酒肴
静まり返った村の広場の真ん中で僕はただ何も考えずぼーっとしていた。
ククリの最後の言葉「1000年前に亡くなった人をどう連れて来いって言うのよ!」この言葉が頭から離れないでいた。
「1000年前に亡くなった人?カウラとリムルが死んでいる?嘘だよな?嘘だと言ってくれよ…なぁ二人共…」
泣き縋るような声で二人の像に問いかけるが、僕の声に二人の像は応えることもなく、ただ無情に時が過ぎていき辺りは薄暗くなっていた。
「僕が15歳の時に僕の居た元の世界に戻って見ると300年、そしてまた再びこの大地に足を降ろしてみると1000年そんな馬鹿げた話があるか!!!」
ドンッ!
拳を地面に叩きつけて怒りを痛みで誤魔化すものの、それは一瞬の開放でありすぐに悲しみが押し寄せてくる。
「僕はあの世界では一人ぼっちだった。今度は、今度こそは三人で幸せにと思っていたのに君たちは死んでいてこの世界でも僕は一人ぼっちだというのか?」
泣きいりそうな声を上げながら二人の像に触れてみるが、人の温もりはなく冷たく血が通っていないことが更に悲しみを一層強くさせる。
確かに卑怯といえば卑怯である。
勝手に二人を置いて元の世界に戻っておいて、また戻ってきたら都合よくまた三人などと都合良いにも程がある。
「だけど、それでも僕は君たち二人に会いたかった…こんな事になるくらいだったら君たちを置いて帰らなければよかった」
後悔が風と共に押し寄せ自分自身を押しつぶそうとする。
今の僕は抜け殻で死んでいるも同然だった。
「いや寧ろ死んでしまったほうが楽じゃないか…」
カウラやリムルだけではなく恐らくこの村中僕のことを知ってる者など居なく、僕が知らないものだらけにもうこの世に未練なんてなかった。
「最後に酒でも飲みたいけど酒なんて…そうだ。あるじゃないか。僕が住んでいた家の床下に!あの胡散臭い商人から買い取った一生腐らない果実でつけた永劫酒が」
僕はこの場からかけ出して自分の家に土足で上がり込み床下を確認する。
「あった…まだあった」
ほこりかぶっているが丸型の大きな瓶にコルクでしっかりと蓋が締められており、瓶を軽く揺すってみるとちゃぽちゃぽと液体の音が聞こえ蒸発していないのがわかった。
「1000年漬けの酒か酒好きの二人が聞いたら僕を殺してでも奪いとるだろうな」
今この瞬間を忘れられるなら今の僕は体中麻痺する毒でも飲むであろう、それほどまでにこの床下に隠されていたこの永劫酒がありがたかった。
見た目は薄紫色の綺麗な果実の色だが、流石に1000年もつけられていると平気か?と一瞬躊躇したが口いっぱいに酒を頬張り一気に流しこむ。
「うぐぅえ」
案の定と言うべきかやはり腐っており、僕が生きてきた中でもっともまずい酒をであることは確かであったが、今はそんな品物でも酔う事ができるのであるならばとガブガブとひたすら飲み続けた。
カウラとリムルのことを必死で酒で誤魔化すように、飲んでは吐いて飲んでは吐いてを何度も繰り返し続けいつの間にか眠っていたようで、鳥達の声に起こされ目が冷めた時には朝になっていた。
「うぇ~頭痛ぇ…なんだこの酒、味だけじゃなくて二日酔いまで残していくのかよ」
口の中一杯に腐った味が充満しており、空気を吸うそれだけで吐きそうになる。
しかも部屋はグチャグチャに荒れ放題なっており部屋の所々刀傷で広がっていた。
「更に悪酔いもついてくるとはたまったもんじゃないな…」
頭を押さえながらもう片方の腕に握られている天草の剣をぼーっと眺めていたら足音ともに扉の前で声がする。
「今日もエドワード様に平和と無事のお祈りを捧げなきゃ。ん?あれ?なんか変な臭いがするけどなんだろう?」
ドアがゆっくりと開きそこで茶色の短い髪の少女、ククリと目が合う。
「お、おはようございます」
僕はぎこちない笑顔を向けて挨拶をした。
「あ、あんた何でまだここにいんのよ!しかもこの部屋の散らかりよっ…」
そう言いかけた所でククリは僕が握っている天草の剣に視線を向けると一瞬怒ったような表情を浮かべそして大粒の涙を流した。
「お、おい確かに部屋を荒らしたのは悪かったけどそもそも自分の家で暴れて何が悪いんだよそもそも泣くことか?」
「あんた今その右手で握ってる者の事の重大さわかってるわけ!?」
震えながら怒り声でククリは泣きながら僕の顔を見る。
「なんで天草の剣があんたに抜けてしまったかはわかんないけど、それがなんで聖剣って言われてるかわかってんの!?その聖剣の結界のおかげで周囲の魔物は近づけないで居たの。でもあんたが抜いちゃった以上もうじき魔物がこの村を襲いに来るわ!」
「何言ってるんだ?もう魔族は居ないだろ?俺達がちゃんと魔王を討伐したんだから」
「あんたまだ言う気?…でももういいわ。この村はもうすぐ終わる。あたしはあんたを一生許せないけど、この村の問題をあんたに押し付ける気もない。今なら間に合うからあんたは自分の居た場所まで逃げて」
そう言い残すと泣きながらククリは走り去っていった。
「おいおい、2年の歳月だと思っていた日から実は1000年立っており、更に魔族まで復活だ?どんな冗談だよ。本当に笑えないっての」
その場でことの成り行きが少々理解できず混乱していると、大きな悲鳴や叫び声が聞こえてきた。
「ま、魔族が来たぞ!!!!!!!」
「に、逃げろ!!!!!!」
辺りは一斉に悲鳴や怒号がけたたましく聞こえ、一斉に僕の部屋の前を子どもと老人たちが足早に駆け抜けて行った。
人々の逃げ惑う姿をじっと凝らすが、ククルとイリスの姿が見られず僕は嫌な予感がする。
「まさかあのバカたち魔族とやりあってんのかよ!」
僕は聖剣片手に広場の入り口に向かった。