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前後1000年勇者  作者: あじさいくん
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霊装の在り処

「ふぅ~疲れた~」


僕は自分の家に戻ると、部屋の中心で大の字になって寝転んだ。


今朝あんだけ自分で荒らした部屋は、誰かに綺麗に片付けられており気持ちよく眠れるような気がしていた。


招かれざる二人の客人さえ居なければの話だが。


「お前らなんで僕の家に居るんだよ。お前たちも疲れたろ?少しは自分の家でゆっくり休めよ」


「それはそうなんですが、ククリがどうしてもエドワード様に話が聞きたいってうるさいので、仕方なく付き添っていますのですわ」

「はぁ?イリスあんたが帰ろうとしたあたしを無理矢理引っ張ってここまで連れてきたんじゃない!」


「そんなことありませんわ。では帰りましょうかククリ?」

「…どうせだし話を聞いていく」


立ち上がろうとしたイリスの袖をククリが掴み、この場所から移動するのをククリは拒んでいた。


「もうどっちでもいいから久々に動いて本当に疲れたから、話があるなら手短にしてくれよ」


大の字に寝転んでいた僕は体を起こし、目の前に座る彼女たちの元へと座り直す。


「…あんた本当に伝説の勇者エドワード様なの?」


「伝説かどうかはわからないけど、この世界を救った勇者ではあるよ」


「嘘よ!」


「嘘って失礼な…。そんなきっぱり言われると自信なくすよ」


「こんなや奴があのエドワード様なわけないじゃん!」

「ちょっとククリ失礼ですわよ!」


「こんなやつ…」


目の前で嘘つきやこんな奴と言われると、流石の僕でも少々ヘコむ。


「じゃああんたがエドワード様って証明見せてよ。よくわからないボロボロの服を着てるこんな奴を、エドワード様だと信じているイリスの方こそおかしいわよ!」

「そんなの天草の剣を抜いて使いこなせるのは、エドワード様しかいないのククリもわかっていますでしょう??」


「たまたま剣の才能がこいつにあっただけであって、それは証明にはならないじゃない」

「あれ程までの剣術がそこら辺の腕利き剣士に出来ると思いですの?」


(やれやれ…)


僕はため息をつきながら立ち上がり、着ている服を脱ぎ捨てる。


「ちょっ…ちょっとあんたいきなり何脱ぎだしてんのよ!!!」

「エドワード様いきなりこんな朝から、私心の準備が出来ていませんわ」


二人の過剰な反応に僕は蛋白に受け答えをする。


「第一にこの家は僕の家であって裸で居てもなんの問題はないだろう?第二に服を脱いだのはやましい気持ちではなく着替えるためだよ。第三に話があると思って聞いてみたら二人の口喧嘩で、話が一向に進まないじゃないか」


顔を真っ赤にして俯いている二人を後に、僕は隠していた永劫酒のある床下を開け、一つの袋を手にする。


「服…?そうだわ服よ服!伝説の一行が着ていたと言われる霊装。この村の何処かに隠されている霊装、本当のエドワード様なら知ってるわよね!」


顔を真っ赤にしながらククリはパンツ一枚になった僕を、目のやり場に困りながら見つめる。


「ですがククリ、それは私達のお父様やお母様、更にその先代の方達が探しまわっても見つからなかったもはやおとぎ話の話ですわ」


「ここにあるよ」


僕は片手で持った袋をチラつかせながら、二人を見つめながら言う。


「は?あんた何からかってるのよ。薄汚い袋しかないじゃない!」


「薄汚いって…ほれこれ持ってみろ」


僕はククリに袋を手渡した。


ククリは袋を開けたり、周りを触ってみたりしている。


「どうだ?触り心地意だろう?」


「はぁ?ただの袋であって、中身は空っぽで霊装所か何も入ってないじゃない!」


「あのなぁ…この袋は使い方があってな…、そもそもこれは偉大な分福茶釜様が分け与えてくれた、どんな大きい物も収納できて、どんな重い物も重量を感じさせず、どんな数でも入れられる魔法の袋なんだぞ?」


