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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

非道徳的交渉先入観似非同情差別

scene:士気*

作者: 紅羊


scene:士気


 向こう側に誂えたとある国の前線基地。ナカンダカリらの一派との散発的な衝突に対し、後手に回らないよう意図した結果の基地である。また、向こう側である異世界の情報を収集する為、そして向こう側の侵略を抑える絶対防衛ラインとしての意味合いもある基地だ。規模としては1万5千人の兵士を擁する。展開する場所柄、主戦力として常駐しているのは陸軍と空軍。それぞれ9千と6千ほどの割合である。

 とある国……と内外共に秘匿されているものの、装備品は旧共産圏の古い物が目立つ一方で、意外と最新の火器も見受けられる。取り分け、戦闘機類は新しいのではないだろうか。兵士の人種は雑多、白人と黒人が殆どだ。公用語には英語が聞こえる。巧妙と言えるかは別として、見る者が見れば、どの国に所属する軍隊かは明らかだった。

 先日、彼らは一戦を交えていた。ナカンダカリ直属の部下らしい、俗に眷属と言われる人物が率いたのは、中隊と同程度の200匹に対し、とある国は戦闘機、戦車を含む装備の導入の上、歩兵は2千。にも関わらず、同戦闘にて15百人余りの死傷者が出た。勿論、敵にも相当な死者を出したが、最大の功績は十匹余りの捕虜を得た事だろう。

 見た目にも屈強で、如何にもなモンスターが五匹――早々に本国へと移送された。今頃は手酷い実験を受けている事と推測される。華奢だが同様に醜い装いの二匹は法的な取引を訴えた。向こう側にこちら側の法的な考えが通用するかどうかは分からないが、命乞いをしたのである。恐らく術式と呼ばれる向こう側の技術の解明に使われるとの噂が届いている。残るは三匹。言うまでもなく、一匹はこの兵站地で飼われており、残りの二匹は囲われている。

 「相変わらず飛んでやがるな」

 レーダーには映らない、が、双眼鏡では確認出来る飛行物体。小さいからか、こちら側の摂理や理論に関わる事なのか、既存のレーダーは充分な機能を果たしていない。専ら視認による警戒が行われている。

 五角形を成す基地の角のひとつに当たる北側の監視塔の上に立つアレックスは、何時もの事だと思いながらも定期連絡に乗せて、鳥が哨戒している、と報告した。鳥と呼んでいるが、飛ぶ事が可能な亜人で、どうやらこちら側の航空力学の考え方は当てはまらないらしい。人間ほどの大きさに、二メートル超の羽で飛ぶことは出来ない筈だからだ。この異世界の原理に触れる術式が関係しているのだろう。が、この術式には随分とやられたものである。

 先日の戦闘でも術式によって相当な被害が出た。呪文か何かを要するのみで、防御と攻撃のみならず、サポートなどの支援も出来るような代物である。汎用性が高く、これと言った装備もなく行える事は随分なアドバンテージだった。無防備な輩が来たかと思えば、目の前で爆発が起き上がるなんて現象もよく見られたものだ。

 特に哨戒以外の行動を見せようとしない鳥から地平線に視線を移す。やや小高い丘の上に設置された基地は、主に南の方へ道が拓かれている。後ろに山を背負い、大きな川も横を流れている為、天然の要害としても優秀だ。車両と歩兵に踏み拉かれ、轍が標となった道は多少でも片付けられているものの、先日の戦闘の跡……爆発や爆撃に伴うクレータが空いている。敵の死体は焼却され、今は黒々とした炭が汚泥を更に穢していた。

 基地内に視線を戻すと、諸々のストレスにさらされた兵士らの姿があった。バスケットに興じる者、賭け事に一時の興奮を覚える者、紳士的に読書と音楽に耽る者、中には麻薬を吸っている者もいた。一応、公式には健全、且つ正義の執行と言うスローガンを掲げている事を忘れているのだろうか。全く、野蛮な奴らだとアレックスは溜め息を吐いた。

 かなりの不祥事を見過ごされる基地内とは言え、人の生き死にに関わる事を見過ごせない都合、監視者は兵士らの覗き見が許されている。中にはそんな性癖の者もいる。アレックスは至ってノーマルだったが、階級が高い訳ではない為、逐次、警告を発する事は出来ない。相手を選び、黙すか、告発するか、脅迫するかなどを考える。

 「昼間っから」

 カーテンの開いた一室が覗ける。二人の男が目合っていた。前線基地である以上、全ての職員が男である為、そう言った趣味に目覚める者もいると聞く。アレックスの趣味ではないし、密告するような内容でもない。精々が、酒の肴だろう。後で仲間内で話のネタにしようと思いつつ、別の部屋も見る。

 「アレか」

 基地内でも最近になって何度か問題視されている場面が見えた。先日の戦闘の折に捕縛され、飼われている亜人の一匹が私刑にあっている。殺されるほどでも、致命傷になるほどの傷を負わされる訳ではなかったが、繰り返し暴力にさらされている。見た目は醜く、二足歩行出来、腕と指が器用に動かせ、言葉らしき複雑な鳴き声を発する他は人と呼称するのも躊躇われる生き物だ。豚の延長線上にあると言う他ないが、その蓄えた脂肪は、言わば肉の鎧だ。簡単には本体である身体を傷付ける事は出来ない。丈夫なのだ。加えて人間ではないと言う事実が、嗜虐的な傾向を促しているようだ。残虐であっても、非人道的な行いではない。寧ろ宗教によって悪魔を退治すると言う名目さえ立つのだから面倒である。

 アレックスにとっては無駄に体力に使うだけで益のない行為だ。興味があるのはもう一方、残る二匹への虐待だ。暴力ではなく、性的な虐待。どうしても男所帯となる基地では、適当な息抜きの他、適宜なカタルシスも必要だ。囲われている亜人……ジャパニメーションに登場するような、何かの動物の耳と尻尾を付けただけのモンスターは、ハロウィンでコスプレしただけのような格好である。

 だが、先の醜い亜人のように、道徳的な配慮は要らない。だから、格好の慰み物とされている。とある国では、どう声高に叫んでも動物が器物扱いであるように、アレも物と言う認識らしい。ただ、綺麗な顔があり、揉めるだけの胸があり、入れる穴が二つあるだけ使い易いのだ。加えて妊娠する心配もないだろう、とは、命乞いし、亡命と言う形で、屈した捕虜の言葉だ。この惨状を目の当たりにし、そう言い切れるその心持ちには恐れ入るが、逆に言えばそれだけの脅迫を受けている事の証明かも知れなかった。

 とは言え、これで士気が維持出来るのなら問題ないだろう。と言ってのける上司や国の配慮も、これが戦争だと言う認識を持っているからこそだ。新たな植民地の獲得、未知の資源やエネルギーなど、この異世界には既存の道徳を捨てても余りある展望が見込めている。

 アレックスも新天地で、黒人故に迫害されてきた祖父母らの歴史を新たにしたいと言う願いもあった。表向き、対外的には平等を謳っても、まだまだ白人らは黒人への差別がある。行為に出るか、否かの差はあるが、恐らく今以て三割くらいの白人は黒人を人として認めていないような節が感じられた。特に閉鎖的な軍事基地では間々ある話だ。だからこそ、ここで英雄と呼ばれるような功績を残したかった。

 「ま、あれは告発するようなモノじゃないな」

 そう呟きながら、アレックスは未だ哨戒を続けるばかりの鳥に目標を絞ると、居心地の悪くなった股間の皺を伸ばした。

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