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前後1000年勇者  作者: あじさいくん
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帰還報告

広場について最初に目に広がった光景に僕は自分自身の目を疑いたくなった。


そこには豚の顔に人間のごつい胴体をした1000年前にこの世界から絶滅した、所謂魔族が居た。


しかもその数20や30ではなくおおよそ2000体ほどの数が、村の入り口のほんの目の先までに目に映る限り存在していた。


その隊を率いるボス的存在の魔族と少女たちが何やら大きな声で話し合っていた。


「おいおい、あの憎き結界の嫌な感じが無くなったと思って来てみれば、案の定結界が破られてるじゃねーか。おいチビども!二人の首を魔王様は心待ちにしてるんで持って帰らせてもらうぜ」


「あたし達の事は煮るなり焼くなり好きにしていいわ、だけど村の皆には指一本手を出さないで!」


「ガハハ、何を言ってるんだ?お前たちの首は確かに魔王さまに届けなきゃ行けないが、ここに居る住人は大人たちは隣町の奴隷になっていて、今いる奴らは使えない老人とガキだけじゃねーか。その約束は守れねーよなー」


「本当に最低ですわね。無抵抗の人間に手をかけるなんて人間のやることじゃないですわ」


「だって俺たち人間じゃねーもんなーガハハ」


ボスの言葉を皮切りに配下たちが一斉に笑い出す。


「それに俺たちもこんな田舎に配属されて、うまくもねー木の実や果物に食い飽きてたから、そろそろ人間を喰いたいと思ってた頃だしな」


「イリス!ククリ!」


僕の大きな声で二人を呼びつつ彼女たちのもとにつく。


「あんたまだ逃げてなかったの?早く今のうちに逃げなさいよ」

「今なら間に合いますわ」


「何言ってるんだ。お前たちじゃどうにもならないだろう。それに子供二人置いて行けるか」


「何言ってんのよ。あたしたちは18歳よ!」

「ですわ」


「え?」


どうみても僕より身長も体つきも子供で決して年上に見えない二人だが、どうやら僕のひとつ上らしい。


「ガハハ、なんだ見ない顔だが早速仲間割れか?所でお前の持ってるその剣お前が抜いたのか?ガハハお前のおかげでこの村を襲えるってことか。せめての例に苦しまないでお前は殺してやるよ」


豚の魔物は自信ありげに高笑いをする。


「あんたその天草の剣まだ持ってたの…まぁいいわ貸して!」


僕の手から天草の剣をククリは奪いとるが、剣の重さに支えきれず手を離し地面に落としてしまう。


「何こんな重いの…だけど何も出来ないあたしだって今は戦うわ」


「おい、よせって無茶だ。お前にその剣は扱えないよ」


「うるさい!よそ者のあんたは黙っててよ!一応あたしだってリムル様の子孫なんだからこんな時に逃げられないわよ!!!」


「え?リムル結婚して子供が居たのか?」


「呼び捨てんじゃないわよ!エドワード様との子。つまりあたしは二人の末裔なのよ」


頭の中が真っ白になった。


(僕とリムルの子?つまりこの子は僕の孫?歳上の?いやいやおかしいだろ矛盾してるだろ。そもそも俺とリムルはそんな関係…)


そう思った所で一つだけ引っかかることを思い出した。


僕がこの世界を救い帰る日が決まった前日。


何故かカウラとリムルに村の最高の酒と言われ、半ば無理矢理甘くて変な香りがする酒を飲んだ瞬間僕の覚えている記憶はそこまでで、気が続けば翌日になっており何かぎこちない二人の反応を思い出した。


「あいつら盛りやがったな!!!!ってことは…」


「ククリ私もイリス様の子孫私も手伝いますわ」


「………」


「ガハハ、なんだお前らやるってのか?良いだろ少しだけ相手してやろう。お前ら遊んでやれ!殺すなよ?」


「了解」


横に居た豚の魔物の配下5体ほどが僕達に向かって攻撃を仕掛けようとしていた。


一方の二人は天草の剣を震えながら持つのがやっとで、決して戦える状況ではなかった。


「はぁ…向こうの世界ではひとりぼっちで、こっちの世界でもひとりぼっちだと思ってたら歳上の孫達か…」



「あんた何言ってんのよ!逃げなさいよ!あいつらがもう来るわよ」

「早くするのですわ」


「まぁ守る物が出来ただけましと言えるか。おいお前らそれはそう使うんじゃねーよ」


ヒョイと震える二人の手から天草の剣を取り上げ、二人の一歩前に出る。


「なんだこいつ、女の前でカッコつけてやがる。いい気になるなよ、八つ裂きにしてくれる」


一斉に豚の魔物が手に持つ棍棒を振り下ろし襲いかかる。


「雑魚が喚くなよ」


僕は天草の剣を真横に一直線になぎ払うと、5体同時に豚の魔物の胴体を一刀両断させる。


「流石神獣ユニコーンの角から作られた天草の剣。切れ味も1000年たってもかわらないとはね」


「あ、あんた何やったのよ!?」

「凄いですわ」


「何って?切ってやったんだよ」


「そうじゃなくてなんでその剣をあんたそつなく使いこなしてんのよ」


「だから言ったろ?勇者エドワードだって」


「だって勇者エドワード様は1000年も前の話で…」


ククリが言いかけた所豚の魔物が割って入る。


「ガハハ、勇者エドワードだと1000年前の英雄がこんな所に居るわけねーだろ。確かに腕は立つようだがここには2000体程の軍勢がいる。流石に貴様とは言えどうにもならん。いくぞお前たち」


唸り声や叫び声を一斉に上げ、筒煙をあげながら軍勢が一気に攻め立てる。


「あんたとはいえこの数は無理よ。ここは一度逃げて。ここはあたし達でどうにかするから村の皆をお願い」

「私達の村の皆を守ってほしいのですわ」


「何言ってんだよ。この天草の剣の本当の力見せてやるよ。風剣!」


天草の剣に風の加護の力を込め、剣の周囲に風の膜が出来上がる。


「1000年前にカウラとリムルと魔王退治に出掛けて、今度はその孫達を守るか。まったく我ながら破天荒な人生だと思う。だけどそんな人生も悪くないかもな。斬り裂け!鎌鼬!」


剣に込められた風の守護をなぎ払うと同時に開放する。


「おいククリイリス。少しこっちに来てくれないか?」


僕は振り返り二人を呼ぶと、二人が近づいてきた所で優しく抱きしめる。


「ちょ…あんた何やってんのよ!前見さないよ前!」

「敵がもう目の前に居ますわ…戦わなきゃですわ」


「いいからいいから」


その時あたしとイリスはこの光景を二度と忘れないだろう。


2000物数の軍勢が今にもあたしたちに攻撃を浴びせようとしている瞬間、あたし達の背後から物凄い風が押し寄せ目の前に居る魔物めがけて飛んでいった。


開いた口が塞がらないとはこういう事を言うのだろうか。


一瞬の出来事だった。


2000もの数が一瞬で胴体から体が裂けて絶命したのだから。


「よしもう大丈夫だ。村に帰ろうか」


「な、な、なにが…起こった…のよ」

「皆一瞬で死にましたわ…」


「だから言ったろ?俺がかつてこの世界を救った勇者エドワードだって。帰ってきたんだよこの世界に」


この魔族に殆ど支配された病み切ったこの世界に、今日この日を持って一筋の光が生まれたんだと思った。

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