉とアルミの粉を混ぜ合わせて爆弾を作り上げる描写があった。
俺はそれに深く感銘を受けた。こんなに簡単に爆弾が作ることができちゃっていいのか? そう思ったんだ。
俺はそのマンガの爆弾を見よう見まねで作り上げ、さらには安物の腕時計を利用した時限装置も取り付けた。初めて作り上げたハンドメイドボムの姿を見たときは、初めて女の性器を見た時よりも込み上げるモノがあったね。
そして俺は、処女作の爆弾をクラスのカンに障る野郎のロッカーに忍び込ませておいてやった。いつも俺のことをチビだのハゲだの罵ってきやがるヤツさ。ちょうどヤツがロッカーから物を取りだそうとした時に時限爆弾は起爆。ロッカーの中で1000人が同時に悲鳴を上げたかの様な音と共に、無数に飛び散った金属片がそいつの右腕に突き刺さった。
俺はその時、初めて心の底から[美しい]という感覚を味わった気がする。鉄片が血液を纏って煌めく、その様を見た俺は心臓を誰かに鷲掴みされたかのような錯覚を覚えた。
空気が熱せられ、衝撃の波が襲う。それらが無造作に肉のキャンバスに刻む模様は、陶芸の焼き入れで偶然作られる火襷のような芸術的産物だ。
爆弾に惚れ込んだ俺は、もっと大きなキャンバスが欲しくなった。大勢の肉がうごめく場所で衝撃と熱の大輪を咲かせたかった。でも、それは一人のいけ好かない小説家によって大失敗に終わった。
小泉工作……この名前を聞くだけで俺は怒りでこめかみの震えが止まらなくなる。くだらない小説を書いて大衆から金を巻き上げるペテン師に俺の努力の結晶が水泡に帰してしまったのだ。これ以上に悔しいことはあるだろうか?
まぁ、いい。いずれヤツにはその身をもって、俺の創作に付き合ってもらうとしよう。今は、進行中の作品作りに集中するとしよう。
今、俺は人通りの多い、とある町中の大通りに面した喫茶店で凡庸なコーヒーを啜っている。
時刻は昼12時25分。あと5分後にはこの通りは、多くの悲鳴によるオーケストラが開始されるハズだ。
俺は道路に設置されたマンホールに、「二段構え」の爆弾をしかけた。
一発目はマンホールのフタを上空高くに打ち上げる為の、発射爆弾。そして二発目は、その打ち上げられたマンホールに取り付けられている炸裂爆弾。それにはたっぷりのベアリングが仕込まれている。
つまり、一発目で宙に浮いたフタから、爆発と共に真鍮製の豪雨が道行く人々の頭に降り注ぐという寸法になっている。我ながら素晴らしいアイディアだ。決して小泉工作が俺の爆弾を空高く放り投げて台無しにしたことを参考にしたワケではない。れっきとした俺のオリジナルだ。
さて、あと10秒か……行き交う肉キャン(肉のキャンバス)の数も申し分ない。さぁ……一体どんな作品になるのか……楽しみでしょうがない……さぁ……! さぁ……!
5……
4……
3……
2……
1……
0
鼓膜を艶やかにつんざく轟音が響き渡った。
喫茶店のガラス窓が振動し、コーヒーに大きな波紋が浮かぶ。
やった! 今度こそ成功だ! 沸き上がる興奮を押さえ込みつつ、あくまでもこの爆発の一目撃者としての装いで、俺は喫茶店の外へと出た。
ああ、一体どんな作品が仕上がったんだろう!? ワクワクが止まらない。こんな気分になったのは、小学生の頃に親の目を盗んで無修正のポルノサイトを覗いた時以来だ。
しかし……僕の目に飛び込んできた光景は、あまりにも興が冷めるモノだった。ああ、芸術の神よ……、一体僕が何をしたっていうんだ? これじゃあ……あまりにも……あまりにも残酷すぎる……!