「ただ薄くてひんやりとした肌触りのいい袋じゃない。そもそも素材何よこれ。こんなすべすべした素材見たことないわよ!」


「分福茶釜様の金○袋だよ」


「汚ッ!」


ククリは地面に力いっぱい魔法の袋を叩きつける。


「何するんだよ!これこの世で一個しかないんだぞ!?」


「あんたなんってもんあたしに持たせるのよ!しかも何もないし!」

「ちょっとククリ私の服に手をなすりつけるのやめてくださいませ!」


「せっかちなんだよ。まずこの袋の使い方は直接中身を取り出すんじゃなく、欲しい物の名を読み上げて取り出すんだよ。見てろよ。エドワード装備!」


僕はそう読み上げると、袋に手を入れ自分の霊装を取り出す。


「な?言ったろ?これが俺の霊装だよ」


二人は目の前に起こったことが理解できないようで、表情が固まっておりポカンと口を開ききっている。


「うし、これで良しと」


僕は霊装である制服に着替え終わる。


「ちょっとタイム!」


ククリがようやく喋ると掌を大きく広げ、静止を促す。


「それがあんたの…霊装なの?普通勇者って言ったら硬い鉄の胸当てや鎧を纏う物でしょ?でもあんたが着てるのよくわけがわからない服だし素材は絹のような物じゃない!」


「これ一見ただの絹のように見えるけど、エルフ族の幼少期の幼虫だけが出せる絹の糸で作られた服で、どんな物質よりも固く柔らかい素材でできたもので大抵の攻撃や魔法を防ぐ品物で、更にはどんな汚れも浄化してくれる万能な優れものだ。それにわけわからない服じゃない!僕が憧れていた高校のブレザーの制服だ!中学が学ランだった僕の気持ちがククリにはわからないだろ!」


「なにわけのわからないこと言ってんのよ!だったらカウラ様とリムル様の霊装出してみなさいよ!」


「あーもうわかったよ。カウラとリムルの装備」


袋に手を突っ込み二人の目の前に彼女たちの着ていた装備を広げる。


「こっちの黒いのと魔導書がカウラのもので、そっちの白いのと杖がリムルの物な」


二人はおとぎ話だと思っていた霊装を目の前に出されて、顔が真っ青になっていた。


「これでいいだろ?じゃあ出しいても仕方ないし仕舞うからな」


「待って!」

「待ってくださいですわ!」


僕が霊装を仕舞おうと手をかけようとした瞬間、二人の息のあった言葉に手を止められた。


「え?どうしたんだよ?」


「少し着てみたい」

「私もですわ」


「ったく仕方ないなぁ…後ろ向いててやるから着替えたら言えよ」


「言いって言うまで振り返ったら殺すからね!」


「へいへい」そんな適当な言葉を発しながら、彼女たちとは正反対の方向に向きを変える。


後ろからガサゴソと服を着替える音が聞こえ、暫く待つと「もういいわよ」の声が聞こえ僕は彼女達の前に視線を向ける。


「どう?」

「どうですの?」


「どうって…めっちゃぶかぶかじゃないか…」


「仕方ないじゃない。サイズが違うんだもの」


「あぁそうか。違うんだよこれ。この絹の糸ってこの糸自体生きてるような物で、こうやってある程度の魔力を注いでやるとな…」


そう言いながら二人の霊装に両手で手を当て軽い魔力を注ぐと、先程までが嘘であったかの様にぶがぶがであった服が、二人の体型に合わせて伸縮する。


「おぉ…」

「凄いですわ」


「こうするとカウラとリムルとは似ても似つかぬけど、様になるもんだな。流石あいつらの孫ってわけか」


「うるさいわね。どうせあたしたちはお二人様の様にスタイルも身長もないわよ」


少し頬を赤らめながら照れくさそうに、憎まれ口をククリが吐く。


「エドワード様、こちらの2つの武具は…?」


「あぁこれは古の武具で、お前らも流石に名前ぐらい聞いたことがあるだろう?大魔術師アイン様が作ったと言われる最古の魔導書と最古の杖だよ」


「名前くらいは聞いたことがありますわ。この世界における五大元素を元に理論的に魔法を構築し、それを世に広めた大魔術師と」


「そう。そのアイン様が死に間際に作ったと言われる全てを破壊する魔法が書かれた魔道書に、全てを癒す力が込められた杖だよ」


「そんな立派な物を…この霊装と良いカウラ様とリムル様は大変苦労してこれらを手に入れたのでしょうね」


「いや…この霊装はシルフ属を救った時に礼をよこせとカウラが脅して作らせたものだし…この魔導書と杖はリムルが聖堂神殿に忍び込んで、黙って盗んできたものだ…」


「え?」

「え?」


二人の息のあった言葉が発せられるたびに、彼女たちの幻想を打ち砕いてしまう自分が少々嫌になる。


「ま、まぁそのおかげで世界を救えたってことでもあるけどな!」


このフォローが二人にどれほど届くのだろうか冷や汗が止まらないでいた。


「失礼します。エドワード様、村長が呼んできて欲しいとお呼びになっておりますので、お連れに参りました」


「わ、わかりました」


役に立たないフォローから逃げるように、呼びに来た子供とともに村長の家に向かった。

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