食料奪還
「こんなもんかな?」
最後の麻袋を担ぎあげた肩から荷車に降ろす。
村を襲った魔族が根城にしていた村を出た森の先にある祠から、魔族が溜め込んでいた肉や木の実、果実などを荷車に運び終える。
「それにしても懐かしい場所だな」
僕はカウラとリムルとここであった思い出を鮮明に思い出しては少し懐かしんでいた。
「ここの祠はカウラ様とリムル様がエドワード様と共に世界を救う旅立つ前に、三日三晩寝ずに大地に祈りを捧げたと言われる精霊の祠でしたわね」
イリスのその声に「ほぇ?」とマヌケな声を出してしまった。
「?」
イリスは不思議そうな顔で僕を見つめる。
「イリス心して聞いてくれ。この祠はそんな立派な神聖な祠ではない。二人が三日三晩大地に祈りを捧げたなんて全くのデタラメだ。あの二人がそんな熱心に信仰を捧げるなんてありえないことだ」
「ならこの祠は一体なんのでしょうか?」
「精霊の祠ではなくここの祠の本当の名前は懲罰の祠だ」
「ちょうばつのほこら?」
「うん。あの二人が当時居た村長に叱られて、腹いせに酔った勢いで村長の家を魔法で放火し、それがバレて三日間この祠に閉じ込められたんだよ」
「エドワード様失礼だと存じ上げますがほんとうの話でしょうか?」
「寧ろ僕が一番驚いてるのはフロス村で災厄と恐れられていた二人が何故、1000年の時を経てそんな美談で塗り固められているかまるでわからないよ…」
「それがほんとうの話でしたらカウラ様とリムル様は…ぶっ飛んでいたお方なのですね…」
イリスは落胆の表情を浮かべながら地面に突っ伏して居た。
「それはそうとククリあなたどうして先程から黙ってらっしゃるのかしら?」
「・・・」
イリスがククリに話しかけるが、口を開く気配はなくただ僕を睨んでいると捉えられる表情で、僕のことを茶色の瞳で見つめ続けているククリだった。
「と、とりあえずまぁだいたいの食料を積み込み終わったわけだしそろそろ村に帰ろうか」
ククリの眼差しは大方予想ができる。
一言で言えば僕を勇者エドワード本人だと疑っているという事であろう。
だが証明するにも、今この世界のこの村で僕を証明できるものは誰一人居らず、今のククリに何を言っても疑いは晴れるわけではないと思われるので、空気を変えるために村に帰ることを提案する。
「そうですわね」
(唯一の救いはイリスが信じていてくれることなのだが、逆を言えばイリスは信じ過ぎのような感じもするが…。)
祠を出て村に帰る途中の森のなかで少し僕は気になったことに気がついた。
「なぁイリス、僕が居た時はこの辺は野生動物に溢れかえっていたようなきがするんだが?」
周りを見渡すが僕達以外の動生物は確認できず、確認できるのは草や木と言った植物のみであった。
「魔王が復活し魔族が横行するようになってから、動物たちは絶滅したか誰の目にも届かぬ所でひっそりと暮らしていると言われておりますわ」
「そうなのか」
「そうですわ。だから先程の祠から持ち帰った肉類は、少なからずこの村では大変貴重な食料なのですわ」
僕にとってすぐにでも振り替えられる4年の歳月が、1000年という時を経たこの世界では食料の変化すら感じさせた。
「じゃあ他の街でもこの村同様、動物は居ないのかな?」
「数は減っているらしいのですが、この村の周辺ほど居ないわけでもないみたいですわ」
あれ程溢れかえってきた動物が居ないことに少し寂しさを感じながら、ようやくフロス村に辿り着く。
「…ただいま」
「ただいまですわ」
「おぉ無事戻って来おったか」
村の出入り口では村長や他の子供達が心配そうに僕達の帰りを待っていた。
「旅のお方…いえ、エドワード様。本当にこの村をお救いいただいてなんとお礼を言って良いのやら…」
「いえ、そんなにかしこまらなくて結構ですので、気にしないでください。後これ魔族が占領食料です。これがあれば当分この村の食糧難は解消されるでしょう」
手で荷車を指差すと「わぁ~」っと嬉しそうな声を上げながら子供達が荷車を覗き、そこには貴重品である肉がどっさりと乗っており「やったぁ~」「お肉ぅ~」等の歓喜の声が村中にこだまする。
「エドワード様本当に色々とこの村のためにわざわざありがとうございます。それと、エドワード様これから一体どうなさりますかな?」
村長は頭を下げながら僕の今後について聞き訪ねてくる。
「久々に体を動かしたせいもあって、少し疲れたので僕の家で少し休んでもいいですか?」
「それは一向に構いませぬ。休み終えてからで良いので少々お話をよろしいですかな?」
「わかりました。では後ほど」
そう告げると、僕は自分の家に体を安めに帰った。