マンホールは宙に浮かばなかった。なぜなら、爆発したその瞬間。偶然にもその上に小型のバスが通りかかり、フタの上昇をブロックしていたからだ。
ベアリングの雨が降り注ぐ代わりに、亀のように無様にひっくり返っていたバスの姿は、まるでガキの頃に作った秘密基地を大人に見つけられてしまった時を思い出させた。
またか! くそ! 何で俺が大作を作ろうとすれば必ず邪魔が入るんだ! くそっ! くそっ!
またしても爆作が失敗に終わり、俺は虚無感の中でぬるく立ち上がった怒りを抱えながら、路地裏を歩く。一分一秒でも早く、この場所を離れたかった。
ヘドロのような汚れが染み込んだ汚い石を蹴りながら、俺は早歩きで路地の奥へ奥へと進んでいく。
人気はなく、建物の陰により薄暗い。そんな非現実な空気すら醸し出すこの場所で、俺は自分のモノとは違う足音が背後から近寄ってきていることに気が付いた。
まさか? 爆弾を仕掛けたコトがバレているのか? 誰かが僕を追っているのか? 俺の正体へと繋がる証拠はチリ一つ残していないハズ……なのにどうして?
足音は徐々に俺との距離を縮めてきている。
5m……3mと近寄ってきている謎の足音。一体誰だ?
俺は意を決して背後の存在を確かめるべく、立ち止まって回れ右をした。
「誰ですか? 何か用事なんですか!? 」
僕が振り向いた視界のその先には、上下がみすぼらしい灰色のスウェットに身を包んだ、やや太り気味の男の姿があった。髪は伸びっぱなし、髭も生やしっぱなしで手入れがされていない。肌や髪の艶から察するに、まだ年齢は30代と思われるが、パッと見た印象では50代にも見える。
そして何より、その男の腕には、ゴリラの腕力でもちぎれそうにない、頑丈そうな手錠がはめられていた。
「今さっきよぉ、俺、護送車に乗ってたんだけどよぉ……なんかイキナリ洋モノの喘ぎ声かっつーくらいバカデカい音が聞こえたと思ったら車がひっくり返っちまってよぉ……頭をメチャクチャ強く打っちまったんだよなぁ……」
男はまるで僕が旧知の親友であるかのように馴れ馴れしく話しかけてきた。その表情は宿便が出たかのような爽快感に覆われていた。
「あんた、護送車ってことは……もしかして……」
「そう、俺は矢加部太郎ってんだ。6人殺したってんで今から裁判受けるとこだったんだけどよ……まさか護送車が爆発に巻き込まれるとは思わなかったぜ。ま、そのおかげで今こうして逃げるコトも出来るんだけどな」
そう言って男は、僕の体を水族館の魚を見るように視線をなめ回した。一体なんだ? 気持ち悪いヤツだな。
「その人殺しが、俺に何の用なんだ? 」
「隠さなくってもいいんだぞ、俺には分かる」
「何が分かるって言うんだ!? いいからもう、その趣味の悪い顔を引っ込めてくれるか? 」
僕の口撃にいっさいひるむことのない謎の男。彼は手錠で繋がれた両手を上げ、顔の前に持ってくる。そして得意げな顔でこう言った。
「あの爆発よ……お前がやったんだろ? 」
「何? 」
体に寒気が走った。あれだけ多くの大衆がいたのにも関わらず、その中からどうして俺が爆弾を仕掛けた張本人だと分かったのか? もう一度矢加部太郎と名乗る男の姿を見返してみると、そこには薄汚い男ではなく、非常なオーラを醸し出す殺人鬼の佇まいがあった。
「手を組もうぜ、青年。お前からは、俺と同じ匂いがする」
[ステージ・オブ・ザ・キヨミズ(Aパート ボマー&キラー)] 終わり
→次回[ステージ・オブ・ザ・キヨミズ(Bパート)]へと続く。
すみませんm(_ _)m 執筆が間に合いませんでしたので、12話を二つに分割させていただきました。
次回からちゃんと工作もレイラさんも登場します。
■■■■最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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