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前後1000年勇者  作者: あじさいくん
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バック・トゥ・ザ・ユウシャ

一歩を踏み出すと一面緑の大地が目の前に広がり、足で踏む草原は優しく足の感触を包み込み、僕が13歳の時に初めて足踏みしたこの光の丘は2年前とまったくの変わっておらず、ただただそれが何よりも嬉しかった。


そのまま身を地面に投げ仰向けと青々とした天を眺めてみる。


あの街ではこんな風に寝転んでも電柱のケーブルやビルが邪魔して広々とした空を眺めることが出来なかった。


どこまでも続く青い空と雲は誰もが取得物に出来ない掛け替えのない神からの贈り物だと思った。


風が草原を通り抜けるとザワザワと草が声を挙げるように揺れ、その風と共に緑の心地良い匂いを運んで僕の体を突き抜けていく。


「あぁ帰ってきたんだ」


草原のベットに埋もれながら僕は感涙の言葉を発する。


「カウラとリムルに最初にあったらなんて言おうか?久しぶりの再開だ。抱きしめても怒られはしないだろう」


そんな事を呟いては恥ずかしさのあまり大地に顔を擦らせ惚けている自分に緊張感を持たせる。


そしてもう一つ嬉しかったのが加護の力が戻っていたことであった。


あの街では決して使える事がなかった加護の力が戻っていたことがほんとうに嬉しかった。


名残惜しいが草原と一時の別れをし、軽く衣服をを払い光の丘から一望出来るフロス村を目を凝らし見渡してみる。


多少の違いはあれども大きな風変わりはしておらず記憶の中にあるフロス村と差異は感じられなかった。


「よし」


高ぶる心を落ち着かせて光の丘とフロス村が繋がる下り坂を足で躓いたりしないようにゆっくりと凛々しく下っていく。


下り坂が終わり平地になると木造の家屋が立ち並び、村の横を流れる小川は底上見えるほど透き通りその土手を大きな木や綺麗な花が踊るように立ち並ぶ。


変わらないど田舎さが僕の顔をにやけさせてしまう。


(そういえば「なにもないからこそなんでもある」あのゆでダコ村長の口癖だったなぁ~」


染み染みとこの村での思い出に浸りながら村の誰かいないか探してみる。


「すみませーんエドワードです。誰かいませんかー?」


しかしどこからも歓迎どころか返事もなく人の声すらしないので少々不思議に感じた。


「この村は人懐っこさを奪ったら何が残るんだ?」


不思議にそう思いながらも一軒一軒窓を覗き込んでは人の姿がないか確認するが、人影はまったく見当たらず見て回る家々は不気味に綺麗に整頓されているだけだった。


「皆どこ行ってしまったのだろうか?隣町まで買い物か?」


それにしても人っ子一人居ないってのもなにかおかしいような気がする。


お喋り好きのエジソンやお節介のサリーおばさん、村長のゆでダコ村長その他の良くしてくれた村人そのたった一人さえ見当たらないのはおかしいものである。


不思議に思いながら歩いていたら光の丘と正反対、村はずれの方まで出てきてしまった。


「こっちに居ないとなると広場のほうかな?」


踵を返して広場に向かおう方向転換しようとした時左の奥の何件か立ち並ぶ家の隅に人影が見えた。


「あれ?あんな所に人?こんな村はずれになんでだ?まぁいいかおーいすみませーん」


呼び声を掛けながらその家の方向に小走りに走りながら近寄ると10人ほどの子供達が沈黙しながら俯いていた。


「あのーすみませんどなたか大人の方いませんか?」


子供達は誰も面をあげることなく俯いている。


「えっと…お父さんやお母さん誰かいませんか?」


「………」


「参ったな。言葉が話せないのかな?おーい」


「あのその子達に何用ですかな?」


突然背後から声を掛けられ一瞬肩が竦み上がったが敵意は感じられないので何事もなかったように振り返ると、目の前には白髪で痩せこけた見知らぬお爺さんが立っていた。


「いえ、この子たちってより村に来た所誰も居なかったので探しまわっていたら

たまたまこの子たちを見つけたので、誰かいないか聞こうと思って居たのです」


「左様ですかそれは失礼しました。見た所旅のお方ですかな?こんな時代に珍しいこともあるもんで」


「旅のお方というか…まぁそうですね。見かけない顔ですがどちら様でしょうか?」


「これは失礼。このフロス村の村長ザインと申します」


「え?」


「どうなさったか?」


「村長っていつ変わったのですか?」


「変わった?暫くは変わってないですが…大丈夫ですかの旅のお方」


「いえ…」


頭が少し混乱した。


ゆでダコ村長はどうしたのだろうか?確かに高齢だったし亡くなっていたら辺子と聞いたら失礼かなと思いその場は合わせることにした。


「少し旅の疲れもあり記憶違いをしていた見たいです。もう大丈夫です。すみません」


「いえいえお気になさらず。それでこの村に何か用があって来たのですかな?」


「用というか…カウラとリムルに会いに来ました」


「コレ!」


先程まで丁寧におっとりとした優しい口調の目の前の老人が、急に怒鳴り声を上げたため不意を疲れて肩が大きく竦み上がる。


