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よし。花屋をやろう  作者: 煙
10/10

氷雪華・10

素晴らしき純白の思い出を脳内から振り払った後、俺はとりあえず地下に続く階段を降りる。

目当ての場所が地下に有るとは思っちゃいないが、一般的な印象で言えば地下には牢屋、または物置があるイメージ。

だから警備の奴も多くは無いだろう。なんて楽観的な考えて地下におりてるんだが…



階段をそろそろ降り切るって所で人の気配を感じた。

人数は一人、俺がいる位置とは逆方向に向かって歩いている。階段を降りた先はT字路になっており、気配は右の廊下を進んでいた。身を隠しながら覗いてみると、その動きは緩慢で、ただ決められているルートを歩いている。そんな印象が見て取れた。


よしよし。巡回君、君に決めた!!



これまでと同じように足に力を込め男の背後を取る、そして男の口を左手で塞ぎ、右手で自分の背中、正確には腰のベルトのラインに沿って横一直線に括ってあった全長30リメル刃渡り15リメルの短刀を首に突きつけた。



「動けば殺す。騒いでも殺す。静かに俺の言う事にきちんと答えれば、お前は死なずに済んで、俺もお前も幸せ(Happy)だ。わかったな?」




男は自分の現状を理解した瞬間体に力が入り、おそらくは反射的に声を上げそうになったんだろうが、言葉と共に与えた俺の殺気がそれをさせない。数瞬の間を持って男はゆっくりと頷いた。






……いや、俺別に暗殺者とかじゃないからね?何かメッチャ悪者臭でてっけど俺は花屋ですから!!




で、軽い世間話(尋問)を問題無く終えて知りたい事も知れました。

やっぱり探し物は地下には無かったみたいだな、まぁ場所は分かったし早く済ませてルルエルのとこに行ってやらんとな!



「いやー。素直に教えてくれて助かったわ。もうちょいしたら屋敷内がバタバタするかも知れんから此処で大人しくしてるのをお勧めするよ。ハッハッハ!!怖がらせて悪かったがもう此処にはこないから安心しろ。」


親切心から笑顔でそう言ってやると、男は壊れた玩具のようにガクガクと首を縦に降り出した。


「おいおい、セルフでムチ打ちにでもなるつもりかよ。首に良くないから辞めなさい。そんじゃあな!!」


と明るく言って立ち去ろうとしたが、1つ確認し忘れた事を思い出した。


男に向き直りもう一度姿をよく見てみる。

門番と違い屋敷内の警備は軽装だった、革の脛当てに肘から下を覆う革の篭手、それと胸元を守る部分だけに金属プレートのついた胸当てで、兜は被っていない。

武器としては数打ちのショートソードを腰からぶら下げている。




男が振り返った俺にビクついているのを見ながら俺は軽く短刀を持った腕を振った。


男は俺が腕を振るった事に気付かなかったが、俺の視線を辿って気づく。

自らの左腕、防具で守られていない部分の服が切り裂かれている事に気付いた男は思わずといった様子で声を漏らした。




「なッッッ!!?な、なん…で。」








俺は男の左腕を確認した後、男に背を向けながら呟いた。









「お前はソッチ(・・・)だったか。」










歩き出した背後で、何かが落ちる音・何かが吹き出す音・そして、ナニかが倒れる音がした。





男に俺の呟きが聞こえていたかは........わからない。









目的地が判明し、目的も達したから良かったんだが、どうやら警備の大半は俺の目的地周辺にいたらしい…

おかげでいらん手間が増えて面倒くさかったわ。実際大した手間でもなかったが手間には変わらない。


あー、手間手間うせぇよ俺!!.........



ふぅ疲れてんだな。早くお姫様を取り戻して帰ろう。。






イニガス邸2階最奥部。


突き当りの部屋の中に一人分の気配がある。


ルルエル・リ・ディーロン


俺に氷雪華を注文した爺さんの孫娘で、囚われのお姫様。そして何より、俺が今回花を届ける相手だ。



俺は扉の前に立ち、優しくノックする。

淑女(レディ)の部屋に入るんだからマナーくらい守るさ。



「っ…はい....開いて..います。」


中から息を呑むような雰囲気の後、鈴の音のような。と言う表現がピッタリの可憐な声が俺の聴覚を刺激した。



「失礼するよ。」


一声かけてから入室すると寝台に腰掛けた少女がこちらを見ていた。


少し垂れ目のおっとりとした瞳、鼻筋は通り、先程の音を発したであろう唇は閉じられていた。腰に届く蜂蜜色の髪はゆるやかに波を打っており毛先の方で纏められている。


全体的にふわふわとした印象を抱く少女だった。



普段は優しげであろうその表情は若干強張っており、想定外の来客であった事が有り有りと見て取れる。

そんな彼女、ルルエルの顔を見て。



あんまり怖がられたくは無いなぁ。




なんて事を考えて思わず苦笑した。









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