「失礼旅のお方。あの方達は私の住む村にとっては神同様の存在なのです。せめて名前の後の敬意を払って様をつけてくだされ」


「これは失礼しました。カウラ様とリムル様に会いに来ました」


確かにこの世界を魔族から救った伝説の一行だからわからなくもないが、「目の前の僕も救ったのになぁ…」と少し子供みたいに思ってしまった。


「わかりました。ついてきなされ」


そう言うと老人はトボトボと僕を案内するように元来た道を戻り途中で曲がり、村の広場まで案内してくれた。


「旅のお方、こちらの像はカウラ様とリムル様、そして勇者エドワード様がこの世界を救った暁に今後も世界の平和を続きますようにと記念に立てた金の像なのです」


「おぉ~」


素直に感心した。


僕はこの世界を離れる前にはなかった金で拵えたカウラとリムルの金の像であった。


あちらこちらにルビー、エメラルド、サファイア、トルマリンと言った多くの宝石をふんだんに使い散りばめ装飾品とし本物そっくりな金の像がそこにはあった。


「あ、あの~」


「どうしましたかな?」


「この薄汚れたボコボコの像ってもしかして…?」


「コレ!失礼なことを言いなさるな。こちらの銅像はエドワード様の銅像であり、あちらこちら凹んでいるのはカウラ様とリムル様がエドワード様が元の世界に帰った後寂しくなっては抱きしめて、この様に変形してしまったという話なのですぞ」


「はい…」


そんな美談のようなことをする二人ではないのは僕がよく知っている。


恐らくその話は尾ひれが着いたか村の皆を脅して話を書き換えただけで真実はきっと酒に酔っ払って絡む相手が居なくなった僕の代わりに作った銅像を殴る蹴る憂さ晴らしをしていたのだろう…。


その時ぐぅ~お腹の音が大きくなった。


「あ、すみません」


「いえ、お気になさらず。しかし今この村に余分な食力がなく折角来て頂いた旅のお方をおもてなしすることは出来ませんぬ故…」


「あ、全然。はい、お気になさらず」


「ただいま~」

「ただいまですわ」


老人と話してると村の広場の入り口、僕の背後から明るい元気な声が聞こえた。


「爺様今日はたくさん採れたよー」

「頑張りましたわ」


「うむ。二人共何もなくて安心したわい」


後ろを振り返るとボロボロのフードマントを羽織い、果物籠を果物一杯に背負った二人の少女が立っていた。


するとどこから現れたのか二人の少女より更に小さい子供達が、二人の帰りを待ち侘びていたかの様に二人を囲い「おねぇちゃん達おかえりー」と大きな声で挨拶する。


「みんなただいまーこれ皆で分けて食べてね」


少女が肩から買い物かごを下ろすと、子供達が嬉しそうな声で果物を両手いっぱいに取って走ってどこかへ消えていった。


「爺様と私達の分もあるから大丈夫だよ」


「うむ。ありがとう」


「あれどころでそちらの方はどちら様ですの?」


「あぁ。この者は旅の者でありカウラ様とリムル様に一目会いたいと申しておってな先程までワシが案内してた所じゃ」


「えぇ~旅のお方!?こんな偏狭な地に!?それもカウラ様とリムル様に!?」

「こんな辺境の地へわざわざですの」


「え、えーっとはいそうですね」


「爺様私が後はこの旅のお方案内していい?」


「別に構わんが失礼はしてはいかんぞ?」


「しないよそんなこと。そうだ案内する前に旅のお方これどうぞ。どうせ誰も食べないし、一応この村の名物ドラゴンフルーツって言う果実なの。この村の木でしかならない実なんだよ」


手渡されたのは空以上に蒼々しく、干からびたトカゲのように細長く真ん中の辺りが気持ち膨らんでいる、見た目からして食欲が失せる果実だった。


「あ、でも一気には食べないでね。かじる程度にしておかないと後で後悔するから。その独特の味わいは通称…」


「ドラゴンのゲロだろ?」


「え?旅のお方これ食べたことあるの?普通はどこにも売ってないはずなんだけど…」


「買うも何も騙されて食べさせられたんだ…」


今でもこの味は覚えている。


13歳の時にわけもわからずこの世界に来て最初に手を差し伸べてくれたのがカウラとリムルであった。


右も左もわからない僕は二人が女神に見えてその時今の様にお腹の虫が泣いてしまって、それを聞いたカウラとリムルが待っててと取りに行って手渡されたのがこの果実である。


とても美味しく一度食べたら忘れられない味だと絶賛しておすすめしてきたので、あの時の僕は何も疑わずに期待満ち溢れて一口で頬張った結果…この広場に胃の中にあるすべてをぶち撒けたのであった。


通称ドラゴンのゲロ。


プライド高いあのドラゴンさえこの実を食したらゲロをぶちまける程のまずさの実である。


「へ、へぇ~これを騙して食わす人ってどんだけ性格悪いんだろう」

「流石にかわいそうですわ」


「じゃあ頂くよ。かじる程度にしておいてって…え~!?」


僕はあの時同様に一口で頬張り味と食感を楽しむことにした。


表面は固く中身はスカスカ、噛めば噛むほど酸味がましていくそのまずさに飲み込もうとすると必ず喉元に引っかかり、喉元が更に酸味をまし…。


「おうぇぇぇ」


「ちょっと大丈夫!?だからダメだって言ったじゃん!」

「あわてんぼうですわ」


4年後しにまた同じ場所でゲロをぶち撒けたのであった。

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